第14話 探索者パーティ
昨晩リンと夜遅くまで飲み明かしたことが原因となり、その日のレオンは普段と比べて遅い時間に目覚めを迎えていた。
幸い体にアルコールが残っているということもなく、レオンは今日も今日とて迷宮に向かうために、まずは協会支部へと立ち寄る。
レオンの目覚めがいつもより遅かったとは言ってもまだ午前中であり、協会支部にいる
最近になってかなり身についてきた文字の読解能力の確認も兼ねて、レオンは依頼が張り出されている掲示板へと向かった。目を凝らしながら張り出された紙を眺めていると、彼の下にズカズカと1人の女性が歩み寄ってくる。それは、険しい表情を浮かべたマリーであった。
「レオンさん、昨日はどうしてリンの誘いをはぐらかしたのですか?」
マリーは今朝、事の次第をリンから聞き及んでいた。勇気を振り絞って次のデートの誘いを行ったリンに対して、レオンが次はマリーと一緒に行こうと答えたことに怒っているのだ。
リンから話を聞いた当初、信じられないと憤っていたマリーであったが、リンからこの件に関してあまりレオンに口出しするようなことは止めてほしいと釘を刺されている。しかし、それでもレオンの発言の理由くらいは聞いておかねば、彼女の気は収まりそうになかった。
一方のレオンは、マリーの言動の理由が分からずに狼狽える。
「え、えっと?誘いをはぐらかしたっていうのは?」
「とぼけないでください。リンに対して、今度は私も連れていこうって言ったそうじゃないですか!」
それの何がいけないのだろうか。レオンはそんな思いを抱きながら混乱する。
『シ、シルバー、どうしてマリーはこんなに怒ってるんだ?』
『さあ、どうしてでしょうね。シルバーには分かりかねます』
シルバーに助けを求めたレオンであったが、どこかそっけない様子のシルバーは全く彼を助けてくれる気配がない。
仕方がないので、レオンはありのままの心意を話すことにする。
「そ、それは、美味い店の料理を食べられないマリーが気の毒だと思って……」
「……私に気を使ったんですか?」
「まあ、そういうことになるのかな……」
レオンの返答を聞いて、マリーは大きくため息をついた。相変わらず彼女の態度の理由が分からないままのレオンに、マリーが続けて述べる。
「レオンさんがどういう人なのか、少し分かりました。いいですかっ!次からはそんな余計なことは考えなくていいですので!またリンと2人でご飯に行ってあげてください!」
「え、えーっと」
「い い で す ね !」
「は、はい」
マリーの剣幕に気圧されて、レオンは思わず頷く。
「はぁ、レオンさんって、こっち方面はからっきしだったのね……」
そんな独り言を残すと、彼女はそれ以上レオンに何も言うことなくカウンターへと戻って行ってしまった。
レオンの鈍感さを嘆いたマリーの呟き。その発言はそっくりそのまま彼女自身にも言えることではあったのだが、そのこと指摘する人物はここには存在しない。
「何だったんだ……?」
レオンはしばらく、その場で首を傾げ続けることになったのであった。
気を取り直して迷宮に挑んだレオンは、大森林の中を進んでいた。今日は、第一階層の後半部分である沼地の探索を行う予定である。
待ち構えているであろう新たなモンスターや環境に対する期待と不安を胸に、レオンは沼地を目指す。順調に歩みを進めているかのように思われたレオンだったが、大森林を半分ほど進んだところで、シルバーがやや真剣そうな様子で彼に声を掛けた。
『マスター、大森林の様子がすこしおかしいです。先程から、索敵範囲内にいくつものキエンの集団を捉えています。接敵すると面倒なので、何とか迂回しながら進んでいる状況です』
『確か、キエンの大量発生ってまだ続いてるんだろ?その影響じゃないのか?』
『それにしても、これまでと比べて明らかに異常な数です。……本日の迷宮探索は、中止した方が良いかもしれません』
『……そこまでなのか?』
