第一章 任務の開始

第5話 任務を果たすまで。

ざわざわと物音が聞こえるようになり、雷太は目を覚ます。


 「どこだ?ここ」


 辺りを見渡すと、明らかに自分が知っている場所ではない。

 床はキラキラと輝いた石で出来ていて、今自分が居る中心には赤いカーペットが敷かれている。

 壁には色々な絵画が飾ってあり、明かりはシャンデリアのようなもので照らされている。


 「城見てえだな」


 雷太はこの豪華すぎる建物が城であると分かった。

 ふと、視線を後ろに向けると、そこには沢山の人の姿がある。しかも、全員顔見知りの人物だ。


 「何で、皆居るんだ?」


 雷太は状況が分からず、混乱する。


 「知らないわよ。でも、昼休みに教室で何かがあったって事は覚えてるわ」


 意識を取り戻した美湖が、雷太の問いに答える。混乱している雷太をよそに、美湖は至って冷静だ。


 「どこや?ここ」

 「雷太先輩ここどこですかぁ?」

 「僕の家にそっくりな所だねぇ」


 意識を失っていた他の人物達も次々を目を覚ます。皆ここがどこか分からず、困惑している様子だ。



「うわぁー」


 突然、誰かの悲鳴が聞こえた。

 叫んだのはここに居る十数人の誰か、しかも、女性の声だったのでかなり限られる。

 まあ、急にこんな城みたいな場所に飛ばされているので、叫んでも無理はない。



 「あの、皆さんすいません。私です」


 顔を赤くしながら、叫んだ人物が小さな声で申し出る。そう、叫んだのは成美先生だった。


 えっ?全員驚きを隠せない。あの小さな声の成美先生がこんな大きい声を出すなんて。 


 そして、生徒が口を揃えて言う。「普段からそれ位出してください」と。



これは別として、なぜここに飛ばされたのか?皆それが早く知りたい。


 「知雄、何でこうなったか分かるか?」


 武虎が知雄に問い掛ける。何でも知ってる知雄に聞けば何か分かるのではと思ったのだろう。


 「これは、クラス召喚に巻き込まれたでやんす。これは勇者として戦いに駆り出されるでやんす」


 武虎の予想通り知雄はこの状況を把握していた。


 皆はクラス召喚の意味が分からなくても、「戦い」という言葉を聞いた瞬間、表情が曇る。

 何せ、皆の戦いのイメージは戦争で、沢山の犠牲者が出るものだと思っている。


 「おやおや、君たちバイブスいと下がりけりだねぇ。戦い?まじぱねーじゃんか。しかも、こんな漫画みたいな建物に居るんだぜぇ。さぁテンションアゲアゲで行きまSHOW」


 それを見かねたチャラ男の健吾が、チャラい言葉でテンションを挙げるように促す。

 それにしても何がぱねーのだろうか。全く理解できない。


 「あっちの奥に扉があるでやんす。そこに誰かいると思うでやんす。だから、とりあえず行ってみようでやんす」


 知雄が皆に提案する。

 だが、誰も動こうとしない。まだ、知雄が言っていることが半信半疑なのだろう。


 「何でも知ってる知雄が言ってることだぜ。ここはそれに従うしか無いんじゃないか?」


 雷太が全員に呼び掛ける。雷太がこんな気の利いたことを言うことは宝くじが当たる位無い事だ。


 「雷ちゃんが言うなら仕方ないわね。まあ、自分のために動こうかしら」

 「らいたっちが言うんならしゃあないな。」

 「あたし達先生も貴方に任せるわ」


 この言葉には皆の心が動いたようだ。扉に向かって歩き出す。



 「お姉ちゃんは何時でも雷太の味方だからね。皆行くよ」


 突然、詩乃が一番先頭に来て皆を引っ張る。


 「何で姉ちゃん居るの?」


 「何でって雷太にお弁当持って来た時に、ここに連れて来られたんだから居るに決まってるよ。お姉ちゃんは結果的に良かったと思ってるよ。だって、雷太と離れ離れになったら寂しいもん」


