第16話 混戦


 レオン達に向かって迫りくるキエンの群れ。

 まだある程度の距離が離れているものの、その進行速度は速い。


 『シルバーは、これまでに発見の報告がなされているモンスターの情報は全て所持しているはずです。あれは、これまでに発見されたことのない新種のモンスターである可能性が高いです』

 

 群れの中央にいる巨大なモンスターについて、シルバーはそう見解を示す。他のキエン達と同じ猿型のモンスターではあるが、その様相は明らかにキエンとは異なっていた。

 3メートルに届きそう大きな体、全身を覆い尽くす銀色の体毛、常に開かれている大きな口から飛び出している鋭い牙、確かにこちらを見つめている大きな目。その全てが、モンスターのおぞましさを引きだす要素となっている。


 『新種のモンスター……』


 シルバーの言葉に、レオンが胸中で驚きの声を漏らす。

 彼と並んで群れを見つめているシャルエッタとダイタンも、見たことのないモンスターの存在にたじろいでいるようだった。


 「みんなっ!」


 そんな3人の下に、アレクとミーネも駆けつける。ミーネはまだ本調子とはいかないらしく、アレクに肩を借りている状態だ。


 「アレクっ!群れが近づいて来てるわ!それに、よく分からないモンスターも混じってる」

 「よく分からないモンスター?」


 シャルエッタの言葉に眉をひそめたアレクだが、その目で群れに混じる巨大なモンスターを確認すると、驚きの表情を浮かべた。


 「レオンさん、あのモンスターのことを知っていますか?」

 「いや、分からない。……多分、新種のモンスターだ」


 新種のモンスター。

 その言葉に、アレク達の表情は険しくなった。


 「アレク、どうするのっ?」


 そう尋ねたシャルエッタではあるが、彼らに逃げるという選択肢は存在しない。地上までの距離は遠くないとはいえ、ミーネがいる以上群れから逃げ切ることは不可能だからだ。

 

 「前と同じ様な形で戦おう。僕とシャルエッタ、そしてレオンさんが前線で戦い、ミーネがそれを援護。僕たちが取りこぼした敵を、ダイタンが撃破だ」


 アレクは、昨日勝利を収めることとなった陣形での戦闘を提案する。


 「あいつはどうするの?」


 シャルエッタが巨大なモンスターを指差し、続けてアレクに尋ねる。

 もしも、向かってきている群れがキエンとその変異体のみで構成されていれば、レオン達の勝利は揺るぎのないものだっただろう。だが、一際存在感を放っている巨大なモンスターの存在が、彼らの不安材料となっていた。


 「あいつは僕が相手取る。そうするべきだろう」

 

 その力が未知数であるモンスターの相手を務める。アレクは、最も危険と責任を負うことになる役割を、パーティリーダーであり唯一の青タグでもある自分が果たすべきだと判断したのだ。

 

 「……分かったわ。気を付けなさいよ」


 そう声を掛けたシャルエッタだけではなく、ミーネとダイタンもアレクを心配するような顔を浮かべていた。


 「危険なのはみんな同じだろ?僕が手も足も出ないような相手なら、どの道そこで全員おしまいだ……レオンさん」

 

 アレクは真剣な表情で、レオンに向き合う。


 「一緒に、戦ってくれますか?」

 「……?そりゃ、一緒に戦うけど」


 レオンの、どうしてそんなことを聞くのか分からないと言いたげな顔を見て、アレクは目を丸くした。

 この状況なら、レオンはアレク達を置いて1人で逃げることも可能なはずなのだ。それにも関わらず、はなからそんな選択肢など考え付いてもいないかのような様子のレオンに、アレクは驚きを隠せなかったのである。

 目を丸くしていたアレクは、今度はその顔に笑みを浮かべた。


 「ははっ。……レオンさんがいてくれれば心強いです!よろしくお願いします!」

 「あ、ああ」

 