『今のマスターなら、キエンが異常に大量発生しているという現象自体に問題はありません。ただ、その原因は未知数であり、そこに大きな脅威が潜んでいる可能性もあります。一度地上に戻って、何らかの情報が入っていないか確認するべきかと』
『そうか……まあ、シルバーが言うならそうしよう』
沼地へ行けるとばかり思っていたレオンは多少残念な気持ちを抱くが、安全策を取るに越したことはないだろうと判断する。
踵を返して歩き始めたレオンだったが、その直後に再びシルバーの声が掛かった。
『マスター、大きく迂回する必要があります』
『どうしたんだ?』
『ここから西に2キロ程離れた地点にて、大規模な戦闘が行われているようです。このままでは、巻き込まれる恐れがあります』
『戦闘って、探索者とモンスターとのか?』
『肯定。4人の人間が、2匹の変異体を有する大規模なキエンの群れに取り囲まれているようです』
『2体の変異体!?おいおい、変異体って珍しいんじゃなかったのか?』
『シルバーも驚きを覚えています。キエンの大量発生と何か関係しているのかもしれませんね……思えば、マスターがキエンの変異体と遭遇した翌日から、大量発生の報告が協会支部に届いていました。そこから長い時を経ずして、異常な大きさと攻撃性を持つ黄金ミツメドリにも遭遇しています。大森林を取り巻いている何らかの異変は、時間をかけて少しずつ進行してきているのかもしれません。……いずれにせよ、とにかく今は地上を目指しましょう』
『……戦っている探索者達は、大丈夫そうなのか?』
『ここから戦況を判断することはできません。ただ、恐らく簡単な戦いではないかと』
『そうだよな……』
4人で戦っているとはいえ、相手はあの変異体だ。それが2匹もいて、さらに通常種のキエンも多く加わって群れを成しているという。探索者達のランクは分からないが、それがレオンと同じ白タグ以下ならば、4人はむしろ少ない数字と言えるのかもしれない。
『なあ、助けに行かなくていいのか?』
『……おすすめは致しません。あちらの戦況も分からなければ、探索者達の人柄も不明です。何より、マスターが不要なリスクを取ることになります』
『そうだけど、もしかしたら苦戦して助けを欲しているかもしれないだろ?っていうか、その可能性の方が高いんじゃないのか?』
『そうかもしれませんが、それがマスターを危険にさらす理由にはなりません。何故、見ず知らずの相手を助けたいのですか?』
どうして助けたいのか。
その明確な答えを、レオン自身も持ち合わせているわけではなかった。そんな中でも、彼は自分の抱いている感情をうまく言語化しようと試みる。
『何て言うのかな、助けられたかもしれない人を見捨てるのは寝覚めが悪いっていうか……シルバーだって俺を助けてくれてるじゃないか』
『それは、マスターがシルバーのマスターだからです』
『それでも、初探索で死ぬはずだった俺を助けてくれたことには変わりない。助けてもらってばかりの俺が、自分は誰も助けないってのは、やっぱり何だか気持ちが悪いんだよ』
レオンの説得にも近い言葉に、シルバーは少しの間沈黙する。
『……よろしいのですね?探索者達が助けを求めているとも、好意的であるとも限りませんよ?』
『ああ。それでも、このまま帰るのは何か嫌だ。……どうしても許可できないのか?』
『否定。マスターの望みが、シルバーの望みです。やるからには、全力をもってサポートさせて頂きます』
『ああ。よろしく頼む』
大規模なキエンの群れと交戦している探索者達を助けに向かうことを決定し、レオンは現場へ向かって走り出した。
「ダイタン!3匹そっちに行った!ミーネを守れっ!シャル!足を止めるな、囲まれるぞっ!」
巨大な大木が生い茂る大森林にて、4人の探索者達が戦闘を行っている。彼らは、2匹の変異体を筆頭としたキエンの群れに取り囲まれていた。
