第12話 覚悟


 レオンは大森林の中を駆け抜けていた。

 彼の視界には、進むべきルートが矢印で表示されている。

 

 『間もなく、射撃位置に到達いたします』

 『分かった』


 戦闘中ではあるものの、レオンはシルバーの指示に念話で返事をする程度の余裕を持ち合わせている。

 レオンは所定の位置までたどり着くと、振り返ってから片膝立ちの状態になり、自らが手にしている得物を構えた。彼の武器は、2週間程前に600万エンを支払って購入した散弾銃である。黒く塗装された銃身が光り、その延長線上ではレオンの鋭い眼光がシルバーの示す的を睨み付けている。


 『間もなくです。5、4、3、2、1、発射』


 レオンは引き金を引いた。

 拳銃よりも強いその衝撃に体勢を崩すこともなく、彼は自らが放った弾丸の行く末を見届ける。放たれたのは、“スラッグ弾”と呼ばれる種類の大粒の弾だ。細かな粒状の弾が無数に内包されている“散弾”とは異なり、このスラッグ弾は1粒の大きな弾丸である。

 先程までシルバーによって示されていた狙撃目印の場所に現れたのは、真っ赤な毛皮に全身を包んだブラッドベアであった。以前、レオンを絶体絶命のピンチに追い込んだ危険なモンスターである。

 ブラッドベアの胴体部分に向かって飛んで行ったスラッグ弾であったが、ブラッドベアはその驚異的な反射神経と運動能力で、間一髪のところで横に飛んでそれをかわすことに成功する。


 『今です』


 だが、その動きさえも予測するのがシルバーであった。

 予め表示されていたもう1つの的に向かって、レオンはもう一度狙撃を行う。

 一発目の弾丸を回避したその先にめがけて放たれた弾丸に対して、流石のブラッドベアであっても対抗手段を取ることは難しく、その腹部にスラッグ弾が命中した。

 レオンの武器が拳銃であったなら、ブラッドベアはその攻撃にびくともすることはなかっただろう。だが、今回ブラッドベアを襲ったのは散弾銃から放たれたスラッグ弾である。その威力は、拳銃とは比べものにならない。


 グオォォォォ!!


 赤い毛皮を塗りつぶすような真っ赤な鮮血が、ブラッドベアの腹部から噴き出す。猛烈な痛みによって叫び声を上げるブラッドベアだが、まだその生命力は弱まっていない。すぐにでも体勢を立て直し、自らの敵であるレオンに向かって行こうとする。

 だが、次にブラッドベアが目にすることになったのは、三度みたび自らに向かって迫りくるスラッグ弾であった。


 『敵が体勢を立て直す前に、装填されている弾丸を全て発射してください』


 そんなシルバーの指示により、レオンが残っていた5発全てのスラッグ弾を続けざまに発砲していたのだ。

 4発の弾丸がブラッドベアの大きな胴体部分に命中し、最後の1発がその顔面部分に直撃する。

 最早それまでであった。

 ブラッドベアは最後に微かなうめき声を漏らすと、その真っ赤な巨体をバタリと地に伏せる。


 『……やったか?』

 『肯定。お見事です、マスター。ただ、今後その言葉は使われない方がよろしいかと』

 『ん?何でだ?』

 『ジンクスというものですよ』


 シルバーのよく分からない提言に首を傾げながらも、レオンはふぅと1つ息を吐いた。

 彼は腰に携えられた短刀を手に取り、ブラッドベアの魔石の回収に取り掛かる。


 『この前の雪辱は果たせたな』

 『やられっぱなしのままでは、探索者シーカーとしての威厳に関わりますからね』

 『まあ、言ってもリベンジするまでに2週間かかっちゃったけど』

 『……』


 シルバーは少しの間沈黙した後、ややためらいがちに言葉を返した。


 『マスター、これは伝えるべきか迷っていたのですが、正直に申し上げまして、マスターの成長スピードは異常とでも言うべき速さを誇っています』

 

 シルバーの思わぬ発言に、レオンは再び首を傾げる。


 『……そうなのか?』

 『肯定。シルバーのサポートがあるとは言え、探索者となってから1か月も経たずに単独でブラッドベアの討伐に成功するのは、十分に異常と言うべき速さです。マスターがおごってしまう危険性も考慮してお伝えしておりませんでしたが、むしろマスターはもっと自分の実力に自信を持つべきです』

 『でも、それはシルバーがいるからだろ?俺だけじゃとてもコイツを倒せるとは思えない。考えてみれば、俺って異能スキル持ちみたいなもんだよな。シルバーっていう異能のな』

 『……シルバーが最大限マスターをサポートしているのは事実ですが、それだけでは説明がつかないのです。銃の扱いに慣れる速度や戦闘における精神力が優れているだけではなく、マスターはマナを取り込む速度も極めて速いと言えます』

 『マナを取り込む速度が速い?』

 『肯定。継続的に迷宮に訪れてモンスターを倒すことで、人は誰でもマナを体に取り込んで身体能力を向上させていきます。ただ、その速度には若干の個人差があるのです。変異体を討伐したことなどの要因もありますが、マスターの場合は若干の個人差という言葉では片づけられないほどに速いマナの摂取速度を有しているのです』

 『そうか……』

 『長年の外周区での生活による栄養失調が関係しているのでしょうか……、しかし、そのような境遇の探索者は他にも存在していますし……』


 ほぼ独り言のように考察を初めてしまうシルバー。魔石の回収を終えたレオンは、そんなシルバーに話しかける。


 『まあ、原因なんか何でもいいだろ?重要なのは、俺がラッキーな体質だって事実なんだから。それより、さっさと先に進もうぜ。今日の目標達成までもうすぐだ』

 『……肯定。そうですね。先に進むと致しましょう』


 シルバーの示すルートに従い、レオンは歩き始める。

 今や見慣れた大森林の光景ではあるが、しばらく歩き続けた彼はやがて今までに見たことのない景色をその視界に収めることとなった。


 『ここが沼地か』


 レオンは、第一階層の後半部分である沼地までたどり着いたのだ。彼は今日、大森林を抜けて沼地にまで到達することを目標としていたのである。


 『何だか、一歩前に進んだ気がするな』

 『肯定。マスターは、新たなステージへと到達したのです』


 辺りにはうっすらと霧が立ち込め、足元は多分に水分を含んだ土でぬかるんでいる。沼地に関すること全てが新鮮な光景であり、レオンは確かな高揚感を覚えた。

 この気持ちそのままに沼地の奥へと進みたくなるが、今日はこれ以上進むべきではないだろう。


 『さて、それじゃあ帰るか。今日のところはとりあえず沼地を見るのが目的だったしな』

 『正しい判断です。感情に流されて無理をすれば、思わぬミスを招くことになりますからね。それでは、地上へのルートを表示致します』


 レオンは今一度沼地の景色をじっくりと眺めた後、踵を返して再び大森林へと足を踏み入れた。


 その後、レオンは特に大きなトラブルもなくガレリアへの帰り道を歩んでいた。

 今日もこのまま無事に帰還できそうだ。彼がそんなことを考えていた矢先、シルバーの念話が頭の中で響き渡る。


 『マスター、前方に4人の人間の生体反応を感知致しました』

 『他の探索者か?』

 『その可能性が高いとは思うのですが、どうにも様子がおかしいです』

 『と言うと?』

 『先程まで1か所に固まっていた4人ですが、マスターの接近に伴い散開し、まるでマスターを待ち伏せているかのような陣形をとっているのです』

 『俺を待ち伏せ……?』


 自分が迷宮内にて誰かに待ち伏せされるような理由が分からず、レオンは眉を吊り上げた。


 『もしかすると、“タグナシ”かそれに順ずる荒くれ者の可能性があります』

 『タグナシっていうのは?』

 『探索者協会に所属していない探索者のことです。探索者板シーカータグを所持していないことから、タグナシと呼ばれています』

 『そんなのがいるのか』

 『基本的に、探索者が探索者協会に所属しないことにはデメリットしかありません。魔石や宝物トレジャーを正規のルートで売ることもできませんし、迷宮に関する最新情報を得たり依頼をうけることもできません。そのため、タグナシとなっているのは犯罪歴などの後ろ暗い理由によって協会に登録できない、或いは追放された者達であると言えるでしょう』