 アレクの態度に、レオンは僅かに首を傾げた。


 「よしっ!総員、戦闘準備だ!」


 力のこもったアレクの掛け声に伴い、全員が戦闘に備える。


 『気を付けるべきことは?』

 『やはり、新種のモンスターに最大限の注意を払って下さい。アレクが引き受けるとはいえ、思わぬ行動を取ってくる可能性もあります』

 『アレクが抑えきれるか分からないってことか』

 『肯定。なので、常にその矛先に注意しておく必要があるでしょう』

 『了解だ』


 シルバーの言葉頷くレオン。

 もう、群れの先頭集団がすぐそこまで迫ってきている。


 「来るぞっ!」


 アレクがそう声を上げた瞬間だった。

 群れの中央に位置しており、レオン達からはまだある程度の距離がある新種のモンスターが、その足を曲げてまるで屈伸運動のような動きを見せる。

 

 『っ!全員で避けて下さい!!』

 

 シルバーが切迫した声をあげると同時に、新種のモンスターがその場から飛び上がる。先程見せた屈伸運動は、跳躍の一歩手前の行動だったのだ。

 

 「避けろっ!!」


 レオンの声に従い、全員がその場から飛び退く。

 その瞬間、先程までレオン達がいた場所に大きな影が降り立った。地面を抉る大きな音が響き、土煙が立ち込める。飛び上がったモンスターが、その拳を振り下ろしながらここまで飛んできたのだ。凄まじい跳躍力である。

 間一髪のところで攻撃をかわしたレオンは、すぐに体勢を立て直した。そこで彼は、モンスターが再び腕を振り上げているのを目にする。標的となっていたのは、モンスターのすぐ足元で倒れているミーネだった。

 彼女は怪我の影響から、他の者と同じような機敏な動きを取ることが出来なかったのだ。先程の攻撃の直撃は免れたミーネだが、すぐに第2の攻撃が彼女に襲いかかろうとしている。

 一瞬で状況を理解し、対応に当たることが出来たのはレオンとアレクの2人だけだった。

 アレクは全速力でミーネの下に駆け出し、レオンは散弾銃を立て続けに発砲する。放たれたいくつもの散弾が命中したことで、モンスターがたじろぐ。大きなダメージを与えられているわけではないが、その動きを止める隙を作り出す程度の効果はあったようだ。

 レオンが作り出した一瞬の隙のうちに、ミーネを抱え上げたアレクがモンスターから距離を取ることに成功する。

 取り敢えずの危機を脱しはしたものの、一連のやり取りが行われている間に、群れが彼らの下へと到達してしまった。

 今のレオン達には、最早陣形も何もない。新種のモンスターの手によって、彼らの作戦は完全に崩されてしまったのだ。

 当初はアレクが相手取るはずだった新種は、その目にレオンを標的として捉えている。先程、自らの体に鉛球を喰らわせた相手に怒りを覚えているのだ。

 その様子を見て、レオンは素早くリロードを行った。込めた弾は、対集団を想定していた先程までの散弾とは違い、破壊力の高いスラッグ弾である。目の前の敵は自分が相手取らなければならないと、レオンは決断したのだ。

 既に群れとの混戦を迎えている中で、アレクはミーネの側を離れることができない。シャルエッタとダイタンも、変異体を含めた群れに苦戦を強いられている。レオンへの援護は、期待できないであろう。


 『俺が仕留めるしかなさそうだ。サポートを頼むぞ』

 『勿論、全力を持ってサポートさせて頂きます。ただ、相手はデータの無い、言わば新種体であるモンスターですので、その動きを予測することは難しいかと。マスターには、主に自身の判断で立ち回って頂かなければなりません。敵の動作データをある程度収集できれば、そこからはシルバーの機能が発揮できるはずです』

 『シルバーが動きを見切るまでの間、俺が踏ん張れるかどうかか』

 『これまでの探索と訓練から積んできた経験を、最大限に活かしてください。今のマスターは、自分の考えで立ち回れる力をお持ちのはずです。幸いにも、戦いに横やりが入ることはなさそうですので、目の前の敵に集中してください』


