第十四部
第576話 vewm vewm vewm
どこまでも――果てしなく続く砂漠地帯が見える。遠くには、廃墟と化し砂に埋もれていく高層建築群が
この荒廃した世界で何度も戦闘を経験してきた。その戦いの中で生き残るために必要な技能を身につけてきたつもりでいたが、戦いはより苛烈さを増していて、まるで死に向かって前進しているようにも感じられた。
ちらりと視線を上げると青く澄んだ空と、徐々に輝きを増していく灼熱の太陽が見えた。少しでも暑さを
砂に足を取られながら
はるか遠くに見える廃墟は、かつてこの地域に人々の生活があったことを思い起こさせる。けれど、それからどれほどの月日が流れたのだろうか、この砂漠は文明というモノから、あまりにも遠い場所になってしまっていた。
その荒れ果てた世界で生きていくために、何度も命懸けの戦いをしてきた。しかし、今この場所で感じるのは孤独と不安だ。この荒廃した世界で自分自身と向き合い、これから何を成すのか、そしてその意味を見つけなければいけないのかもしれない。
多脚車両に乗り込むと目的地に向かって移動を開始する。目の前に広がるのは何もない荒涼とした砂漠だったが、そこに一歩足を踏み出すと、砂の中に散らばる
荒野を見渡しながら、過酷な環境の中で続けられる生命の
砂漠に不穏な空気が漂っている。嫌な胸騒ぎがして車両を止めると、風によって形成された小さな砂丘が多脚の間に広がっていくのが見える。一歩踏み出すと、車体の重さで砂に埋もれてしまいそうになる。全天周囲モニターを通して周囲の様子を確認していると、カグヤの声が内耳に聞こえる。
『レイ、ハクの反応を見つけたよ。そのすぐ近くに別の反応も複数確認した』
「噂の略奪者たちか?」
『うん。ジャンナの調査隊がいる〈ハイパービルディング〉に向かって移動してるみたい』
「よりにもよって、目的地の
『まさか』カグヤは苦笑する。『連中の狙いは砂漠に墜落した戦艦だよ』
「戦闘艦の情報は秘匿されていると思っていたけど」
『残念だけど、すでに鳥籠〈
「たとえ同盟関係でも?」
目的地を再設定しながら、上空を飛ぶ偵察ドローンから得ていた情報を確認する。たしかにシステムは複数の動体反応を検知していた。
『ジョンシンの手で
「善人もいれば、悪人もいるってことか……」
『そういうこと。修理中で動けない戦艦は、遺物を入手できる格好の
斜めに傾いた無数の高層建築物が砂に埋もれ、砂漠に巨大な影を落としているのが見えた。上空のドローンからリアルタイムで受信していた
「見つけた」
戦闘用に改造された複数の多脚車両が、偵察ドローンによって瞬時に攻撃対象としてタグ付けされ、赤色の線で輪郭が縁取られていくのが見える。
『こっちも攻撃準備ができたよ』
「準備?」彼女の言葉に思わず顔をしかめる。
「なにを準備したんだ?」
『こんなこともあろうかと思って、数百機の自爆ドローンを上空に待機させていたんだよ』
「数百……もしかして、戦艦から?」
『そうだよ。自己修復が行われていて戦艦のシステムリソースに余裕はないけど、すでに製造されていた大量のドローンは問題なく使えるからね』
空を仰ぎ見るが、徘徊型兵器の姿を確認することはできなかった。
突然、騒がしい警告音が聞こえたかと思うと、車両の周囲に膜状のシールドが展開して銃弾を
「カグヤ!」
『分かってる!』
射角や着弾点から敵の攻撃位置が瞬時に割り出されると、上空を旋回していた数機の徘徊型兵器が急降下を始める。それは旧文明期の超小型ドローンだったが、戦闘車両を破壊できるだけの爆薬が積まれているので、旧式の多脚車両を制圧するのは
『接近してくる車両は潰した。廃墟に隠れてる敵に注意して!』
「了解っ」
多脚車両の機動性を駆使して接近する無数のロケット弾を避けると、廃墟の壁面に飛びついて、重機関銃による容赦のない攻撃を行う。迷彩効果の高いボロ布を身につけて砂丘に身を隠していた略奪者や、建物内の暗がりに潜んでいた狙撃手を射殺する。
『ロケット弾の発射を確認!』
カグヤの言葉のあと、騒がしい警告音が鳴り響く。すぐに壁を蹴って空中に飛び上がると、ロケットランチャーを担いでいた略奪者に銃口を向ける。環状の砲身が回転しながら大量の銃弾をばら撒くと、略奪者の
と、サイバネティクス技術によって身体改造された複数の略奪者が廃墟から飛び出し、車両に向かってロケット弾を撃ち込もうとするのが見えた。すぐに反応して後方に飛び
大量の砂を撒き散らしながら砂丘が
動きが止まるころには、
白い人工血液を吐き出しながら息絶えていく略奪者の胸部に長い脚を突き刺すと、そのまま
が、旧式の小銃から撃ち出される弾丸では白蜘蛛を傷つけることはできない。白蜘蛛は長い脚を使い跳躍し敵に接近すると、横に薙ぎ払うように脚を振って男の首を
『歩兵はハクに任せても大丈夫みたいだね』カグヤが指定した標的がモニターに表示される。『調査隊に接近する車両を確認した。自爆ドローンで足止めするから、すぐに排除して』
「了解」
小銃や無反動砲を乱射しながら突進してくる車両が見えてくると、剥き出しのコクピットに向かって銃弾を撃ち込む。略奪者の
前方から爆発音が聞こえると、徘徊型兵器の攻撃で爆散した車両の脚が空高く舞い上がるのが見えた。上空からは炎と黒煙を噴き出しながら動きを止めた無数の車両と、地面に横たわる略奪者たちの姿が確認できる。
「連中はヴィードルで始末する。カグヤは偵察ドローンを使って増援がないか周囲を調べてくれ」
『もうやってるよ』
略奪者たちは砂漠に特化した多脚車両に搭乗していたが、上空からの攻撃に為す術がなかった。それでも事前に襲撃を計画していたからなのか、略奪者たちもそれなりの装備を用意していたようだ。騒がしいローター音が聞こえたかと思うと、機関銃を搭載した旧式ドローンが接近してくるのが見えた。
思考だけで射撃統制装置を起動して接近してくるドローンを叩き落とすと、大破した車両から逃げ出そうとしていた略奪者たちを多脚で踏み潰していく。頭部が割れてグチャグチャになった脳や骨片で車体が汚れていく。が、少しも気にすることなく敵を殲滅していく。
『敵の掃討を確認、もう安心しても大丈夫だよ』
偵察ドローンで周辺一帯の走査が終わると、ハクと合流するため移動を開始する。
「カグヤ、ミスズたちに連絡しておいてくれるか?」
『襲撃について報告するの?』
「ああ、野良の略奪者にしては装備が充実していた。もしも大規模な攻撃を計画しているのなら、戦艦を警備する守備隊の詰め所が襲撃される可能性が高い」
『ミスズたちを支援するために拠点まで引き返す?』
「いや、拠点には〈ヤトの戦士〉がいるし、〈
『なら、このままジャンナの調査隊と合流するの?』
「ああ、ペパーミントとの約束もあるからな」
『わかった、連絡しておくよ』
略奪者たちが待ち伏せしていた場所まで戻ると、白蜘蛛の背中にしがみ付いていた〈ジュジュ〉が脚を振っているのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます