第574話 報告(色彩)(ノドの獣)
遺物の調査に区切りをつけた〈探し続ける者〉に案内されながら、我々はコケアリの〈砦〉に向かうことになった。
〈探し続ける者〉の身長は二メートルを優に超えていたので、彼女と会話をしていたペパーミントは終始見上げる必要がった。〈探し続ける者〉は異様に長い首を
短く細かい毛にビッシリと覆われた頭部の――人間でいえば鼻にあたる部分から伸びる触角が
大きな複眼や感覚器官として機能する
〈探し続ける者〉は、修道士が身につけているようなローブを
腰の位置に巻かれた
ふと気になって、彼女にも〈闇を見つめる者〉と同じような能力が使用できるのか
不意に皮膚の一部を瞬時に硬質化することができるのを思い出す。その能力によって何度か
〈探し続ける者〉は
なんでも、〈精神感応〉の特性を持つ開発段階にある合金で製造された装甲服と組み合わせて使用することで、全身の神経を装甲のシステムと接続することが可能になり、反応速度をはじめとして、多くの恩恵が得られるように設計されていたようだ。
開発段階にある装甲服とは、〈ハガネ〉のことではないのだろうか? そうであるなら、〈ハガネ〉を思いのままに扱えることにも納得できる。あまりにも肉体に適応しているのだ。無意識に〈ハガネ〉の性能を使えるのは、〈不死の子供〉にだけ支給されたという特別な肉体のおかげだったのだろう。
人類の
キチン質の甲殻に覆われた指が触れるか触れないかの距離まで近づくと、指先から淡い青緑色の光が発せられるのが見えた。どうやら魔術の
少女の容態は安定しているようだ。〈インシの民〉が異種生物を
コケアリの過去の経験則に基づけば、通常では考えられないことだったが、〈インシの民〉の影響からも完全に切り離されているので、あとは自意識の問題だけだという。しかし
それに神の〈
広大な空間を持つ坑道に出ると、ひび割れた岩壁のあちこちに
古代文明の巨石遺跡を思わせる高い防壁の周囲には、黒蟻に
〈探し続ける者〉が調査していた〈混沌の遺物〉が関係しているのかもしれない。もしも混沌の領域につながる〈神の門〉が自然発生するような事態になっても、すぐに対処できるための配慮だ。しかしこれだけの数の戦闘部隊が残っているということは、〈門〉が開くという根拠があるのかもしれない。
金属製の巨大な門を通って砦内に入る。そこからは赤茶色の体表を持つ兵隊アリの部隊に案内されながら、〈闇を見つめる者〉が待つ広間に向かう。発光器官を備えた無数の昆虫が明るく照らす広間の中央には、大理石調の石材を削り出して作られた円卓と椅子が用意されていて、そこで話し合いが行われることになった。
数日ぶりに再会した〈闇を見つめる者〉は我々の訪問に対して感謝の言葉を口にしたあと、コケアリの坑道で何が起きているのか話してくれた。
〈インシの民〉の遺跡を中心にして坑道を侵食していた〈混沌の領域〉の影響は残っていたが、兵隊アリたちの活躍で混沌の先兵である〈混沌の子供〉たちを含め、〈混沌の追跡者〉などの多くの敵性生物が排除されていた。
素早く対処できたこともあって、広範囲に
しかし混沌の影響を受けた区画では、〈あちら側〉の世界との接点ができてしまうので、超自然的に〈神の門〉が発生してしまう可能性があるという。だから数年の間、混沌の影響を受けた区画はコケアリたちによって閉鎖され、管理されることになる。
残念ながら遺跡の管理者である〈インシの民〉は坑道で起きていることには無関心で、この件でコケアリに協力する気はないらしい。コケアリも〈インシの民〉とは関わりたくないようだったので、そのことに関して〈インシの民〉に抗議するつもりはなかった。
責任の所在は明らかだったが、混沌に関係する微妙な問題なので、コケアリたちもこれ以上ややこしい問題にしたくないのだろう。
それから〈闇を見つめる者〉が不在だった間、兵隊アリの部隊を指揮しながら坑道を調べていた〈探し続ける者〉から興味深い話を聞くことができた。
長らく使用されていなかった坑道を調査していた部隊は、偶然、地底湖のようなモノを見つけた。坑道の深い場所で水域が形成されることは
廃墟の街の地下にある坑道ということもあって、コケアリは汚染物質が流れ込んだ水源だと考えたが、どうも様子がおかしかったという。というのも、別の水域から流れてきた洞窟魚がその地底湖に入ると、まるで生命力を奪われるようにして、
そして不思議なことは続く。
報告を受けた〈探し続ける者〉が現場にやってくると、異変を
そもそもコケアリは人間と
数日後、また別の坑道を調査していた部隊によって不思議な地底湖が見つかる。しかし前回と同様の現象が繰り返され、〈探し続ける者〉が現場に到着するころには、地底湖は跡形もなく消えていたという。
彼女は地底湖の捜索する部隊を編成すると、不可思議な〈
そこでカグヤが思い出したように、鳥籠〈
調査員は行商人の言葉を疑ったが、隊商で働く人間全員が同じモノを見たと証言したので、調査は続けられることになった。それからというもの、行商人からオアシスの発見についての報告が相次いだ。だが結果は同じだった。調査員が派遣されるとオアシスは消えてしまっていた。
移動する地底湖とオアシスに関係があることは明白だった。坑道でも捜索が行われることになるが、地上でも被害者があらわれる前に、本格的にオアシスの捜索をしたほうがいいだろう。今なら輸送機と〈ワスプ〉を使って捜索することもできるので、それほど時間をかけずに見つけられるだろう。
それから〈ノドの
しかし〈ノドの獣〉が持つ不死という特性は、なにかの
あれは〈こちら側〉の世界に存在する生物と根本的に異なる〝非生物〟でありながら、同時にある種の――神のような完全性を持つ生物であるともいえる存在だ。
たとえば〈重力子弾〉を使用することで、跡形もなく肉体を消滅させることはできるかもしれない。しかし実際には〈ノドの獣〉という概念を消し去ることはできない。それは〈こちら側〉の世界にとどまり、
つまり他者によって認識された概念的存在であるが
しかしそれは現実的な解決方法ではないだろう。〈混沌の領域〉を含め、数千の惑星で存在が知られ、文献も多く残されているからだ。そして〈ノドの獣〉を知る数十億、あるいは数百億の知的生物を殺すことはできない。
まるで呪いのような
コケアリたちは砂漠に消えた〈夜の狩人〉の捜索に協力してくれることになったが、正直な感想として、見つけたからといってどうすることもできない存在なので、放っておいたほうがいいと考えるようになっていた。
それから働きアリと作業用ドロイドによって共同で進められていたトンネル工事について話を聞いた。混沌の勢力によって
そしてコケアリの女王と会談する予定になっていた〈インシの民〉について話が移る。その会談には私も参加することになるので、コケアリたちの地下都市を訪問することになりそうだった。
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