第15話 協力
散り散りになって逃げていくキエン達の背中を見送り、周囲に敵が残っていないことを確認したところで、レオンは軽く息を吐いた。
『お見事です。マスター』
『ああ。自分でもよくやったと思ってるよ』
初めてクラークに挑んだ際は、とても敵うことなどできないであろうと感じたキエンの変異体。そんな相手を真正面から仕留めたことにより、レオンは自身の確かな成長を感じ取っていた。
「ご助力感謝します。本当に助かりました」
レオンにそう話しかけてきたのは、4人の
「私はアレクと言います。お名前を聞いても?」
「レオンだ。役に立てたなら良かった」
一度シルバーには止められたが、結果的に見れば彼らを助けに来たのは正解だったであろう。そんな思いと共に、レオンは答えた。
「レオンさんですね。あなたには本当に感謝しなければなりません」
アレクが再び感謝を述べたところで、残りのパーティメンバーもレオン達の下に集まってくる。
レオンは、戦闘中は碌に見ることが出来なかった彼らの姿を観察した。
ショートカットの赤髪である女はその手に槍を携えており、立ち姿や顔立ちからは勝気な印象を覚える。反対に柔和な雰囲気を醸し出しているのは、綺麗な金髪を腰まで伸ばしている女だ。彼女は足を怪我しているらしく、坊主頭の大男に肩を借りている。
「シャルエッタよ。助かったわ」
「ミーネです。何とお礼を申し上げれば良いのか……」
「ダイタン。とても、感謝」
彼らは三者三様の言葉で、レオンに自らの名前と感謝の言葉を述べた。
「改めて言うが、レオンだ。見た感じ、あんたらは仲間同士みたいだな」
「はい。僕たちは、ディーペストに所属してる探索者パーティです」
「ディーペスト?」
首を傾げたレオンに対し、シャルエッタが驚いたような顔をする。
「あなた、デイーペストを知らないの!?」
「シャルっ、失礼だろう!……すみませんレオンさん。ディーペストとは、探索者ギルドの名前です。一応、ガレリアで最も大きなギルドなのですが、ご存じなかったですか?」
アレクの問いかけに、レオンはポリポリと頭を掻く。彼はそもそも、探索者ギルドというものが何なのかすら分からない。
「あー、最近探索者になったばかりなんだ。無知は許してくれ」
「最近、ですか?」
「ああ。探索者になってから、1か月くらいだ」
「はぁ!?1か月ぅ!?」
先程アレクに態度を咎められたばかりのシャルエッタだが、思わずといった様子で声をあげる。今回に関しては、彼女以外の面々も同じ様な驚きをその表情に浮かべていた。
「嘘言うんじゃないわよ!あなた、ランクはっ?」
何故か怒ったような声をあげるシャルエッタにやや驚きながらも、レオンは答える。
「白タグだけど……」
レオンが懐から取り出した
「ほ、本物ね……」
食い入るようにしてレオンのタグを見つめていたシャルエッタがそう言ったところで、彼女の首根っこをアレクが掴んで引き寄せた。
「すみません。仲間が失礼なことをしてしまいました。僕は、この通り一応青タグです」
アレクは懐から自らのタグを取り出すと、それをレオンに見せる。
「青タグか。すごいな」
「とんでもないです。正直、レオンさんが青タグ以上でなかったことが驚きですよ。……さあ、みんなもタグを見せるんだ」
アレクが仲間達に声を掛けたことにより、3人はそれぞれレオンと同じ白色のタグを取り出した。先程は衝動的に動いてしまったシャルエッタも、多少バツが悪そうな顔でレオンにタグを見せる。
「別に、そこまで俺に気を使う必要はないんだが……」
「いいえ。自分達だけが一方的に見るわけには行きませんから」
「そういうもんか?まあ、確かに確認させてもらったってことで」
「寛大な対応に感謝します」
『マスター、彼らがどうして追い込まれることになったのか尋ねてみては如何ですか?大森林の異変について、何か分かるかもしれませんよ?』
シルバーの助言に内心で頷き、レオンは口を開く。
「聞きたいんだが、あんたらはどうして群れと戦闘することになったんだ?かなり追い込まれていたように見えるけど」
レオンの言い方にムスッとした表情を浮かべたシャルエッタだが、流石にこれ以上失礼な態度をとるわけにもいかないと、何も言うことはない。
「私のせいなのです。私がみんなの足を引っ張ってしまったから……」
「ミーネ、君だけのせいじゃない。結果的にミーネが怪我を負ってしまったけど、それは僕たち全員が力不足だったからだ」