 『そんな奴等が俺を待ち構えているっていうのは、穏やかじゃないな』

 『肯定。マスターを殺し、その所持品を狙っている可能性が高いでしょう』


 迷宮内は、基本的に無法地帯である。

 例え誰かを殺してその所持品を我が物として持ち帰っても、それが死体から入手したものであると言われてしまえばそれまでなのだ。そのため、顔見知りである者を除いては、迷宮内における探索者同士の接触にはある程度の緊張感が伴う。

 今回に関しては、待ち伏せなどをされているのだから尚のことだろう。


 『どうする?迂回するか?』

 『……肯定。一度大きく迂回して、相手の出方を伺ってみましょう』


 シルバーが新たなルートを表示し、レオンはそれに従って方向転換を行う。

 しばらくそのまま進んでいたレオンだが、やがてシルバーが再び彼に言葉を掛けた。


 『だめですね。4つの反応がマスターを追うように追随してきます』

 『そうか……』

 『マスター、人を殺めることに抵抗はありますか?』


 シルバーの問いかけに、レオンは顔をしかめた。

 彼は長年生活してきた外周区において、人が殺される現場を見たこともあれば、死体から物をくすねたこともある。身近とまでは言わなくとも、レオンにとって殺人は決して浮世離れした行為ではないだろう。

 だが、彼自身が殺人を犯したことはない。

 モラルの観点による若干の抵抗と、未知の行為に対する恐れ。シルバーの問いかけに、レオンはそんな感情を覚えた。


 『正直、多少の抵抗はある。でも、こっちを殺しにくる相手に対してなら、躊躇なく引き金を引けるとは思うな』

 『それでしたら、殺し合いになることを覚悟して先に進みますか?或いは、モンスターをわざとおびき寄せて擦り付けるなどいった手も考えられますが、不要なリスクを負うことになってしまうかもしれません。とは言え、このまま進んだ先で敵意を持つ人間に対して引き金を引けないのであれば、その方が危険な行為です。ですので、このまま進む場合は、マスターには人を殺める覚悟を決めてい頂きたく思います』


 シルバーの言葉を受けて、レオンは今一度気持ちを整理する。

 今後探索者を続けていれば、似たような場面に遭遇することもあるかもしれない。その度に逃げていては、いつかは追い詰められてしまう日が来るかもしれないのだ。今のうちに、覚悟を決める必要があるだろう。


 『……分かった。覚悟を決めるよ。このまま進もう』

 『かしこまりました。それでは、戦闘になることを想定しながら進むことに致します。ですが、あちらがマスターに対して敵対行動をとると100パーセント決まったわけではありません。一度こちらからの警告を試みることに致しましょう』

 『了解だ』


 レオンは覚悟を胸に歩みを進めると、シルバーに指示された位置で立ち止まる。そしてそのまま、シルバーの指示に従って大きな声を張り上げた。


 「そこにいるのは分かってる!数は4人だ!あんたらの行動は、こちらに対する敵対行動だと取られてもおかしくない!違うと言うのなら姿を見せろ!」


 レオンの声に反応はなく、辺りを静寂が包み込む。

 敵で確定かと散弾銃を構えたところで、茂みの中からロン毛の男が両手を頭上に上げて現れた。


 「待ってくれ。こちらに敵対の意思はない。……お前らも出てこい」


 ロン毛の男がそう言うと、辺りからわらわらと残りの3人がその姿を見せる。

 現れたのは無精ひげの男、半目の男、そしてこれといった特徴もない男だった。全員が血色の悪い顔色をしており、そのボロボロの身なりから彼らが外周区の人間であることがすぐに見て取れる。

 レオンはすぐに発砲できる構えを取りながら、彼らに問いかけた。


 「お前ら、タグナシか?」


 レオンの問いかけに答えたのは、ロン毛の男だった。彼がリーダー的な立ち位置にあるらしい。


 「そ、そうだ」

 「どうして俺を待ち伏せていた?」

 「……実を言うとな、あんたが想像している通り、所持品目当てで襲おうと思ってたんだ」


 ロン毛の男の正直な発言に、特徴のない平凡な男がギョッとした表情を浮かべる。ただでさえ彼が元から一番顔色が悪かったが、その色が更に悪化していく。

 レオンもまた、男の言葉を受けて得物を握る手に力がこもる。


 「ま、待ってくれ。でも、それはやめることにした。あんた、見た目の割に結構強そうだし、俺達だって勝てない戦いはしないよ」

 『マスター、この男、後ろ腰に拳銃を隠し持っています。他の3人は、全員刃物武器のみを所持しているようです』

 『了解だ』


 レオンとシルバーが念話を行っている間も、ロン毛の男の話は続く。


 「あんたを襲おうと考えたのは事実だけど、こうして未遂に終わったんだ。見逃してくれないかな?」

 「……拳銃を隠し持ってるな?出せ」


 その瞬間だった。


 『発砲してくださいっ!』


 シルバーの言葉を受けて、レオンはすぐさま引き金を引いた。その行動に、迷いはない。

 拳銃の存在を指摘された男が、その瞬間に得物を抜こうと動いていたのだ。

 先程までのスラッグ弾とは変わって新たに装填されていた散弾が、ロン毛の男に向かって飛んで行く。

 素早い動きで拳銃を取り出し、今まさにその銃口をレオンに向けようとしていた男の胸部が、放たれた散弾によって穴まみれになった。男は衝撃により後方へ吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


 「うおぉぉぉぉぉ!」

 「ちくしょぉぉぉ!」


 その様子を目にした無精ひげの男と半目の男が、刀を手にしてレオンへと切りかかる。だが、その動きはレオンの目から見てとても脅威と言えるものではなかった。

 レオンは素早く後ろにバックステップをして攻撃を躱すと、もう一度散弾銃の引き金を引く。

 すぐ隣同士に位置していた2人の男は両者共に、拡散しながら飛んで行く1発の散弾の餌食となった。その身体に無数の穴をあけ、そこからだらだらと鮮血を垂らしながら男達は地に伏せる。少しの間うめき声のようなものを上げていた男達だったが、やがてすぐにその心臓の動きを止めることとなった。

 3人の男の死体を見下ろし、それらが完全に動かなくなっているのを確認した後、レオンは残された1人の方へと顔を向ける。


 「ひ、ひぃ!」


 残された平凡な男は尻餅をついて目に涙を浮かべており、その股座またぐらは恐怖のあまり湿っているようだった。

 レオンは男の下へとゆっくりと近づいていき、その手に持った散弾銃の銃口を向ける。


 「た、たすけて」


 口を開くのがやっとといった様子の男がそう声を絞り出したかと思うと、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、必死になってレオンに懇願を始めた。


 「ゆ、ゆるし、ゆるしてくだしゃい。ど、どうか、どうか」

 「……お前らは俺を殺そうとしたんだろ?」


 男はレオンの言葉にビクリと体を震わせると、更に大粒の涙を流して泣き始める。


 「ご、ごめんなしゃい……ごめんなしゃい……た、た、助けて」


 レオンは男に銃口を向けて難しい顔をしたまま、その引き金を引けないでいる。


 『……シルバー』

 『殺したくないのですか?』

 『……まあ、そうなる』


 自らを遅い来る敵に対しては迷わず発砲できたレオンだが、無抵抗で命乞いをする者に平然と引き金を引けるほど、冷酷にはなれなかったのだ。


 『そうですね。本来であれば許可しがたい申し出ですが、この男を見逃してもマスターの障害となる可能性は限りなく低いでしょう』

 『……そっか』


 レオンはそっと銃口をおろした。


 「俺の目の前から消えろ。2度とその面を見せるな」

 「……へ?」


 男はキョトンとした表情を浮かべている。


 「聞こえなかったのか?……さっさと失せろっ!」

 「はっ、はひぃぃ!」


 男は自分が見逃してもらえるのだということにようやく気が付くと、大慌てて立ち上がって大森林の中へと駆け抜けて行った。

その後ろ姿を、レオンは何とも言えない表情で見送る。


 『……どっちにしろ、大森林ここで死ぬことになりそうだな』

 『肯定。しかし、こちらに襲いかかろうとした卑劣な人間の末路です。マスターが気に病む必要はないでしょう』

 

 レオンは、自らの足元に転がる3つの死体を見下ろした。

 体に無数の風穴を空けられているそれらを見ていると、自らの手で彼らの人生を終わらせたのだという実感が徐々に沸き上がってくる。同情するつもりなどはないが、想像していたよりも気分が悪い。


 『……帰るか』

 『肯定。今日はゆっくりと休息をとることに致しましょう』


 自らの手で殺めた3人の男達の死体を背に、レオンは地上へと向かって歩き出した。




 無事にガレリアへと帰還したレオンは、暗い表情を浮かべながらもいつも通り協会支部へと立ち寄る。

 協会内では相変わらず多くの探索者達がマリーの受付に長い列をなしており、彼女の隣では年配の受付嬢が引きつった笑みを浮かべていた。今や見慣れた光景である。

 いつものように人の少ない受付嬢の下へと向かおうとしたレオンだったが、そこでマリーが彼の存在に気が付く。すると、彼女はアイコンタクトで自分の列に並ぶようレオンに促してきた。心なしか、彼女の表情はどこか怒っているようなものである。

 マリーの意図が分からないレオンではあるが、特に急ぐ用事もないので大人しく列の最後尾へと加わった。

 必要以上にマリーとの会話を長引かせたいのであろう探索者達を、マリーが手慣れた様子でいなしていく。本人に自覚があるのかは不明だが、彼女はすっかり男達をあしらう一端の受付嬢となっているようだ。

 やたら長く感じられた時間が過ぎ去り、ようやくレオンの番が回ってくる。


 「レオンさん、お話があります」


 レオンが来るや否や、マリーはムスッとした表情でそう口を開いた。普段は垂れ目である彼女の目尻が、心なしかつり上がっている。


 「それで俺を呼んだのか。どうしたんだ?」

 「私が横から口出しをするのはやめようと思っていたのですが、そろそろ我慢の限界です。レオンさん、一体いつになったリンを食事に誘ってくれるのですか?」


 マリーの言葉に一瞬首を傾げそうになったレオンだが、彼はすぐに彼女の意図するところを理解する。レオンは、前回の食事の際にリンに美味しい店を紹介してくれるように頼んでいたのだ。マリーは、その約束をいつ果たすのかとレオンに尋ねているのである。

 確かに彼は、ここ最近は散弾銃をうまく扱えるようになることばかりを考えていて、休みの日にも訓練ばかりを行っていた。そのため、リンとの約束をすっかり忘れていたのは事実である。

 だが、リンとの約束はレオンが彼女に黄金光石を渡したお礼としての産物であったはずだ。そのことを考えれば、お礼をされる側であるはずの自分がこうして問い詰められているのはおかしいのではないか?

 そんな考えを抱きながらも、いつもにこやかなマリーが刺々しい態度をとっているのを見て、レオンは思わず下手な態度をとってしまう。


 「い、いや、最近はちょっと色々あって」

 「事情があるのであろうことは理解できますが、それでも流石にリンを待たせすぎです。……レオンさん、明日は空いていますか?」

 「え?まあ、探索を休めば空いてるけど」

 「それなら、明日は迷宮探索をお休みにしてください」

 「え、えーっと?」

 「い い で す ね ! ?」


 語気を強めたマリーに思わずたじろぎ、レオンはこくこくと頷いた。

 

 「ではそういうわけですので、明日はリンと食事に行ってください」

 「どういうわけなんだよ……」


 その後、マリーがあとはついでだとばかりにぱっぱと魔石の買取り手続きを行う。ちなみに、ブラッドベアの魔石の価格は60万エンであった。

 最後に、彼女から何故か予め決めていたようである明日の集合時間と場所を伝えられると、レオンは協会支部を後にする。


 『……なんか、気づいたら明日の予定が決まってたんだが』

 『マリーは意外と強気な面も持ち合わせているのですね。突然の決定とはなりましたが、そろそろ休息日にしようかと考えていたことですし、丁度良いタイミングだったのではないでしょうか』

 『まあ、それもそうか』


 そう答えたレオンではあるが、やはりどこか釈然としない気持ちを抱えているのだった。

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