第586話 襲撃 02/02


 瓦礫がれきから身を乗り出して攻撃しようとしたときだった。

 ロケット弾が発射される音が聞こえると、ほぼ無意識に障害物のかげに身を隠した。少し間を置いて、爆風と衝撃波に襲われる。どうやら略奪者たちは私を生き埋めにするため、すぐ背後の廃墟にロケット弾を撃ち込んで、建物を崩壊させようとしているようだ。


 瓦礫がれき粉塵ふんじんが周辺一帯を包み込むと、弾薬を〈自動追尾弾〉に切り替えてから、カグヤの偵察ドローンを使って敵の位置を突き止める。個人携帯対戦車砲を装備している男を見つけると、標的用のタグを貼り付けて、それからフルオート射撃で銃弾を撃ち込む。ドローンで敵の無力化を確認すると、建物の上階に潜んでいた狙撃手に攻撃を行う。


 その瞬間を狙ってロケット弾が飛んでくる。爆発のあと、十字路の上方に投影されていた巨大なこいのホログラムが消失して、崩壊した建物の壁面に投影されていたネコの立体映像も消えた。廃墟の通りには、交通規制のための警告標識や歩行者用の案内が音声付きで投影されていたが、爆発のさいに飛び散った鉄片によって投影機が破壊されてしまったのか、映像も音も消えてしまう。


 廃墟の街が奇妙な静けさに包まれると、無反動砲や手榴弾を手にした略奪者たちが足音を立てずに接近してくるのが見えた。かれらは砂煙にまぎれて上手うまく隠れているつもりだったが、赤い線で強調された輪郭りんかくがハッキリと見えていた。ライフルを構えると、躊躇ちゅうちょすることなくフルオートで銃弾を撃ち込む。


 略奪者たちがバタバタ倒れていくのを見ていると、手榴弾が投げ込まれる。内耳に警告音が聞こえるころには、すでに移動して別の場所に身を隠していた。略奪者たちは狂ったように銃弾を撃ち込んでくるが、旧文明の鋼材を含んだコンクリートほど優れた障壁は存在しない。敵の攻撃が無効化されていく音を聞きながら、偵察ドローンを使って敵の位置を特定する。


 と、そのときだった。追い詰められて必死に逃げていた略奪者たちが廃墟に入り込むのが見えたかと思うと、そこに隠していた戦闘用に改造された多脚車両ヴィードルを動かすのが見えた。


「カグヤ、レイダーたちのヴィードルが見えるか?」

『もちろん。すでに標的用のタグを貼り付けたから、いつでも破壊できるよ』

 高層建築物の間を飛行していた超小型の〈自律型兵器〉が旋回するのが確認できた。


 錆の浮いた旧式多脚車両に乗った敵が接近してくると、徘徊型兵器が急降下し高速で敵車両に接触、瞬時に自爆するのが見えた。爆発の衝撃によって、車両や略奪者たちの身体からだの一部が空高く飛ばされる。破壊された車両は炎に包まれながら建物に衝突して、瓦礫がれきとゴミのなかに埋もれる。しかしそれでも敵の勢いは止まらない。


『ヴィードルの接近を確認』

 カグヤの声に反応して簡易地図ミニマップを確認すると、三台の多脚車両が後方から接近してくるのが見えた。


「カグヤ、自爆ドローンに余裕はあるか?」

『残念だけど、あのヴィードルを破壊したら終わりだよ』

「了解。これで敵の増援が終わることを祈ろう」


 爆発とともに衝撃波が広がる。徘徊型兵器の直撃を受けた戦闘車両はバラバラに破壊され、火柱と黒煙が立ち昇る。燃え盛る車両から飛び出てきた略奪者たちは、火だるまになり地面に倒れると、想像を絶する痛みに苦しみながら息絶えていく。が、勝利の余韻よいんに浸っている時間はない。


 戦闘車両が破壊されたことで安堵を覚えたが、直後に新たな脅威があらわれた。黒煙の中から、重武装の略奪者たちが飛び出してくる。覚醒剤によって恐怖という感情を失ったゾンビのれは、死を恐れることなく突撃してくる。


 拡張現実で投影されていた〈インターフェース〉で残弾を確認すると、ライフルを構えて敵に狙いを定める。略奪者たちは、それぞれが重機関銃を構え、出鱈目でたらめに銃弾を撃ち込んできていた。


 ハガネが発生させる〈磁界〉で身を守ると、攻撃に臆することなく、冷静に敵の位置を確認してから引き金を引いて銃弾を撃ち込んでいく。ライフルの弾丸が敵の肉体に突き刺さり、肉をえぐり、骨を砕いていく。覚醒剤で痛みを誤魔化ごまかせても、破壊された肉体では立っていられない。銃弾を受けた略奪者たちは次々と倒れていく。