アレクは、暗い表情を浮かべたミーネに声を掛ける。
「レオンさん、事の経緯をお話ししますね」
彼はそのまま、キエンの群れに追い込まれるに至った経緯を話し始めた。
アレク達は、ディーペストの指示でキエン大量発生の原因を探っていたという。大森林を調べ回っていた彼らは、ある時索敵レーダーがうまく機能しなくなってしまう場所を見つけ出した。
「恐らく、近くに“マナ溜まり”が存在していたんだと思います」
アレクの言葉を受けて、レオンがシルバーに念話で問いかける。
『マナ溜まりっていうのは?』
『その名の通り、何らかの原因でマナが1か所に異常に多く集まっている現象、またはその場所のことを指します。マナ溜まりが発生することは非常に珍しく、発生したとしてもそれは瞬間的なもののはずなのですが……』
レオンがシルバーの解説を耳に挟みながらも、アレクの話は続く。
索敵レーダーは辺りに漂うマナと、モンスターや探索者が有するマナとの差異を感知することで機能している。それがうまく機能しなかったことから、彼らはマナ溜まりの存在に気が付いたのだ。
本来なら短期的な現象であるはずのマナ溜まりが、継続的に発生し続けていることに気が付いた彼らは、そこにキエン大量発生に関する手掛かりがあるかもしれないと踏んで周辺の調査を行った。索敵が難しい状況の中でも、注意深く進めば問題ないと判断したのだ。
しかし、結果的にそれは間違いであった。
彼らは知らず知らずのうちにキエンの群れに囲まれ、一斉に奇襲を受けてしまったのだ。しかも、その中には変異体が最低5匹はいたらしい。
何とかその包囲網から逃げ出すことには成功したアレク達だが、その過程でミーネが足に攻撃を受けてしまう。しばらくの間群れからの逃走を行っていた彼らは、ミーネの怪我が災いして本来の速度を保つことが出来なかった。その結果、再び群れに追いつかれてしまったのだ。
キエン達の群れは、一度目にマナ溜まりで見たものよりは規模が小さくなっていたものの、ミーネの存在によって機動力の削がれているアレク達にとっては、十分に驚異的な相手だった。
そうして、レオンが来るまでの間苦戦を強いられることになったのだ。
「じゃあ、そのマナ溜まりには今も3匹の変異体と、キエンの群れが残ってるってことか?」
「ええ、変異体の正確な数は分かりませんが、最低あと3匹はいたはずです。通常種に関しては、かなり数が減っているとは思うのですが……」
レオンを含めて、そこにいる全員が険しい表情を浮かべていた。
「レオンさん。一度助けてもらっておいて厚かましいことは分かっていますが、お願いがあります」
そんな中、真剣な様子でアレクが口を開く。
「今回の探索において、僕たちのパーティに臨時加入してくれませんか?」
アレクの真っすぐな視線が、レオンのそれと交わる。
「僕たちは、本来の移動速度を発揮できない状況です。これ以上の調査は諦めて地上に帰りたいのですが、その道中にモンスターとの接敵は避けられないでしょう。僕たちが帰還するまでの間、レオンさんには追加の戦力として加わって欲しいのです」
ミーネの怪我により本来の力を発揮でないパーティの穴を埋めるべく、アレクはレオンに助けを求めた。
彼の言葉を受けたレオンは、その場で腕を組んで目を閉じる。返答を迷っているのだ。
『どうすればいいと思う?』
『シルバーといたしましては、彼らを助ける義理はないと言わざるを得ません。余計なリスクを負うことになりますので。しかし、マスターが彼らを助けたいと言うのならば、シルバーはそれに従います』
『うーん』
レオンは、胸中で唸り声をあげる。
異常事態が起こっているこの大森林に、これ以上留まってよいものか。しかし、せっかく一度助けた相手を見捨てるのも忍びない。
そんな葛藤を抱えて、レオンは頭を悩ませていた。
『マスター、まずは彼らに協力した場合の報酬を尋ねては如何ですか?その答えによっては、リスクを取る価値があるかもしれません』
『報酬?』
『肯定。マスターにとっては余計なリスクを伴って協力するのですから、その分の報酬を請求するのは当然のことです』
『まあ、それもそうか』
シルバーの言い分に頷き、レオンはアレクに尋ねる。
「俺が協力した場合、報酬はどうなる?」
「最低条件として、レオンさんが消費することになる弾丸等の必要経費は補填します。しかし正直に言いますと、それ以上のことについてはこの場では確約しかねます……。逆にお聞きしますが、レオンさんが報酬として望まれるものはありますか?」
