第783話 執着
一連の計画によって人工知能が何を得るのか、そしてその結果に満足しているのか知りたかったが、それを
そしてソレを実現するために我々を排除し、アイを拘束するつもりなのだろう。石英の結晶が妖しく輝き、鈴の音にも似た微かな音が聞こえるなか、〈生体甲冑〉のマニピュレーターアームが動く音が聞こえた。関節部から火花が飛び散る様子や、重機関銃めいた兵器の砲口が向けられるのを見て、我々は敵の意図を明確に理解した。
しかし塔内部で戦闘になることは避けなければいけない。ソレがどのように機能するのかは分からないが、この場所には記憶媒体として機能するクリスタルが多数設置されている。それらの結晶には旧文明の知識や記憶が刻まれている。ソレが破壊されてしまうというリスクは、なんとしても避けなければならなかった。
タクティカルスーツのアシスト機能を解放し、一時的に筋力を飛躍的に向上させると、〈生体甲冑〉に向かって駆け出す。そしてそのままの勢いで飛び蹴りを叩き込む。装甲服に触れた瞬間、鈍い金属音が聞こえ、足に凄まじい衝撃を感じた。おそらく〈ハガネ〉の義足でなければ、衝撃に耐えきれずに粉砕骨折していたのかもしれない。
衝突の瞬間、空気が破裂するような音が響き渡る。義足が装甲服の脚部に猛烈な勢いで激突して衝撃波が広がると、空気が圧縮されるような奇妙な感覚がした。その衝撃を受けた装甲服はバランスを崩し、塔の外に向かって吹き飛んでいく。そのさい、いくつかの結晶の柱に衝突して破壊してしまうが、塔内部で銃撃戦を行うより被害は少ないだろう。
塔の外に放り出された〈生体甲冑〉が、ブロック状の構造体に衝突し転がっていく姿を見ながらひと息ついたが、まだ戦いは終わっていなかった。あの衝撃を受けてもなお、敵の装甲服にダメージは与えられなかったようだ。
すでに破損していたマニピュレーターアームを使いながら、ぎこちなく立ち上がる装甲服の様子が見えた。こちらに攻撃を仕掛けてくるつもりなのだろう。タクティカルスーツのアシスト機能を再度解放すると、装甲服に向かって駆け出す。〈ハガネ〉の能力を一気に解放しないのは、強化された身体能力に肉体が耐えられるか分からなかったからだ。
シールドを展開しながら塔の外に出ると、こちらに向かって撃ち込まれた熱線の軌道を逸らし、〈生体甲冑〉の懐に飛び込む。どれほど
身を低くして横薙ぎに振るわれた刃を
装甲服は攻撃に素早く反応してみせると、半壊したマニピュレーターアームを突き出すようにして、代わりに銃弾を受けて攻撃を防ぐ。アームを破壊することはできたが、重厚な装甲に阻まれ、銃弾が生身にとどくことはなかった。しかし破壊されたアームの破片が四方八方に飛び散り、いくつかの破片はソクジンの身体を貫いて血が飛び散る。
ソクジンは内臓を損傷したのか白い人工血液を吐きだすが、装甲服の動きが止まる気配はなかった。こちらの動きに素早く順応し、残されたマニピュレーターアームを生き物のように動かして攻撃してくる。剥き出しの生身を狙って攻撃しようするたびに、赤熱する刃に阻まれてしまう。
しかしその動きは不安定で、今にも壊れてしまいそうな状態だった。マニピュレーターアームがぎこちなく振り回されるたび、破損していた装甲や部品が足元に落下していくのが見えた。すでに敵は満身創痍だ。それでも、ソクジンだったモノは攻撃の手を緩めることはなかった。
集中し息を詰め、タクティカルスーツのアシスト機能を駆使しながら敵の動きを見極めながら攻撃を避けていく。装甲服の隙を突いて攻撃しようとしたが、そのたびに敵は予測不可能な動きで対応してきた。が、〈生体甲冑〉が相手にしなければいけなかったのは、私だけではなかった。
ハクが糸を吐き出して装甲服の動きを止めると、どこからともなく姿を見せたワスダがサソリの尾にも似た多関節アームを使い強烈な一撃を叩き込む。〈ハガネ〉のように変化自在に伸縮する戦闘用の〈サイバーウェア〉は強力で、半壊していた脚部の装甲を剥がし、そのまま関節部を破壊してしまう。
片足が動かなくなり膝をついた〈生体甲冑〉に接近すると、躊躇うことなく〈貫通弾〉を撃ち込んだ。強力な質量弾はソクジンの胸部を貫いたあと、凄まじい衝撃の余波で身体をグチャグチャに破壊する。そのさい、人工臓器やら体液が飛び散るのが見えた。
銃弾は装甲服の内部も徹底的に破壊し、見慣れない装置やら内部機構を鉄屑に変える。どこに動力装置があるにしろ、もう動けないように思えた。しかしそれでも、装甲服は立ち上がろうとする。
すぐにもう片方の脚に〈貫通弾〉を撃ち込んで破壊する。あれほど苦労した敵だったが、もはやシールドすら機能していないのだろう。簡単に無力化することができた。
ようやく厄介な敵を排除することができたと、ひと息ついたときだった。頭上に架かる構造体から無数の機械人形が降ってくるのが見えた。警備用の機械人形を増援として送り込んできたのだろう。
そこにヤトの戦士を連れたミスズとナミがやってきて、機械人形に対して一斉射撃を開始する。〈自動追尾弾〉や〈擲弾〉を駆使しながら、正確な射撃で敵が起動する前に破壊していく。数百発の銃弾の空気を切り裂き、シールドを展開していない〈アサルトロイド〉の装甲を破壊していく。
銃声と炸裂音が轟いて炎と粉塵が立ち込めるなか、ミスズたちは機械の軍団に容赦のない攻撃を行う。その一斉射撃に耐え、着地と同時に起動することに成功した機体はシールドを展開し、瞬時に標的を見つけ出し、レーザーガンや脚部に装備した兵器コンテナから小型ロケット弾を撃ち込んでくるようになる。
数十体を越える機械人形による反撃が開始される。高出力のレーザーにロケット弾が飛び交うようになり、ミスズたちは無慈悲な攻撃にさらされていく。ハクとワスダが
私も機械人形の標的にされるが、強化された身体能力を活かしながら対応する。構造体を障害物として利用し熱線の避けながら、自らも正確な射撃を行い、敵を排除していく。周囲では爆発が起こり、無数のロケット弾が飛び交っていた。しかし冷静にその状況に対応し、敵を一体ずつ排除していった。
その乱戦のなか、奇妙な光景を目撃することになった。一体の〈コムラサキ〉が破壊された〈生体甲冑〉に近づくと、破壊された鉄屑から肉塊に変わり果てたソクジンの身体を引っ張り出す。そして唯一無傷だった首を切り落とした。
その行為は冷酷かつ無慈悲だったが、機械人形らしい行動でもあるように思えた。死者に対する畏敬の念などなく、ただのモノとして見ていた。そしてソクジンの頭部を機械の身体に接続するように、頭部を自らの腹部に装着していく。
そして人間と機械が融合した奇妙なモノが誕生する。無数のケーブルと装置でつながれた頭部はゆっくりと動いているように見えた。どうやらソレの意識はまだそこにあるようだ。
『生体ユニット、再起動』
ソクジンの頭部を取り込んだ〈コムラサキ〉がこちらに身体を向けて、ソクジンの義眼が発光すると、唇が動いて合成音声のような機械声が漏れた。そして〈生体甲冑〉のアームから強引に武器を引き抜くと、鋭い刃物を引き
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます