第767話 ガイノイド
女性らしい優美な曲線を強調する半透明のスキンスーツを身にまとった〈ガイノイド〉は、その艶かしい肢体を滑らかに動かしながら接近してくる。その姿は魅力にあふれているが、彼女の瞳には機械特有の冷たい光が宿り、敵意を示すように赤く発光していた。
超震動ナイフを構えたまま僅かに重心を動かすと、その微かな動きに彼女は素早く反応し、ライフルの銃口をこちらに向けた。
小気味いい金属音を鳴らしながら撃ち込まれる銃弾が通路に反響し、壁面パネルを貫き、火花を散らしながら金属片を撒き散らしていく。壁や床は小さな弾痕で埋め尽くされ、整然としていた通路は瞬く間に破壊されていく。攻撃のため〈鬼火〉を形成しようとしていたが、すぐにシールドを展開して弾道をそらしていく。
シールドによって銃弾が無力化されたことに気がつくと、彼女はライフルを捨てるようにして手放し、腰に吊るしていた警棒に手を伸ばした。
その特殊警棒は暴徒鎮圧用の装備を改良したものなのだろう。軽量で丈夫な合金素材でつくられていて、形状はシンプルで棒状の本体は先端に向かって細くなっていて、振りやすさと打撃力を両立しているように見える。
メタリックな質感を持つ特殊警棒の中央部には、高圧電流を発生させるユニットが内蔵されているのか、つねに内部発光している様子が確認できた。どうやら電流はグリップのスイッチで容易に操作できるようになっているようだ。
その凶悪な装備を手にした〈コムラサキ〉は、人間離れした身体能力を発揮しながら駆けてくる。彼女の動きは機敏で、カーボンナノチューブの筋繊維で強化されているおかげなのか、驚異的な速度で接近してくる。その動きは滑らかで、まるで猛獣を相手にしているように自然な動きだった。
危険を察知すると、タクティカルスーツのアシスト機能を解放し、彼女の攻撃を
おそらく格闘術に関する身体制御プログラムをインストールしているのだろう。気がつくと彼女の攻撃に圧倒されてしまっている。
電流を帯びた警棒が振り下ろされるたびに、無機質な金属パネルに不気味な光を反射するのが見えた。通路の先では仲間たちが警備用の機械人形と激しい戦闘を繰り広げていて、銃声と炸裂音が響き渡っていた。
それらの銃声と爆発音が空気を震わせるなか、特殊警棒を手にしたガイノイドは素早く動き、こちらに向かって突進してきた。
彼女の力や身のこなしは人間の限界を超えていて、その攻撃を躱すことだけに集中する必要があった。もはや反撃する余裕すらなかった。彼女は、ほとんど目に見えない動きで特殊警棒を振り回して電流を放ちながら攻撃してきた。スーツの能力を使って何とか攻撃を躱すと、そのまま身体をくるりと回転させ回し蹴りを叩き込む。
しかし〈ガイノイド〉は、まるで予測していたかのような素早い動きで蹴りを避け、再び特殊警棒で迫る。戦闘しながら敵対する人間の動きを学習しているのかもしれない。〈コムラサキ〉の動きは、水中トンネルで遭遇したときよりも格段に良くなっていた。
役に立たない超震動ナイフを投げつけたあと、状況を打開するため、〈ハガネ〉のスーツを操作して〈ショルダーキャノン〉を形成し、至近距離で〈貫通弾〉を撃ち込む。さすがにその攻撃は予測していなかったのか、彼女は目を大きく見開いた。
けれどそれでも彼女は素早く反応し、弾丸が衝突する瞬間、強力な磁界を伴うシールドを発生させて弾道をねじ曲げた。光と衝撃波が広がり、激しい衝撃を受けるが、それに構わず二発目を撃ち込む。
すると彼女は手にしていた特殊警棒で直接弾丸を叩いた。その瞬間、破壊された警棒から凄まじいエネルギーが放出され、雷を思わせる電光がほとばしる。
凄まじい衝撃を受けて後方に吹き飛ばされるが、すぐにスーツの形状を変化させ、背中に二本の多関節アームを形成していく。それは蜘蛛の脚のように自在に動かせて、先端には旧文明の鋼材すらも切り裂く鋭い爪が形作られる。
先ほどの衝撃で吹き飛ばされていた〈コムラサキ〉も体勢を整えると、壊れた警棒の代りに、近くに落ちていたライフルを拾いあげて〈自動追尾弾〉を乱射しながら接近してくる。
撃ち込まれた銃弾を防ぐためにシールドを展開し、腕を交差させて頭部に対しての的確な狙撃を防ぐ。そして接近してきた機械人形に多関節アームを伸ばして襲い掛かる。
鋭い爪で彼女の身体を引き裂こうとするが、彼女は紙一重のところで避けて、そのまま後方に飛び退く。不意打ちのつもりだったが、爪は空気を切り裂くだけだった。〈ハガネ〉に多関節アームの制御を任せると、そのままライフルを構えて銃弾を叩き込んでいく。
彼女はシールドを展開しながら攻撃を避け続けていたが、さらに二本の多関節アームを形成して、合計四本のアームで攻撃するようになると、さすがに攻撃を防ぐことも避けることもできなくなる。〈コムラサキ〉が見せた隙を突いて、さらに激しい攻撃を繰り返す。
通路には鋭い打撃音と衝撃による振動が響く。その緊迫した戦闘のなか、緊張感を緩めることなく、〈ハガネ〉が操作するアームと一体化するような攻撃を繰り出していく。
そしてとうとう彼女の首を
そこに機械人形の襲撃を退けたヤトの戦士たちが駆けつけてきて、頭部を失くした〈コムラサキ〉に対して一斉射撃を行う。
彼女はシールドで身を守るようにして、その場に立ち止まる。その隙に多関節アームを液体金属に戻し、それを使いながら〈鬼火〉を形成していく。杭のように鋭くなったことを確認すると、〈コムラサキ〉に向かって撃ち込む。
音もなく発射された飛翔体は、しだいに目にもとまらないほどの速度に達し、残光の尾を引きながら標的に向かって飛んで行く。そしてそのままシールドを突き破ると、機械の身体を容赦なく貫いた。
攻撃は一度で留まることなく、飛翔体は変化自在に軌道を変えながら、〈ガイノイド〉の肉体を破壊していく。それは太陽の周りを回る小さな天体のように美しくもあり、同時に恐ろしいものでもあった。しだいに金属部品やら人工筋肉が露出していき、ひどく痛々しい姿になっていく。
それでも彼女は攻撃から逃れようとしていたが、〈鬼火〉の動きは速く、そして容赦なく彼女の肉体を打ち砕いていく。〈コムラサキ〉の破壊を確認すると、アイとジュジュに声を掛けて、すぐにその場から離れた。
敵は替えのきく機械人形であり、すぐに別の機体が用意されるかもしれない。増援がやってくる前に移動したほうがいいと判断した。
先行していたミスズたちと合流すると、カグヤが表示してくれた経路に沿って移動する。ハクがワスダたちと一緒に戦っている姿が見えてくると、すぐさま
敵の殲滅を確認すると、白蜘蛛の姿を投影していた〈サイコロデコイ〉を回収してハクに手渡す。今回は相手が悪かったが、デコイが活躍する場面はあるだろう。
通路の先に目的の〈制御室〉が見えてきたときだった。高い天井から複数の〈コムラサキ〉が落下してくるのが見えた。案の定、アイの機体と同等の改造が施された機体だった。
たった一体破壊するのにあれだけ苦労したのに、複数の機体を相手にしないといけないと考えるだけで頭が痛くなる。そのまま無視して〈制御室〉に駆け込むのが賢明だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます