第585話 襲撃 01/02
高層建築物の壁面を移動する白蜘蛛を目で追いかけていると、カグヤの声が内耳に聞こえた。
『無人機の接近を確認。レイダーギャングが使う古いドローンだと思うけど、なにがあるか分からないから注意して』
視線を上げると、カグヤの偵察ドローンによってタグ付けされた無人機の姿が見えた。しかし相当な距離がある
「確認した。そこから敵の姿は見えるか?」
『旧式のライフルで武装したレイダーの接近を確認。周囲の建物にも潜んでる可能性があるから、すぐに索敵を始める』
「了解、襲撃に備えて準備する」
廃墟に隠れていた〈ジュジュ〉たちがじっと静かにしているのを確認したあと、前方からやってくる略奪者たちに視線を向ける。
かれらは薄汚れた無地の戦闘服に、鉄板や車両のタイヤを加工した粗末な防具を身につけていて、釘バットや鉄パイプなどの武器を手にしていた。彼らは立ち止まると、ニヤリと嫌らしい笑み浮かべながら周囲を見回し、それから水溜まりに向かって
「よう、さっきまでもうひとりいたと思うけど、お友達はどこに行っちまったんだ?」
私が肩をすくめると、前歯の欠けた男は吹き出すように笑う。
「兄ちゃん、言葉が話せないのか?」
「それとも」と、別の男が凄む。「俺たちをバカにしてるのか?」
「仲間はいない」
頭を横に振って答えたあと、周囲の建物に視線を向ける。するとカグヤによってタグ付けされた略奪者たちの輪郭が赤い線で強調されて建物の壁を
しかし彼らの装備を確認すると、どれも旧式の狙撃銃や自動小銃といった貧弱な装備で、旧文明期の技術で製造された火器は確認できなかった。
「野良の略奪者か」思わず言葉が口に出る。
「てめぇ、今なんて言った?」
略奪者のひとりが小銃を構える。
「見逃してくれって言ったんだ。俺はただのスカベンジャーで、あんたたちの敵じゃない」
「いいや、てめぇは俺たちをバカにした!」かれの両脇に立っていた男たちもバットやら鉄パイプを放り投げると、背負っていたライフルを構える。
「それにな!」と、男は
「てめぇが俺たちの敵なのか味方なのかを判断するのは、てめぇじゃぁねぇんだよ!」
「たしかに」
男の言葉にうなずいたあと、カグヤの声が聞こえた。
『自爆ドローンの準備が完了した。いつでも敵を排除できるよ』
どうやらカグヤの遠隔操作で、砂漠地帯から数機の〈徘徊型兵器〉が同行してくれていたようだ。
「ペパーミントは?」
『こっちも準備できたよ』
近くに隠れていた彼女が略奪者たちに銃口を向けるのが見えた。
「はぁ? ぺぱぁがなんだって?」
略奪者のひとりが間抜けな声を出したときだった。かれらの背後で激しい爆発音が聞こえ、廃墟に潜んでいた略奪者たちの
「て、てめぇ、この野郎がぁ!」
砂と塵が舞い上がり、敵の自動小銃から鋭い銃声が鳴り響く。すかさずハガネを起動してフルフェイスマスクで頭部を
と、
すぐに迷彩を起動すると、地割れによって出来ていた道路の
偵察ドローンによって作成された
小気味いい金属音を鳴らしながら発射された銃弾は、
脅威の排除を確認したあと、道路の溝から身を乗り出して牽制射撃を行い接近してきていた敵の動きを止める。そこに徘徊型兵器が次々と急降下して敵を吹き飛ばしていく。
炸裂音が廃墟の街に響き渡る。けれど略奪者たちは覚醒剤を使用しているのか、冷静な判断ができず、我々に対する攻撃を諦めようとはしなかった。全滅するまで戦い続けるつもりなのだろうか。
圧倒的に優位な状況だったが緊張感を持ちながら戦闘を続ける。どこからともなく手榴弾が放り込まれると、地割れから出て近くの
ペパーミントは標的にされるたびに素早く移動して、息を潜め、集中力を切らさずに戦闘を継続していた。略奪者たちに勝ち目がないことは、戦力差からも明らかだったが、気を抜くことはしなかった。実戦経験が少なかったことも関係しているのかもしれない。彼女は格下の略奪者を利用して、この機会に戦闘経験を積もうとしていたのかもしれない。
ある程度の敵を排除することができると、前進しながら敵が潜んでいる建物に手榴弾を放り込んでいく。と、廃車の
ハガネが発生させている〈磁界〉がなくても命中することはないだろう。焦らず女性の頭部に狙いをつけると、
次の瞬間、不可視の磁界によって軌道を
略奪者たちも偵察ドローンを使っているようだったが、ペパーミントの精密射撃で撃ち落とされていくのが確認できた。たとえ動き回る小さな標的でも、自動追尾弾から逃れることはできないようだ。
敵が増えて緊張感が高まるなか、カグヤに支援してもらいながら的確に射殺していく。略奪者の数は想定していたよりもずっと多く、冷静に状況を判断して慎重に動かなければ、途端に包囲されて身動きが取れなくなるだろう。
「カグヤ、ジュジュたちは無事か?」
『無事だよ』すぐに彼女の声が聞こえる。
『ハクの言いつけを守って、廃墟の中でじっと隠れてる』
「意外だな……。ところで、ハクがどこにいるのか分かるか?」
『レイダーギャングの拠点に侵入してたから、大変なことになってるんじゃないのかな』
「連中が必死に俺たちを攻撃してくるのは、ハクから逃げてきているからなのか……」
『敵の数が増えたのにも理由があったんだね』
溜息をついたあと、簡易地図に表示される敵の数を確認する。
「野良の略奪者だと思っていたけど、それなりの規模の組織だったようだな」
『間違えるのも仕方ないんじゃない。この
風切り音が聞こえると、瓦礫に身を隠して攻撃をやり過ごす。
「ペパーミントは?」
『私は無事だよ』と、彼女の声が内耳に聞こえる。
『でも、そろそろ終わりにしてもらいたい』
「そうだな」
残弾を確認しあと、気持ちを切り替えて敵の攻撃に備える。
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