第4話 昼休みの事件。
今は待ちに待った昼休み。まだ苦しい午後の授業があって安心は出来ないが、二つの敵の一つである空腹を満たすことが出来るので、生徒の機嫌も一時的に良くなる。
お弁当を持って来ている人は教室でそれを食べ、持って来ていない人は購買で買ったり、食堂で食べたりする。
そういう事もあり、教室の人数も半分くらいになっている。その中には三時間目に御月先生の逆鱗に触れ。ずっと帰って来ていなかった安達も含まれている。
安達は何時も昼ご飯は食堂で食べているのだが、今日は怒られた事で食べる気が失せてしまったのだろうか。何せ、三人は顔が青ざめている。御月先生に何をされたのか考えるだけで恐ろしい。
その頃、雷太はご飯を食べておらず、廊下で美湖と話をしていた。
「何よ、話って」
美湖が雷太に尋ねる。美湖は四時間目の授業が終わってすぐ、雷太に「美湖様、ちょっと話があるから来て」とここに呼ばれていた。
「えっとさ、昨日はあれから大丈夫だったか?」
「あぁ昨日の事ね。別に心配してもらわなくても、あれから何も起こらなかったわ」
「そうか、なら良いんだ。昨日は色んな事が起こりすぎて、おら訳分かんなくなった」
「そうね、当分忘れる事は出来そうにないわね」
そう、昨日雷太と美湖は数々の出来事に遭遇していた。
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「すっかり遅くなっちまったなぁ」
雷太は暗い夜道を一人で歩いて家に帰っていた。
この日の練習は、「試合前だし、けがしちゃいけないから早めに終わらない?」という美湖の提案から何時もより一時間早く終わっていた。
その後、雷太は美湖と一緒に家に帰っていたのだが、その途中で近くの駅までの道のりが分からず困っているおばあさんに声を掛けられ、美湖には「付いて来てもらっちゃ遅くなっちゃうから」とその場でさよならした。
近くの駅と言っても、二十分ぐらいかかる。だが、これはあくまでも雷太が普通に歩いた場合であり、おばあさんのペースに合わせると、倍の四十分もかかってしまった。
無事におばあさんを駅に送り届け、急いで家に帰ろうとした時、外国人に話しかけられた。雷太は壊滅的に英語が出来ないため、何を言っているのかほとんど分からなかったが、困っているということは分かったので、何とか助けようと悪戦苦闘しながら一時間ぐらい掛けてようやく外国人を助けることが出来た。
そんな事をしているうちに夜遅くになってしまった。
雷太は人が困っているのを見るとほっとけない性格であり、その度に人助けをする。それは、もちろん良い事ではあるのだが、ついつい今回のように時間を忘れてしまうことがある。
「もうこんな時間か、急いで帰らないと練習早く終わった意味がなくなっちまう」
雷太は通り道沿いにある公園の時計を見て、そう呟く。時計はもう8時を指していた。
「ん?あれ美湖様じゃね?何で居るんだ?しかも男三人と」
ふと視線を下にずらすと、真っ暗の公園に美湖の姿がある。しかも、見知らぬ男三人と居る。
何で?もう美湖様は家に帰ったはずなのに。
雷太は今一状況が把握出来ず、頭の中が?で一杯になる。
そして、気になって近くまで行った。
「姉ちゃん、夜遊びしに行こーぜ」
「嫌よ」
こんな声が聞こえてきた。雷太は状況を把握した。美湖様がチンピラ三人組にナンパされていると。
今すぐにでも助けに行きたい、行けるものなら。でも、自分には力が無い。しかも、相手は三人。助けに行ってもボコボコにされるだけだ。
どうしよう……と考えているうちに刻一刻と美湖の身に危険が迫る。
この状況で自分が美湖様を助け出せる方法を必死に探す。
……そうだ、と雷太は思い付いた。おらには足の速さという武器があるではないかと。
雷太の作戦はこうだ。自分が大声を出し、三人のチンピラの注意をそらしている間に、美湖様の手を取って一目散に逃げる。
一見、厳しそうな作戦だが、この状況では逃げるしか方法が無い。