レオンの質問はある程度想定したらしいアレクは、逆にレオンに問いかけた。
『何かあるか?』
『定番なのは、やはり金銭でしょうか。或いは、人脈という手もあるかもしれません。マスターにその気があるなら、彼らに口利きしてもらってディーペストに入れてもらうこともできるでしょう。これまでずっとソロでの探索を行ってきましたが、信頼できる探索者仲間を得る機会かもしれませんよ?』
アレク達のように、パーティを組んで探索を行う。シルバーの提案したそんな考えは、レオンの中では現実味を帯びていなかった。信頼できる仲間と言われても、いまいちピンとこない。彼にとっては、シルバーさえいてくれればそれで十分なのだ。
『ギルドとかいうのには、興味ないかな。それより、金の方がよっぽど魅力的だ。いくらぐらいを要求すればいいと思う?』
『それでは、ディーペストへの値段交渉を前提とした、金銭での報酬を要求するのがよいかと』
『どういうことだ?』
『ディーペストの所属探索者である彼らからの要請に応えたとなれば、マスターがその報酬をギルドに請求する権利は十分にあります。アレク達自身のポケットマネーから報酬を求めるよりも、より高額の報酬を望むことが出来るでしょう。ただ、交渉の席で上を見過ぎればディーペスト全体に睨まれかねませんので、その点は注意が必要です』
『なるほど。まあ、交渉についてはシルバーがついてれば大丈夫だろう。その報酬なら、リスクを取る価値はあるか?』
『肯定。報酬に加えて、うまく事を運べば最大手ギルドに貸しを作れるかもしれません。リスクを取るには十分な見返りかと』
シルバーの言葉を受けて、レオンは内心でどこかほっとした気持ちを迎えていた。彼は無意識の内に、アレク達を助ける理由を探していたのだ。レオンは、彼自身が思っている以上に、アレク達を助けたかったのである。
「報酬として求めるのは、金だな。ただ、その金額はディーペストに直接要求したい。その交渉権が、あんたら自身に求めたい報酬だ」
レオンの返答を受けて、アレクはその顔に何ともいえない笑みを浮かべた。レオンが、現実的に考え得る限りでの、最高の報酬を要求してきたからだ。
戦闘だけでなく、頭も回るらしい。そんな評価をレオンに下しながら、アレクは答える。
「分かりました。僕が責任を持って、レオンさんとギルドの窓口になることを約束します。それなら、レオンさんは手を貸してくれますか?」
「ああ。協力しよう」
レオンの言葉を受けて、アレク達はホッとした表情を浮かべた。彼らにとってレオンの返答は、自分達の明暗を分ける重要な要素だったのである。
「ありがとうございます。レオンさんがいてくれれば、心強い限りです。改めて、よろしくお願いします」
差し出された手を前にして一瞬戸惑ったレオンだったが、すぐにその意図に気が付いて握手を交わす。
こうして、レオンは一時的に彼らとパーティを組むことになったのであった。
ミーネの存在によりゆっくりとした速度で移動している5人は、モンスターとの戦闘を強いられる場面に何度も遭遇した。索敵は行えても、それらを避けるほどの速度を保てないのだ。
しかし、元から連携の取れているアレク達に、遊撃手的存在となるレオンも加わっている彼らのパーティは、襲い来るモンスター達に苦戦を強いられることはなかった。
「この分なら、俺は必要なかったんじゃないか?」
「とんでもないです。レオンさんがいてくれるおかげで、僕たちは余裕を持って戦えているんですよ」
アレクの言葉に嘘はない。
高い機動力と攻撃力を有しているレオンの存在は、今の彼らには大層ありがたいものだったのだ。
その後も、レオン達はゆっくりとしたペースながらも確実に地上に向かって進んでいく。
主にダイタンがミーネを背負って移動を行っていたが、途中でアレクもその役を担ことになる。その際のミーネの反応は明らかにダイタンに対するものとは変わっており、彼女は顔を赤らめてしおらしい態度をとっていた。
「ちょっとミーネ、デレデレしてんじゃないわよ」
「で、デレデレなんてしてませんっ!」
不機嫌な声色で発せられたシャルエッタの言葉に、ミーネが慌てて答える。そんな光景を、ダイタンがやれやれといった様子で眺めていた。
『何とも分かりやすい関係図ですね』
『ん?どういうことだ?』