彼らの中心となって声を張り上げているのは、アレクという名の男だ。他の3人が白タグであるのに対し、彼だけは1つ上のランクの青タグである。
「くそっ、どうして何匹も変異体がいんのよ!」
そう悪態をついたのは、シャルエッタという女性探索者だ。彼女は槍をその手に戦っており、迫りくる数多のキエン達を懸命にいなしている。普段であれば複数のキエンなど涼しい顔で討伐できるであろうシャルエッタだが、今回ばかりはその顔に焦りが生まれていた。
「みんなっ!もう私のことはいいから逃げてっ!!」
同じく女性探索者であるミーネが、涙目で叫ぶ。彼女は足に怪我を負い、その場から動けないでいる。そんな彼女を守るような陣形を取りながら、アレク達は戦っているのだ。
「ふざけないでっ!絶対に見捨てたりしないわっ!余計な口叩いてる暇があったら、その手を動かしなさい!」
自らを置いて逃げるように訴えるミーネに対し、シャルエッタが叫ぶようにして答える。
「そうだ!全員で切り抜けるぞ!」
アレクもシャルエッタに追随するようにして叫んだ。
彼は右手に剣を、左手に拳銃を所持しており、それらを駆使しながら2匹の変異体を前に立ち回っていた。いくらこの中で一番の実力を持つ青タグといえども、通常種のキエン達の横槍も入るこの状況下で、1人で2匹の変異体を相手取るのは簡単なことではない。そんな中でも他のメンバーに声を掛け続けられるアレクは、大した実力の持ち主であると言えるだろう。
「みんな……」
動くことのできないミーネは、強い自責の念に駆られて涙を流す。
「手、動かせ。余計なこと、考えない」
ミーナの側で戦う大男のダイタンが、くぐもった声でそう彼女に言葉を掛ける。ダイタンはその大きな体に見合った巨大な盾と大斧を手にしており、ミーナに近づくキエンを仕留める役割を果たしていた。
「っ!」
ダイタンの言葉を受けたミーネは、あふれる涙を堪えるために下唇を噛んで声にならない叫びをあげる。仲間たちの覚悟を悟った彼女は、その手に持っている拳銃を構えて自らも全力の援護にあたった。
困難な状況に陥りながらも、力を合わせて戦い続ける4人。彼らは、幼馴染の探索者パーティであった。
一番の実力を持ち、リーダーシップに溢れているアレク。荒い気性を持ちながらも、仲間には思いやりを見せるシャルエッタ。温厚な性格で、面倒見のよいミーネ。寡黙ながらも、頼りがいのある大男のダイタン。
そんな4人は、地方の田舎町で幼少の頃から同じ時を過ごしてきたのだ。
彼らが今日に至るまでに歩んできた道のりは、決して簡単なものではなかった。
いつも彼らの中心であったアレクが15歳を迎えると、彼はずっと憧れていた探索者となるためにガレリアへと向かうこと決意する。アレクを慕う3人も追随するようにして、彼らは4人でガレリアの地へと訪れることとなった。
無事にガレリアにたどり着いたアレク達は、約1年もの時間を費やして金を溜めることになる。無策に迷宮に挑んでも死ぬだけだと判断したアレクが、装備を揃えるための準備期間を設けることを決めたのだ。最低限の教養は身に着けていた4人は、それぞれの長所を生かした仕事を無事に見つけると、その後の時間はあっという間に過ぎていった。苦労して稼いだ金のほとんどを使い切る形で装備を揃え、彼らは1年後、ついに大迷宮クラークに挑むことになる。
だが、その結果は散々だった。
迷宮はアレク達が想像していた以上に過酷で、1年間必死になって集めた装備や知識を、彼らは碌に活かすことができなかったのだ。何とか生きて帰ることができたのは、不幸中の幸いだったであろう。
しかし、多くの金を費やしたのにも関わらず、探索で持ち帰った成果はゼロ。このままではとても探索者として生きていくことなどできないと判断した彼らは、ガレリア最大の“探索者ギルド”である“ディーペスト”の門を叩いた。
探索者ギルドとは、協力関係を結ぶために多数の探索者達が集って構成した組織のことである。