 シルバーの言葉を受けて、レオンは群れのキエン達が自分には襲ってこないことに気が付いた。こちらの様子を窺っているものもいるが、多くはアレク達との戦闘に従事している。


 『……どういうことだ?』

 『巨大な体を持つ、新種体の広範囲に及ぶ攻撃に巻き込まれることを避けているのかもしれません。理由はともかく、こちらにとっては好都合です。仮に奇襲を仕掛けられても、シルバーが事前に知らせます』

 『頼んだ』


 シルバーの言葉に頷くレオン。

 彼が心を落ち着けるように息を吐き出したところで、新種体がその大きな足で地面を蹴った。

 

 『来ますっ!!』


 飛び掛かってきた巨体を、レオンは横に大きく飛ぶことで回避する。彼はその勢いのまま、空中で散弾銃の引き金を引いた。

 放たれたスラッグ弾が胴体部分に命中し、真っ赤な鮮血が飛び散る。確かにその体に傷をつけたにも関わらず、新種体はうめき声一つ上げない。


 『効いてないのかっ!?』

 『確実にダメージは与えているはずです。しかし、想像以上にタフなようですね……かがんでくださいっ!』


 すぐさまその体勢を低くしたレオンの頭上を、彼の胴体程もある太い腕が掠める。慌ててバックステップを踏んで距離を離そうとするレオンだが、それを許すまいと新種体も距離を詰めてきた。


 「ちぃ!」


 思わず悪態をつきながら、レオンは碌に狙いも定めずに引き金を引きまくる。そのうちの数発が体を貫いたことで、新種体は僅かにひるんだ様子を見せた。その隙をついて、レオンは何とか敵から距離をとる。

 一つ一つの行動に、最大限の緊張感が付き纏う。レオンは、少しでも判断を誤れば自分の命はないだろうと悟っていた。神経をすり減らしながら、レオンの戦いは続く。

 そんな彼らの戦闘模様を、アレクは時折その目に捉えていた。

 自身も戦闘の最中さなかにある彼だが、本来は自分が引き受けるはずだった相手をレオンに任せることになってしまった負い目から、無意識にその様子を窺ってしまうのだ。

 アレクは、レオンの動きに違和感を覚えていた。

 自分達を助けに来てくれた際の、変異体を相手にして見せたあの見事な立ち回りが感じられないのだ。

 確かに、今レオンが戦っているモンスターは、キエンの変異体よりも強力な相手であるだろう。しかしそのことを差し引いても、まるでどのタイミングでどこに移動し、どこに向かって発砲すればいいのか、その全てを理解していたかのようなあの動きと比べて、今のレオンは明らかに劣っているのだ。

 十分な休息を取ることが出来なかったことが、起因しているのだろうか?

 アレクはそんな推測を行う。

 ミーネは勿論、シャルエッタとダイタンも変異体を含めた群れの相手で手いっぱいであり、レオンを助けに向かうことは不可能であろう。

 自由に動けないミーネの側を離れるわけにもいかないアレクは、ひどくもどかしさを感じていた。自分達を見捨てず戦ってくれているレオンの、援護に向かうことすら出来ないのだ。

 一方、レオンはアレクとは真逆とも言える感想を、自身の戦いに抱いていた。

 思ったよりも、ずっと戦えている。

 それが、レオンの自身に対する評価だ。

 普段のようなシルバーのサポートを抜きにして、どこまでやれるのか。そんな不安を抱いていたレオンだが、強力な新種のモンスター相手に戦えている。そんな現状に、彼は驚きと喜びを覚えていたのだ。

 だが、それはレオンが極限の集中力を保ち続けることで保たれていた均衡である。その状態が、ずっと続くわけもなかった。

 