「こんな、命がけの人助けは初めてだぜ。父さん……おらはやるよ。身近な人を助けれないようじゃ英雄なんて夢のまた夢だもんな」
そして、命がけの美湖様救出作戦が始まった。
「うわぁー!」
雷太が目一杯大きな声を出した。
すると、チンピラ達は何だ?と美湖から目を逸らした。
よし!今だ、と雷太は美湖の手を引っ張り家の方向へ一目散に逃げる。
「話は後だ。今は逃げるぞ」
雷太は混乱している美湖に声を掛け、更にスピードを上げる。
一瞬、後ろを振り返って追いかけて来ていないか確認する。
「よし、来てない。助かったぁ。大丈夫か?美湖様」
幸い雷太の足が速く、追いかけられずに済んだようだ。
「雷ちゃん。ありがと。怖かった」
本当に怖かったのか、今は何時もの照れ隠しぶりはなく、正直である。
「おら、心臓飛び出るかと思ったわぁ」
「でも、あそこで逃げるのって雷ちゃんらしいわね。ふふふ」
泣き出しそうだった美湖に笑いが戻った。
これで一件落着。
色々あった夜が終わった。
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「まあ、終わった事だし、教室帰って昼飯にしようで」
「そうね」
そう言って、二人は教室に戻った。
「雷太せんぱーい。美湖先輩と何話してたんですかぁ。ずるーい。わかばも二人きりで話したーい」
雷太が教室に戻って聞いた最初の声がこれである。
「何でお前が居るんだよ」
雷太は一気に不機嫌になる。
それもそのはず、落ち着いて昼ご飯を食べようと思っていたところに奴が来たからだ。
「昼ご飯食べ終わって暇になったので来ちゃいましたぁ。だめですかぁ?」
「だめだ」
「えぇー即答するとか、先輩ひどーい」
そんな感じに若葉との会話をしていると、教室の後ろのドアから誰かが入ってきた。
「雷太、これ忘れてたよ」
「ごめん、姉ちゃん。おら弁当忘れるとかやばいな」
入ってきたのは雷太の姉、詩乃
うたの
だ。雷太の忘れたお弁当を届けに来た。
雷太よりの二歳年上で、日本で一番頭が良いとされる二大大学の一つの東商大学に通っているほど頭が良く、弟の雷太とは正反対である。
そして、去年一年生ながら、その学校で一番美しい女性に贈られる「ミス東商」に輝くほどの美貌であり、雷太よりも背が高い。
「これが雷太先輩のお姉さん?凄く綺麗。私は雷太先輩の彼女の春風若葉でーす」
「おいおい、嘘つくな。姉ちゃん違うから誤解しないで」
「ふふふ、面白いね。若葉ちゃん、でも、雷太を簡単には渡せないなー」
詩乃の顔が急に変わる。
詩乃は重度のブラコンであり、弟は誰にも渡したくない。弟の恋愛の話になると、悪い女の顔になる。
「あら、詩乃さん久しぶりね。大学はどう?」
御月先生が詩乃に話しかける。詩乃はこの高校の卒業生で、3年の時には御月先生が担任だった。
「巴先生久しぶりですね。お陰様で頑張ってます」
「雷太君もお姉さんを見習ってほしいわね」
御月先生がさりげなく雷太に釘を刺す。
しかし、どうしてこんなにも姉弟で学力に差が生まれてしまったのだろうか、どうしても疑問が残る。
「止めて下さいよ先生。おらこれでも頑張ってるんだから」
雷太がそう答えた瞬間、突然教室が揺れる。
「地震か」
多くの生徒がパニック状態になりながらそう口にする。雷太もそう思っていた。
しかし、教室の床が光っている。
「何だこれは。地震じゃない」
「これは魔法陣でやんす。どっかに召喚されるでやんす」
雷太の声に誰かが反応した。この声は丸眼鏡を掛けている物知雄
ものしりお
のものだ。彼は、学年順位こそ天才に負けているが、知識なら誰にも負けないほど何でも知っている。そのため、皆から「人型辞書」と呼ばれている。
その知雄が言うんだから、意味分からない言葉でも間違っていないことは分かる。
すると、意識がだんだん遠のいていく。そして、次第に皆の叫び声も聞こえなくなっていく。
何が起こってるんだ……。分からないまま、意識が完全になくなった。
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