アレク達が加入したディーペストという名のギルドは、いくつもの探索者ギルドが存在しているガレリアの中でも最大規模を誇っているギルドだ。所属している探索者の数は、実に100を越えている。
ディーペストに加入することができたアレク達は、その後半年程の時間を費やして先輩探索者達の教えを受けることとなった。新米探索者を、先輩探索者が指導する。そんなシステムが導入されていることがディーペストの大きな特徴の1つであり、また魅力でもあるのだ。
ギルドのサポートによって探索者としての基礎力を身に着けたアレク達は、その後順調に探索者パーティとして成長していった。
ディーペストに加入してから1年が経過した先日、パーティリーダーであるアレクがついに青タグへの昇格を果たした。最早、彼らを新米扱いするものはいないだろう。アレク達は現在、ディーペストの中で最も勢いに乗っている注目株にまで上り詰めたのだ。
そんな彼らに、ディーペスト上層部からの依頼要請が届く。その内容は、大森林にてキエンが大量発生している原因を究明して欲しいとのものだった。協会支部が直々にディーペストに発注した依頼を、ギルドの上層部がそのままアレク達に持ち寄ったのである。これは、ディーペストの首脳陣のアレク達に対する期待の表れでもあった。
そのことを理解している彼らは、ギルドの期待に応えるべく依頼を受けることを決意する。そもそも、ディーペスト内において上からの指示に逆らうなどという選択肢は存在しないが、そんな前提がなくともアレク達は喜んで依頼を受けていただろう。
そのような経緯を経て、今日彼らは成果をあげようと息巻いて大森林へと訪れたのだ。
そして現在、4人は絶体絶命のピンチに陥っている。
「アレクっ!これ以上は戦線が維持できない!」
「何とか耐えてくれ!こいつらの内の片方でも仕留められれば、勝機が見えるはずだ!」
無数のキエン達を相手に立ち回っているシャルエッタと、2匹の変異体を相手取っているアレクが言葉を交わす。
射撃によって必死に援護を行っているミーネも含めて、4人は各々の全力を尽くしている。それでも、戦況は徐々に彼らの不利へと傾き始めていた。
無数に襲いくるキエンの群れに対して、彼らはたったの4人なのだ。長い時間心身をすり減らしながら戦い続ける彼らの動きは、少しずつ鈍くなっている。
「……くそっ!!」
自身も戦闘を行いながらも、今まで仲間達を鼓舞し続けてきたアレクが初めて悪態をついた。
自分がどちらか片方の変異体だけでも仕留められれば、戦況は一気に自分たちの優位に傾くだろう。そんな考えを抱きながらも、連携しながら襲い来る2匹の変異体の前に中々突破口を見出すことができず、アレクは沸き上がる悔しさを思わず口にしてしまったのだ。
2匹の変異体を相手取るアレク。前線に立ち、最も多くの数のキエンと戦っているシャルエッタ。動けないながらも、射撃によって賢明な援護を行うミーネ。ミーネを守れる距離を保ちながら、最大限に走り回ってキエン達を仕留め続けているダイタン。
あと1つ。何かあと1つでも自分達を補う要素があれば。
アレクは、そんなもどかしい思いを抱えながら戦い続ける。
だがその時、ミーネは彼とは真逆とも言えることを考え始めていた。
この場で1つだけ、明らかに不要な要素がある。それがあるから仲間達は逃げ出すことも出来ず、彼らは追い詰められているのだ。本来の彼らなら、この戦いに勝てずとも生きて逃げ出すくらいのことは出来るはずなのである。
そう、|不要な要素(じぶん)さえいなければいいはずなのだ。
ミーネの決意は固まった。
鳴り響いていた援護射撃の音がピタリと止まったことを不審に思い、ダイタンがミーネの方を振り返る。彼が目にしたのは、自らのこめかみに銃口を突き付けているミーネの姿だった。
「っ!!よせっ!!やめろ!!」
普段の寡黙な彼からは想像できないような大声をあげ、ダイタンはミーネを止めるべく走り出す。
彼の叫びに気がついたアレクとシャルエッタも事態に気づき、自らの戦闘もそっちのけにして必死で叫んだ。