 そう、雷太が弁当を忘れたばっかりに詩乃は巻き込まれてしまった。

 しかし、詩乃はそれを嫌だと思っていない。詩乃のブラコンぶりはここに来ても健在である。


 そうこうしているうちに扉の前に着いた。


 「皆準備は良い?開けるよぉー」


 詩乃の掛け声で扉を開けた。ギィーという音とともに扉の向こうの景色が開ける。



 そこには豪華な椅子に座っている六十代位の白髪に白い髭を生やした老人とそれを囲う多くの取り巻きの姿があった。


 ~~~~~~~~~~~~



 「雷太殿とその仲間の皆様、ようこそいらっしゃいました、イモルテル帝国ぺルマナント宮殿へ。私は、この国の皇帝エンペラーの地位に就いておるフレシュバ・イモルテルと申します。宜しくお願い申し上げますぞ」


 フレシュバと名乗る皇帝が、雷太たちに挨拶をした。何故か雷太の名前を知っていた。


 皇帝が居るこの部屋は先ほどよりも更に豪華で、辺り一面輝いている。


 「さあ、聞いておきたい事は沢山あると思いますから、とりあえずそこに腰掛けて下され」


 フレシュバにそう言われ中央を見ると、そこにはこの世の物とは思えないような豪華な椅子と机が人数分並べられていた。


 「君たち、皆様にお飲み物を出しなさい」


 フレシュバにそう言われ、動いたのはメイドの格好をした少女達だ。


 「うわぁ可愛いじゃねえか」


 武虎が我慢できず、鼻息を出しながら言葉を漏らしてしまう。


 「虎君、そう言うの止めなさいよ」


 それを聞いていた、美湖にあっさりと注意された。


 そして、メイド達は飲み物を持って、奥から出て来た。最初に出て来た五人は男子達が全員「可愛い」と思う程だった。


 しかし、その後に出て来たのは少女はなく大人。しかも、出てくる順番が後になる程どんどんおばさんになっていった。


 「ちぇ、何だよ。後に出て来たの、お姉さん、お姉さん、おばさん、おばさん、おばさん、おばさん、おばあさん、おばあさん、おばあさんじゃねえかよ。ってか後一人は?」


 全員美少女メイドだと思っていた武虎は落ち込む。だが、雷太達は十五人居るのに、まだ十四つしか飲み物が来ていない。


 男子達は、最後の一人が超絶美少女とうのに期待した。


 「遅くなってしまいすみませんでした」


 だが、ようやく出て来たと思ったら……出て来たのはがたいがボディービルダーの男だった。しっかりとメイド服は着ていたが、無理があった。声も無理矢理裏声で出していた。


 期待していた男子達もそうでなかった女性陣も全員椅子ごとずっこけた。


 「皆様、大丈夫ですか?どうされました?」


 それを見たフレシュバが雷太達を心配する。


 「どうもこうもあのメイドさん男じゃないっすか」


 「あーあー、その事ですか。あれはミニョンといって私の一番のお気に入りですぞ」


 それを聞いてもう一度全員ずっこけた。



 ~~~~~~~~~~~~


 数分後、



 「さて、気を取り直して話を進めていきますぞ」


 そう言って、フレシュバは話し始めようとした。


 「話は良いから、おら達を早く元の世界に帰してくれ」


 雷太はフレシュバの話を遮るように命令した。

 それに「そうだそうだ」と他の者達が続く。


 「貴様、とうs……父上がお話されている時に何という事だ」


 フレシュバと雷太の会話に誰かが割り込んできた。どうやら、フレシュバの隣に居る美少年だろう。


 「こら、ヴィスよしなさい。こちらは第一皇子のヴィスターです。どうぞお見知り置きを」


 どうやら、その少年はフレシュバの子供で次期皇帝らしい。


 しかし、これは雷太の話に全く関係ないのである。


 「いや、知らねえよ。だから、早く帰してくれって言ってんの」


 フレシュバの自分の言った事と関係ない説明にイラっとして、雷太は語気を強めた。

 それを聞いたフレシュバはすまなかったと本題を話し始める。


 「その事じゃが、『任務』を果たすまでお帰しすることが出来ませぬ」


 フレシュバは急に広島弁のような言葉遣いになって、こう断言した。


 「任務って何だ?おら達を連れて来れたんなら帰す事も出来るだろ」


 雷太は今一フレシュバの言葉が理解出来ない。

 つまり、雷太が言いたいのは現在地から目的地まで行く事が出来たのなら帰る事も出来るだろうとといった事である。


 「皆様方地球の人間をこの世界召喚するためには、『任務』というものが必要です。皆様方地球の人間に何かしらの『任務』を課し、それをやり遂げた方だけが地球に帰る事が出来ます。これは神ヴィシュヌ様が決めた事ですので、私達にはどうしようも出来ない。一度召喚した以上、まだ『任務』を果たしていない皆様方は帰したくても帰すことが出来ませぬ。申し訳ない」


 フレシュバの言葉を聞いた瞬間、皆のテンションはジェットコースターのように急降下した。



 そこからしばらくは沈黙が続いた……。


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たこのおすし。 天そば。 @tensoba0123

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