ジョン=シード

すくぅー

プロローグ

 「はーい、みんなー。始めるから座ってー」

 「「はーい!」」


 ローブ姿の女が子供たちに声をかけた。フードを目深にかぶっており、表情は読み取れないが、その声は弾んでいるようだった。手には本があり、表紙には円環に太陽と月が描かれた紋章が刻まれている。


 "昼と夜を遷移させる神に使える教団"、通称、昼夜教。彼らの使える神は、かつて、空に浮かぶ太陽と月を入れ替え、昼と夜を作り出したとされる。入れ替えるもの。移ろうもの。転じて、旅人の守護者とされる神だ。

 信徒たちは生涯に最低一度は旅に出て、その内容を物語として神に奉じる。神に奉じる際に、物語には太陽と月の紋章が刻まれる。物語が偽りであった場合、物語は焼けて消えてしまうという。

 太陽と月の紋章が刻まれた本が示すところは、収められた物語は神に捧げられたものであり、大なり小なり脚色はあるのかもしれないが、その物語はいつか誰かの旅の記録である。


 「今日の物語は私のお気に入りなの。みんな、静かに聞いてね」


 女はゆっくりとした動作で手元の本を開く。子供たちは目を輝かせて静かに物語が始まるのを待つ。中には口に人差し指を立てて、みんな静かにとジェスチャーしている子供もいる。

 昼夜教において、子供たちはいずれ自らの人生へ旅立つ旅人と見なし、神に奉じられた物語を読み聞かせる活動を行っている。その読み聞かせが始まろうとしてた。


 「むかしむかし・・・。この昔々っていうのはもの物語を話すときのルールなの。本当に昔の話の時もあるし、違うこともある。続けるわね。むかしむかし・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジョン=シード すくぅー @squ_story

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