 「っ!」


 レオンが、不意に足を滑らせてしまったのだ。

 声にならない叫びを上げるレオンだが、彼を助けてくれるものはいない。

 新種体がその一瞬の隙を見逃すこともなく、殴りつけるような動作で拳を突き出す。その攻撃はレオンに直撃し、彼は後方に向かって大きく吹き飛ばされることになった。

 凄まじい勢いで飛ばされたレオンは、そのまま大木の幹に激突する。


 「ぐはぁ!!」


 レオンの口から、叫び声と共に血が溢れた。


 『……ター!……て…………』


 必死に念話で語りかけるシルバーの声が、レオンにはうまく聞こえない。

 耐え難い苦痛に苛まれながらも、レオンの意識は途切れてはいなかった。衝撃で散弾銃を手放してしまったことにより、手持ち無沙汰となった両手で体を支えて何とか立ち上がろうとする。しかし、力がうまく入らずに立ち上がることが出来ない。

 レオンの視界は赤く染まっていた。頭部のどこかから出血しているらしく、溢れ出る血が彼の顔中を伝っているのだ。

 真っ赤な視界の中で、レオンは大きな2つの手が自分に伸びているのを理解する。しかし彼は回避行動をとることもせずに、その光景を眺めることしか出来ない。

 ゆっくりとした動きで伸びてきた大きな両手が、レオンの胴体を掴んだ。そのまま、彼の体は持ち上げられていく。

 彼の持ち上げられていく先では、新種体がその大きな口を開いていた。レオンのことを捕食しようとしているのだ。

 自らの死を悟らせる、絶望に満ちた光景を目にすることとなったレオン。

 だがそんな中、彼はニヤリと笑みを浮かべた。


 「油断したな」


 碌に拘束されていることもない自由な右腕を動かして、自らの胴を掴んでいる大きな手に自らの右手を添える。


 グギャウゥッッ!!


 その瞬間、変異体が大きな悲鳴を上げた。掴んでいたレオンを手放すと、自らの側頭部を押さえつけてのたうち回っている。


 『……ター!マスター!!聞こえますか?』

 『ああ。何とかな』


 尻餅を着く形で地面に着地したレオンは、シルバーの声に答える。落ちていた散弾銃を拾い上げて、それを杖の様にして立ち上がると、目元を伝う血を拭い取った。


 『うまくやってくれたみたいだな?』

 『肯定。新種体の聴覚に、言葉ではとてもその大きさを表現できないほどの大音量を浴びせました。耐え難い苦痛を味わったことでしょう』


 新種体は、シルバーの能力により大音量で幻聴を浴びせられていたのだ。

 かつてシルバーが現実的ではないと評したその力の活用方法を、レオンは咄嗟に用いたのである。


 『敵が油断していてくれたおかげだな。有無を言わさず追撃されてたら、多分成す術がなかったと思う』

 『マスター、安心するのはまだ早いですよ。新種体はまだ生きていますし、周囲のキエン達が戦闘に加わろうかとしています』


 新種体が異変を見せたことにより、傍観していたキエン達が戦いに加勢しようとしているのだ。


 『まだ完全とは言えませんが、収集したデータを下に今後の立ち回りの指示を出します。マスターの身体状況を思えば難しい動きを要求をすることになってしまいそうですが……』

 『何とかするさ』


 体がふらつくのを感じながらも、レオンは決意のこもった返答を返す。

 彼の受けた傷から考えれば、本来は立っているのもやっとのはずである。しかし、レオンがここで倒れれば、彼に待っているのは死のみなのだ。


 『マスター、ここが正念場です。持て有る限りの力を尽くすのです』


 シルバーが、レオンを鼓舞する為に声を掛ける。

 その言葉にレオンが返事を返す前に、新種体が立ち上がった。

 口からは泡が噴き出し、その目にはレオンに対する強い憎しみが宿っている。


 『行きますっ!ルートに沿って走り、的に向かって発砲して下さい!タイミングは数字が表示します!』


 レオンの視覚に、矢印によって進むべきルートが示される。射撃目標である二重丸の目印も、既にいくつか表示されていた。その中央部分には、徐々に減っていく数字が添えられている。射撃のタイミングを、秒数でカウントしているのだ。


 グオォォォォォ!