「ミーネっ!やめろ!やめるんだ!!」
「馬鹿な真似はよしなさい!!お願い……やめてぇ!!」
らしくない焦りを浮かべて走り寄ってくるダイタン。必死になって叫んでいるアレクとシャルエッタ。
そんな光景が、ミーネの目に焼き付く。
ああ。自分は何て幸せ者なのだろうか。
状況に似つかわしくない笑みを浮かべたミーネは、そっと引き金に指をかけた。
パァン
一発の銃声が鳴りひびく。
その音の直後にドサリと地に伏せたのは、1匹の変異体であった。
アレク、シャルエッタ、ダイタン、そして、今まさに自らの命を絶とうとしていたミーネが、突然の出来事に目を見開く。
彼らが目にしたのは、キエンの群れの中を突っ切る様にして走り抜けて来るレオンの姿だった。先程の発砲音は、レオンが変異体に向かって散弾銃を放ったものだったのだ。
彼はキエン達の間を縫ってアレクの下までたどり着くと、落ち着いた様子で口を開く。
「援護する」
それだけを述べたレオンは、残っているもう片方の変異体に向かって銃口を向ける。その動作を合図に、呆気に取られていたアレクがハッとした表情を浮かべた。
「助かりました!俺も一緒にっ」
「不要だ!あんたは群れの処理に当たってくれ!」
「……分かりました!」
足元に転がる1匹目の変異体の死体を一瞥すると、アレクはレオンの言葉に素直に従った。変異体は綺麗に頭部を撃ち抜かれており、そこからアレクはレオンの高い射撃能力を感じ取る。彼に援護は必要ないのだろうと、アレクは判断したのだ。
「シャル!俺も加わる!この機に一気に片を付けるぞ!」
「っ!分かったわ!2人がかりなら楽勝よ!」
やや混乱している様子のシャルエッタだったが、アレクの言葉を受けてその調子を取り戻す。
「ダイタン!引き続きミーネの側にいてくれ!」
「おうっ」
ダイタンもニヤリと笑みを浮かべる。
「……ミーネ!」
アレクに名前を呼ばれたミーネは、ハッとして彼の方に顔を向けた。
「援護をたのむぞっ!」
「…………うん!」
ようやく事態が好転したことを理解したミーネは、満面の笑みを浮かべて答える。
彼女をはじめとする4人の表情は、先程までのものとはガラリと変わっていた。突然のレオンの介入驚きはしたものの、そのおかげで風向きが自分達に傾いたことを感じ取ったのだ。全員がその表情を輝かせ、明らかに良くなった動きでキエン達と戦っている。
そんな中でも、アレクは横目でレオンのことを冷静に観察していた。
突然現れて自分達を助けてくれた謎の探索者。その戦いぶりを、自身の目に捉えておきたかったのである。
不意を突くことが出来た1匹目とは違って、レオンは現在真正面から変異体と対峙している。だが、それでも彼が遅れをとることはなかった。素早い動きで駆け回りながら相手を翻弄し、隙を見て着実に変異体に弾丸を撃ちこんでいる。一方的に攻撃を受けることしかできない変異体が倒されるのも時間の問題であろう。
レオンの戦いぶりを視界に収めながら、アレクは彼の動きに驚きを覚えていた。純粋に高い戦闘能力を有していることに加えて、彼は時より死角から襲い来る通常種のキエンにも完璧な対応を見せていたのだ。まるで360度の視界を有しているかの様な動きである。
結局、レオンは長い時間をかけることなくして、変異体の討伐を成し遂げるのであった。彼はそのまま、残ったキエン達の群れの対処に加わる。
変異体を失ったキエン達の群れは、最早彼らの脅威ではなかった。
凄まじい勢いでその数を減らされていったキエン達は、やがて散り散りになって逃げまどい始める。背中を見せるキエン達を無理に追いかけることなく見送り、戦闘は終わりを迎えた。
絶体絶命のピンチを迎えていたはずの探索者達は、レオンの助けによってその戦いに勝利を収めることとなったのであった。
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