『……いえ、相手がマスターであることを失念しておりました』
そんな一幕を交えながら進んでいた一行は、やがて茂みに囲われた空間を発見する。
「交代で見張りを立てて、ここで睡眠をとろう」
アレクが発したその提案に、レオンは首を傾げた。
「ん?地上まではもうすぐだし、このまま進んだ方がよくないか?」
「レオンさんには申し訳なく思いますが、僕達の疲労は既にピークに達しています。残りの距離は少ないとは言っても、無理をして進めば不足の事態を招きかねません。ここは安全策を取って、一旦休息を挟みたいのですが……」
アレクは、レオンに訴えるようにして考えを述べる。
『どう思う?』
『的外れな策ではありません。必要以上に迷宮に留まるリスクも確かに存在しますが、彼らの体力が限界であることも事実でしょう。そのことを考慮すれば、賢明な判断であるとも言えます』
『そうか……』
レオンは、シルバーの言葉に頷いた。
「分かった。そうしよう」
「感謝します」
レオンも了承をして、一行は迷宮内で休息を取ることとなった。
大森林の明るさに変化は見られないが、地上では既に夜を迎えている頃合いだ。迷宮内で一晩を明かすというのは、レオンにとって初めての試みである。
「最初の見張りはとりあえず僕と……レオンさん、お願いしてもいいですか?」
「ああ。分かった」
レオンはアレクの要請に素直に従い、まずは彼等が見張りを行うこととなった。
「3時間後に交代しよう。僕たちの次は、シャルとダイタンで頼む。ミーネは傷を癒す為にゆっくり休んでくれ」
「ごめんなさい、私ばかり……」
あらゆる面で仲間に迷惑をかけていると自負するミーネは、暗い声を発した。
「今のあんたの仕事は大人しく休むことでしょ?いちいち余計なこと考えてんじゃないわよ」
「シャルエッタの、言う通り。今は、休む」
落ち込むミーネに、シャルエッタとダイタンが声を掛ける。
これが、仲間というやつなのだろうか。
温かな雰囲気の漂う彼らのやり取りを眺めながら、レオンはそんなことを考えていた。
最初の見張り番を務めるために、レオンとアレクが茂みの中を抜け出す。
「茂みの周りを、大きく周回するようにして歩きましょう。歩き回っていれば、眠気もこないはずです」
レオンはアレクの提案に頷き、2人は肩を並べて歩き出した。
最低限の警戒を保ちながらも、アレクはどこかリラックスした様子で口を開く。
「これ、もしよければどうですか?」
そう言って彼が取り出したのは、袋に梱包された四角い食べ物であった。
「エネルギーバーか?」
「その通りです。安物ですが、人気のカカオ味ですよ」
いつか口にしたエネルギーバーはシナモン味であったか。そんなことを考えながら、レオンはそれを受け取る。
「悪いな」
「いえ。手を貸してもらっているので、当然です。それに、臨時とは言えパーティですからね。パーティとは、支え合うものですよ」
「……アレク達のパーティは、長い付き合いなのか?」
「はい。幼馴染なんです。辺境の田舎町で育ちましてね、都会と探索者に憧れる、よくいる子供でしたよ」
「なるほど。幼馴染同士のパーティってわけか」
「そうなりますね。探索者になる夢を叶えたいと思った僕に、みんながついて来てくれたんです。故郷にいたころも、ガレリアに来てからも、僕らは4人で力を合わせて困難を乗り越えてきました。レオンさんとは違って、まともな探索者になるまで1年以上もかかっちゃいましたけどね」
はははっ。と、自虐的な笑いをこぼすアレク。しかし、その表情は幸せそうなものだった。
「レオンさんは、どちらの出身なのですか?」
「俺は……まあ、俺のことはいいだろ」
信頼できる仲間達と共に、その胸に夢を抱いて探索者となったアレク。彼の生い立ちは、あまりにもレオンとかけ離れたものだった。
自分以外など、一切信用することのできない孤独の中で育ったレオン。探索者となったのも、外周区から抜け出して人間らしい生活を手に入れるためだ。
自分とアレクの激しいギャップに思うところがあり、レオンはその表情に影を落とす。
彼の変化を感じ取ったアレクは、それ以上その話題に触れることはなかった。
その後、何度かモンスターが茂みに近づいてくることがあったが、いずれも問題なく処理する。彼らの見張り番の時間が終わるまでの間、大きな問題が発生することはなかった。
