第653話 作戦開始〈収容所〉
攻撃が始まれば、すぐに存在を察知されてしまうだろうが、まずは狙撃で数を減らしたほうがいいだろう。
「カグヤ、
敵兵士から入手していたライフルを〈収納空間〉に放り込むと、代わりに狙撃用に調整されたレーザーライフルを取り出す。
電源を入れシステムを立ち上げると、インターフェースに〈センリガン〉の企業ロゴが表示され、すぐに収容所の周囲を巡回していた兵士の姿が拡大された状態で映し出される。カグヤの支援によって、すでに兵士たちには〝敵戦闘員〟だと示すタグが貼り付けてあり、赤色の線で輪郭が縁取られているため瓦礫の中で見つけ出すのも難しくない。
超小型核融合電池を所定の位置に装填し、レーザーの出力を調整したあと、孤立していた兵士に照準を向ける。カグヤの支援とシステムのおかげで自動的に最適な狙撃位置が表示されるため、距離の計測や風の影響を計算する必要はない。表示された地点にレティクルを合わせるだけでいい。
もっとも、レーザーライフルでの狙撃なので弾丸に影響を与える風速やら何やらを気にすることはなかった。もちろん、煙や雨には注意しなければいけないが、今はそれらの影響を心配する必要はなかった。
ライフルが微かに振動しているのを感じると、鈍い電子音が聞こえてくる。射撃の準備が整うと、ゆっくり息を吐いて呼吸を止める。カチリとトリガーを引くと、空気を震わせる特徴的な鈍い発射音と共に赤い閃光が放たれ、直後、遠く離れていた兵士の後頭部に命中する。
細い線がフルフェイスマスクの装甲を貫いて頭部を破壊したあと、兵士の
ひとり、またひとりと教団の兵士が倒れていく。やがて戦闘部隊の間で動揺と混乱が広がり、収容所の周囲が騒がしくなる。部隊が共有している〈戦術データ・リンク〉によって異変に気づいたのかもしれない。周囲を飛び交っていた監視ドローンが異常を検知するため忙しなく飛ぶ様子が確認できた。
が、こちらの位置が知られるまで狙撃を継続して敵の数を減らすことにした。環境追従型迷彩で姿を隠したまま身動きせず、カグヤから助言を受けながら物陰に潜む兵士を探し出し冷静に、そして的確に排除していく。
兵士たちは何処からともなく飛んでくる赤い閃光に警戒していたが、彼らが身を隠していた鉄板や鉄骨はレーザーによって熔解し、彼らの身体を破壊していく。容赦なく放たれるレーザーは正確に目標を捉え、敵兵士に致命傷を与えていく。
狙撃位置が簡単に発覚しないように高出力のレーザーを集束させ、絞り出すように細い光線を射出していたからなのか、やがてライフルの銃身が耐えられなくなり、赤熱し蒸気が立ち昇るようになる。
普段使用している〈M14-MP2歩兵用ライフル〉なら、銃身を交換しなくても、弾薬として消費される鋼材を利用して損傷個所を自己修復できたが、レーザーライフルにはそのような機能は備わっていなかった。
「どうやら、狙撃はここまでのようだ」
白い蒸気を噴き出していたライフルを〈収納空間〉に放り込んだあと、
『レイ、ドローンの接近を確認したよ』
カグヤの声に反応して拡張現実で投影される戦術画面を確認すると、無数のドローンが接近してきているのが確認できた。監視ドローンだけでなく、機体下部に小銃を搭載した攻撃型の含まれているようだ。
「カグヤ、あのドローンの大群を――」
『言われなくても分かってる』
彼女は支配下に置いていた敵のセントリーガンを起動させると、こちらに接近してきていたドローンを撃ち落としていく。重い銃声が鳴り響くたびに大量の弾丸と薬莢がバラ撒かれて、ドローンが破壊されていく。けれど機体の数が多く、すべての脅威を排除することはできなかった。
接近してくる攻撃型ドローンを見つめながら、素早く状況を判断して次の行動を決める。
「スモークグレネードを使うか、EMP兵器でシステムをダウンさせるか……」
周囲に煙幕を張っても、ドローンの赤外線センサーや熱感知機能で位置が発覚する可能性がある。現に迷彩は見破られてしまっていた。一方、EMP兵器を使えば、ドローンの電子回路を破壊して無力化できるかもしれない。
腰に吊るしていたユーティリティポーチから、超小型の〈電磁パルス・グレネード〉を取り出す。それはカグヤの遠隔操作を受け付けない機械人形の動きを停止させるために、ペパーミントが用意してくれた装備で、ドローンに対して充分な効果を期待できるはずだった。ただし効果範囲が狭いため、正確なタイミングで使用する必要があった。
ちなみに、ソレがどのような原理で動作するのかは知らない。なんでも超小型の〈磁束圧縮ジェネレーター〉なるモノが核として組み込まれていて、高性能爆薬を使い標的の側で爆発させ、そのさいに生じるエネルギーで強力な電磁パルスを発生させる仕組みになっているらしい。
旧文明の〈販売所〉などでは購入できず、現在では兵器工場でも製造されていない貴重な代物だったが、戦艦の〈兵器庫〉に保管されていて入手することができた。製造に関する資料も手に入れていたので、いずれ各拠点にいる部隊にも支給できるようになるかもしれない。
無数のドローンが接近してくると、球体状の小さなグレネードを握り締め、接触接続で装置を起動する。視界に適切な投下位置と効果範囲が表示されると、それを目印にしてグレネードを放り投げた。
接近する大群の真下に落下したグレネードは、甲高い金属音を立てながら破裂し、目もくらむような
ドローンの飛行に乱れが生じたかと思うと、機体から黒い煙が立ち昇るのが見えた。背中に回していたライフルを構えると、弾薬を〈自動追尾弾〉に切り替え、不安定な動きでノロノロと飛行するドローンを撃ち落としていった。
『レイ!』
視界に表示された警告と騒がしい音に反応して瓦礫の山から飛び降りる。直後、上方で爆発音が聞こえた。どうやら
転がるように着地して受け身を取ると、すぐに立ち上がって駆け出す。すでに敵はこちらの位置を確認していて、収容所の防衛線に張り付いて反撃の準備をしていた。
「カグヤ、作戦開始だ!」
『了解』
ジャンクタウンの遥か上空を旋回していた無数の徘徊型兵器がカグヤの指示を受け、次々と降下を開始する。教団が設置していた対空警戒用レーダーが異常な反応を捉え、すぐに迎撃兵器を使い応戦する。が、無人機特有の予測不可能な機動に翻弄され、すべての機体を撃墜することができなかった。
収容所の周囲に展開していた戦闘車両が次々と破壊され、入場ゲート付近でも爆発が確認できた。騒がしいサイレンが鳴り響くようになると、建物内からもぞろぞろと兵士たちが出てくるのが見えた。すぐに遮蔽物に姿を隠すと、〈自動追尾弾〉で敵を処理していく。
すでに標的用のタグが貼り付けてあったので、フルオート射撃で銃弾をバラ撒くだけで敵を排除することができた。
そこに作業用大型パワードスーツを
外見は不格好だったが、ガトリングレーザーで武装し、シールド発生装置を搭載しているので侮ることはできない。
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