 しかし別の部隊が突撃してくる。ハガネの〈環境追従型迷彩〉を使用していたが、どういうわけか敵は正確にこちらを狙って攻撃してくる。敵が使用する偵察ドローンに何か秘密があるのかもしれない。けれど敵の貧弱な攻撃に慌てる必要はない、正確に狙いを定めて敵を排除していく。


 道路に積み上がる瓦礫がれきや廃車をたくみに利用しながら敵に接近する。自分自身に向けられた無反動砲の発射音が聞こえ、ロケット弾が爆発してとどろくなか、精度の高い射撃を続けた。ペパーミントも敵が潜んでいた廃墟を制圧すると、見晴らしの利く上階から掩護射撃えんごしゃげきをしてくれていた。


 黒煙の中から姿を見せた略奪者が、私に許しをうため、その場にひざまずくのが見えた。しかしそれが略奪者の策略に過ぎないことは、彼が背中に隠していたナイフで分かっていた。男の額に銃口を当て射殺したときだった。背後から接近してくる音に気がついた。


 振り返ると、まるで岩石のように皮膚を変異させた〈人擬き〉がこちらに向かって猛然と駆けてきているのが見えた。急いで銃口を向けて発砲するが、銃弾は岩のように硬い皮膚を砕くことはできたが、恐るべき生命力を持つ化け物を殺すことはできず、人擬きを怒らせるだけだった。


 まだ人擬きの存在に気がついていなかった略奪者たちが、こちらに接近してくるのが見えた。敵をまとめて排除するため、手榴弾を足元に落とすと、ハガネの能力を使って空中に飛び上がる。


 爆発音が聞こえたのは、錆びついた非常階段につかまったときだった。無防備に近づいてきていた略奪者たちを一掃することはできた。しかし人擬きは健在で、痛みにあえいでいた女の足を引き千切って口に入れていた。


 ライフルから手を離すと、太腿のホルスターからハンドガンを抜いて、人擬きの頭部に〈貫通弾〉を撃ち込んだ。弾丸が直撃したさいの衝撃で化け物の身体からだはズタズタに破壊され、手足や気色悪い内臓があたりに飛び散るのが見えた。


「カグヤ――」

 言い終わる前に彼女は質問に答えてくれる。

『近くに人擬きの反応は確認できない。でも、この騒ぎを聞きつけた変異体が接近してきているかもしれない。すぐにここを離れたほうがいいと思う』


「略奪者たちは?」

『ヴィードルを破壊されたことが決め手になったんだと思う。すでに戦う気力はないみたい。形振なりふかまわず逃げ出しているのを確認した。私たちが手を出さなくても、こっちに向かってきている人擬きが始末してくれる』


「……わかった、ジュジュたちと合流してから、ハクがめている敵の拠点に向かおう」

『了解、ペパーミントにも伝えておく』


 ジュジュたちが身を隠していた廃墟まで戻ると、小さな昆虫種族がワラワラ出てきて、小雨のなか勝利をたたえる踊りを披露してくれた。ジュジュたちは戦闘で発生した爆発音に興奮しているのか、騒がしく口吻こうふんをカチカチ鳴らしていた。互いに見たモノを共有するため、情報交換しているのかもしれない。


「それにしても――」

 敵拠点に向かいながらカグヤにたずねる。

「あれだけの数の自爆ドローンを使ってもかったのか?」


『どういうこと?』と、彼女は疑問を浮かべる。

「それほど脅威にならないレイダーギャングを相手にしていたんだから、貴重なドローンは節約したほうがかったんじゃないのか」

『それがそうでもないんだよ』

「何が?」


 質問に答えたのは、ジュジュたちにまとわりつかれていたペパーミントだった。

「あの〈徘徊型兵器〉は、私たちにとってはそれほど貴重なモノじゃないんだよ」

「というと?」


「すでに〈顔のない子供たち〉から設計図は入手してあるし、あれを製造する設備も整ってるから、すぐに数は揃えられるんだ。それに〈第七区画・資源回収場〉だっけ? あそこに行けば、ドローンの製造に必要な資材はいくらでも手に入る」


「つまり残弾を気にせず使えるのか……」

「そうだね。欠点といえば、戦闘艦の通信設備を経由して操作してるから、廃墟の街で操作できるドローンの数に限りがあるってことだけ」


「それも戦闘艦の機能が回復すれば、いずれ克服できる問題だな」

 彼女は笑みを浮かべると、太腿にしがみ付いていたジュジュを抱き上げた。

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