役目を終えて茂みに戻った2人は、シャルエッタとダイタンに次の見張りを任せると、今度は彼らが休息を取る番となる。アレク達の持参していた寝袋のようなものを借り受け、レオンはその中に身を包んだ。
やわらかい感触が心地よく、すぐに眠気が襲い掛かってくる。
『何かあれば、シルバーが大音量でマスターを起こしますので、安心してお休みください』
『そうならないことを祈るよ』
アレクは既に、すやすやと寝息を立てている。パーティリーダーとして、ずっと気を張り詰めていたのであろう。
自分も眠ろうとレオンが目を閉じかけたところで、彼の名前を呼ぶ声がした。
「レオンさん」
声を掛けたのは、ミーネであった。彼女も同じく寝袋に入っているが、その顔はレオンの方に向けられている。
「起きてたのか?」
「先程、目が覚めてしまいまして。……改めてお礼を言いたかったのです。本当に、ありがとうございました。レオンさんが来て下さらなかったら、私は命を落としていたでしょうから」
レオンが駆けつける直前、ミーネは自らの命を絶とうとしていた。彼の到着があと一歩遅ければ、彼女はここにはいなかっただろう。
「まあ、報酬はあんたらのギルドからたっぷりもらうさ」
「うふふっ。私からも、レオンさんに精一杯の報酬を手渡すように掛け合いますね。こう見えても私、ギルドの上昇部に結構気に入られているんです」
冗談めかしたレオンの言葉に、ミーネはにこやかな顔で答える。なお、当のレオンにとっては至って真面目な発言であった。
「お休みするところでしたのに、すみません。それでは、お休みなさい」
そう言い残して、ミーネはその体を反対方向に向ける。
「……お、やすみ」
ぎこちない声で答えて、レオンも目をつむる。彼が誰かに対して“おやすみ”と述べたのは、これが初めてのことであった。
レオンが眠りについてから、しばらくが経過した頃。
『マスターっ!起きてください!!』
念話によるシルバーの声が凄まじい音量で鳴り響き、レオンは飛び起きる。
『ど、どうしたんだ!?』
『変異体を有するキエンの群れが、こちらに向かって急接近してきています。急いでアレクとミーネを起こし、見張りを行っているシャルエッタ達に合流してください』
シルバーの報告に驚いたレオンは、そばで眠る2人を急いで叩き起こす。
「起きろっ!!群れが近づいて来てる!!」
レオンの叫び声を受けて、アレクとミーネもその場から飛び起きることとなった。いち早くはっきりとした思考を取り戻したアレクが、レオンに問いかける。
「ほ、本当ですか?」
「ああ、間違いない。俺はシャルエッタ達のところに行ってくる!」
ミーネを伴っては迅速な移動が出来ないと判断したレオンは、1人で茂みから飛び出した。
『ルートを表示致します』
シルバーの指示に従い、シャルエッタとダイタンの下まで走る。すぐに彼女達の下に追いついたレオンは、切迫した声を漏らした。
「キエンの群れが近づいて来てる」
慌てて走ってきたレオンを不思議そうに見つめていた2人は、彼の言葉に驚きの表情を浮かべた。
「はぁ?あなた何言って」
怪訝な顔をしたシャルエッタがそこまで言ったところで、彼女が手にしていた索敵レーダーに無数の反応が示される。シャルエッタがギョッとした表情を浮かべると、大地を揺らす地響きの音が徐々に近づいて来た。
「嘘っ!?」
シャルエッタが信じられないと言った声を上げ、ダイタンは静かに斧を構えた。
地響きは凄まじい速さで近づいてくると、レオン達はその発信源を視界に捉えることになる。
それは、3匹の変異体を筆頭にしたキエンの群れだった。ただでさえ驚異的に見えるその群れだが、更に目を疑うような存在が姿を現す。
群れの中央に、3メートルはあろうかという大きな猿型のモンスターが1匹混じっていたのだ。しっかりとした2足歩行で走ってくるそのモンスターは、明らかに他のキエン達とは異なる。
「な、何なのあいつ……」
その恐ろしい姿を目にしたシャルエッタが、青い顔をして呟く。レオンの目から見ても、あの大型モンスターは非常に恐ろしいものに映った。
『シルバー、あいつは何なんだ?』
『…………分かりません』
『え?』
シルバーの予想外に返答に、レオンは目を丸くする。
『シルバーの所持しているデータの中に、あの様なモンスターは存在していません』
いつも無機質なはずのシルバーの声色には、明らかな動揺が含まれていた。
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