第163話 巨大生物 re
得体の知れない
そして焚き火や
石柱に
頭部にはギョロリと飛び出した大きな眼があって、その眼は白く
鉤爪を持つ魚を見るのは初めてだったが、そもそもこの生物は魚ですらないのかもしれない。体表は
邪悪で悍ましい生物はとにかく巨大だった。二十メートルをほどの高さがある石柱に抱きついていて、柱とほとんど変わらない巨躯であった。そして地底湖に向かって伸びる生物の下半身を加えれば、ほとんど石柱と変わらないほどの巨体だということが分かる。
その生物は
『気をつけて、レイ』と、カグヤの声が内耳に聞こえた。
『人の精神に影響を与える何かが、あいつの眼から発せられている』
「人の精神?」
『催眠術だか何だか分からないけど、それは確かだよ。ここに来る途中に遭遇したウナギみたいな馬鹿デカい生物のことを覚えてる?』
「ああ」
あの気味の悪い感覚は簡単に忘れられるモノじゃない。
『あの奇妙な生物が持っていた発光器官と同じような作用を持っているのかもしれない。だから光の波長に反応してガスマスクが自動的にフィルターを掛けたんだ』
「対策をしておいてよかったな……」
『そうだね……それで、どうするの?』
「逃げるよ」と、カグヤの質問に即答する。
『その考えには私も賛成だよ』
鋭利な
「ハク。全部の相手をしなくてもいいからな……様子を見て逃げよう」
『んっ』と、ハクは眼を赤く発光させた。
巨大な生物はゆっくりとした動作で天井を
そして耳をつんざく音が洞窟内に
それらの魚人に向かってハクは強酸性の糸の塊を吐き出した。糸の塊が当たった場所は、それが
けれど地底湖から次々と姿をあらわす魚人たちは、哀れな仲間を
ハクは私の前に出ると、
突然、数百発の銃弾が飛んできて、魚人たちの
集団は半魚人に捕らえられ、生贄として鉄の棒に縛り付けられていた人々だった。彼らは奪われていた装備を取り返すと、半魚人たちを殲滅するべく戻ってきたのだ。
『レイ』と、ペパーミントの声が内耳に聞こえた。
『全員、解放できたよ』
「助かったよ。最高のタイミングで
『でも、このまま戦っても切りがなさそうね』
「そうみたいだ」
地底湖からは次々と魚人たちが這い上がってくるのが見えた。
『あのデカい生物が動いてないのが救いだね』
たしかにカグヤの言うように、邪悪な姿をした巨大生物は石柱を抱いたまま動いていなかった。
「このまま戦闘を継続しながら後退する」と、私は魚人を蹴り飛ばしながら言う。
『後退って、何処に向かうつもり?』
ペパーミントの困惑する声が、騒がしい銃声の間に聞こえる。
『今、ドローンを使って洞窟の奥に出口がないか探してる』とカグヤが言う。
『すこしの間、そこで持ち堪えて』
『そっちに出口がなかったらどうするの?』
「大丈夫だ」と、魚人の攻撃を避けながら言う。
「今は状況が好転するように最善を尽くそう。これ以上、状況が悪くなることはないんだから」
『そうね……分かった。
魚人と交戦しながら後退を続けていると、突然、巨大生物の咆哮が洞窟に
『最悪ね』と、ペパーミントがつぶやくのが聞こえた。
向こう岸に視線を向けると、地底湖から這い出る魚人の集団がペパーミントたちに襲い掛かる様子が見えた。そして石柱を抱いていた巨大生物が、丸太のように太い腕を使って
最初にその〝異変〟を感じ取ったのは、魚人たちに向かってレーザーライフルによる攻撃を行っていたペパーミントだった。
『みんなの様子がおかしい』
襲いかかって来る魚人の大群に対して射撃を行っていた者たちが、突然、狂ったように
『もう、なんだっていうの!』
ペパーミントが声を荒げると、私は彼女に聞こえるように叫んだ。
「あいつの眼だ! あの巨大生物の眼は人を惑わせる!」
『惑わせるって、私は平気だけど!?』
人造人間であるペパーミントには効果がないのだろう。
「頼む、そいつらに化け物の光る眼を見ないように指示してくれ!」
『無理よ! 暗視装置を持っているのだって数人だけだし、暗闇の中で光るモノを見つけたら、本能的に目を向けてしまう!』
魚人の集団は無防備に立ち尽くしていた人間に襲いかかっていた。何人かの人間はまだ魚人に射撃を継続していたが、それも時間の問題だろう。巨大生物の眼を見たら、たちまち気が変になる。
「クソっ!」と私は思わず声を荒げる。
「このままだと出口を見つける前に全滅させられる」
『あともう少し……』と、カグヤのつぶやきが聞こえてくる。
『多分、出口はこっちで合ってる……』
やっとのことでペパーミントたちがいた場所にたどり着けたが、状況は想像していたよりもずっと悪かった。至るところに人間の死体が転がっていて、その死体に
「いない?」
素早く周囲に視線を走らせると、巨大な影が迫っていることに気がついた。
『レイ!』
魚人の集団と交戦していたハクの声が聞こえた瞬間だった。
おそらく私は巨大生物の
痛みに
しかし間一髪のところで魚人は頭部に銃弾を受けて死ぬことになった。
『大丈夫か、レイ!』とジョージの声が聞こえた。
『
ジョージの狙撃で何とか
『ダメだ……間に合わない』と、カグヤが言葉を
私の目の前には巨大生物が立ちはだかっていた。怪物は太い腕を広げ巨体をさらに大きく見せると、私に向かって咆哮した。
薙ぎ払うように振るわれた
立ち並ぶ
しかし次の瞬間、鋭い
その長い脚は白蜘蛛のモノで、ハクは怪物の首に脚を絡めて何度も攻撃を行っていた。邪悪な化け物は地鳴りを起こすような咆哮をあげると、首の後ろにいるハクを捕まえようとして腕を伸ばすが、白蜘蛛はすでに地面に飛び
巨大な生物は耳をつんざく咆哮をする。その間も傷ついた首からは体液が噴水のように噴出する。しかし怪物はそれに構うことなく、
銃声が洞窟に響き渡ると、鋭い牙のような鍾乳石が巨大生物の上に落下する。天井のずっと高い場所にあった鍾乳石は、怪物の下半身、
怪物は狂暴な痛みにもがき、周囲の
怪物は不気味な口元から粘液を
怪物の
質量のある銃弾は
インターフェースに表示されるハンドガンの残弾を確認して、思わず溜息をついた。
生物の不気味な呼吸音が止まると、近くに来ていたハクに
「死んだと思うか?」
『ん。しんだ』
ハクは私に
けれど私にはすべてが終わったようには感じられなかった。それは絶えず奇妙な
すると突然、地底湖近くの石柱から衝撃波が生じる。それは洞窟を揺らし、落石を引き起こした。地底湖の水面に向かって
『ねぇ、レイ』と、困惑するペパーミントの声が聞こえた。
『これ以上、状況が悪くなることはないって言ったよね』
「ああ」と私は答えた。
「言ったような気がする」
『でも、悪いことは続けて起きるみたい』
「そうだな……」
泡立つ水面から顔を出した複数の巨大生物を見ながら、私は息を吐き出した。
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