 新種体が咆哮すると、周囲のキエン達がレオンに襲いかかる。それと同時に、彼も走り出した。

 ルートに従って走り、的に向かって発砲する。シルバーと共に築き上げてきたこの戦闘方法なら、自分が負けることはないのだ。

 こみ上げてくるそんな自信が、先程までの戦闘と対比するかのようにレオンに沸き上がる。溢れ出るアドレナリンがその体の傷を忘れさせ、レオンは持て得る限りの最大限の動きを見せた。

 キエン達の間を縫って走り、的確な隙を突いて発砲を行うレオンの動きに、新種体はうまく対応することが出来ない。

 明らかに、レオンが優勢となり始めていた。しかし、彼は手負いの状態である。長い間その動きを保つことは難しいだろう。レオンは今もなお、頭から血をまき散らして戦っているのだ。

 

 『マスター、一気に片を付けます!』


 短期決着が必要だと判断したシルバーがそう述べると、レオンの視界に新たなルートが表示される。

 

 『何も考えずに、指示に従って下さい』


 言われるまでもなく、レオンは矢印に従って走る。すると、その進行方向からこちらに向かって、1匹のキエンと新種体が縦に列を成して突っ込んできた。だが、レオンの足は止まらない。シルバーのことを信頼しているからだ。


 『……飛んでください!キエンを足場とし、新種体の頭を狙うのです!』


 そんな動きが出来るのか?などという疑問を抱く暇もなかった。

 レオンは地面を強く蹴り上げると、目前に迫っていたキエンの頭を踏み台として高く跳躍する。あまりに綺麗に決まったその動作に、レオン自身も驚く。

 彼以上に驚いたであろう新種体の顔に向かって、飛び上がるレオン。彼が勢いそのままに散弾銃を突き出すと、銃口が新種体の大きく開かれた口の中へと吸い込まれていく。


 『今ですっ!』


 シルバーの合図とともに、レオンは引き金を引いた。

 口内に突っこまれた銃口から発射されたスラッグ弾が、新種体の頭を撃ち抜く。


 グギャウゥッアッ!


 大量の血をまき散らしながら、新種体は悲鳴を上げた。


 「うおぉぉぉぉ!!」


 レオンは新種体の肩に足を掛けたまま、無我夢中で引き金をひきまくる。

 装填されている弾丸が空になると、新種体が静かにうめき声をもらした。

 

 グゥゥ


 それが、新種体の最期だった。銀色の毛皮に覆われた大きな体が、バタリと地に伏せる。

 それと同時に、レオンも地面に降り立った。


 『…………か、勝った、よな?』


 足元がふらつき、視界が揺らいでいるレオンだが、散弾銃を支えとして何とか立っている状態を保つ。

 レオンは、新種体が完全に事切れていることを確認した。

 勝利を喜びたいレオンだが、まだ戦いが終わったわけではない。周囲には、まだたくさんのキエン達が残っているのだ。

 そう考えて何とか戦闘態勢を取ろうとしたレオンだったが、周囲のキエン達は彼に近づいてくる様子がない。キエン達は動かなくなった新種体をじっと見つめている。

 一体どうしたんだ?

 レオンがそんな疑問を抱いていると、1匹のキエンが甲高い鳴き声を上げた。すると、それに共鳴してキエン達が次々に甲高い鳴き声を上げていく。かと思えば、キエン達はレオンから逃げるように走り出してしまった。


 『な、何が起きてるんだ?』

 『恐らく、このモンスターが群れのボスだったのですね。ボスが倒されたことにより、群れの機能が停止したのでしょう。見てください群れが引き返していきますよ』


 シルバーの言葉通り、アレク達と交戦していた群れまでもが、背中を向けて次々に走り去っていく。

 その光景を眺めていたレオンは、自分達がこの戦いに勝利したことをようやく理解した。


 「……ははっ」


 そう声を漏らしたレオンの体が、ゆっくりと傾いていく。

 アレク達が駆け寄ってくる光景を目にしたのを最後に、彼はその意識を手放すことになるのであった。

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