第4話 迷宮都市ガレリア


 “迷宮都市ガレリア”。

 それが、大迷宮クラークのすぐ隣に位置する迷宮都市の名前だ。世界には複数の迷宮が存在しているが、その側では必ずそれらに付随するようにして都市が栄える。それが迷宮都市だ。迷宮の探索を行う探索者シーカーや、彼らに対する商売人が主な住人であり、日々活発な経済活動が行われている。迷宮がもたらす恩恵によって、作り出されている場所だと言えるだろう。

 ガレリアはそんな迷宮都市の中でも、最大の広さと豊かさを誇っている。当然、その理由は世界最大の迷宮であるクラークに付随する都市であるからだ。その人口の多さと経済活動の活発さは、他の迷宮都市とは一線を画している。

 広大な敷地を持つガレリアでは、エリアごとに4つの区分けがなされている。大きな円形として都市の形を成しているガレリアは、外側から順に外周区、壁外区、壁内区。中央区と呼ばれているのだ。厳密に言うと、最も外側に位置している外周区は、ガレリアの一部であると公式的には認められていない。しかし、多くの人々が実質的には外周区もガレリアの一部であると認識しているのが現状だ。

 この区分けは、外側から内側になるにつれて財力や権力を多く持つ者が住んでいるという構造になっており、言ってしまえば外周区とはスラム街のことなのである。孤児院を出たレオンが流れ着いた所でもあり、彼の他にも多くの貧しい人々が何とか日々を生き抜いている場所だ。治安はお世辞にも良いとは言えず、殺人や強盗などの凶悪な犯罪が発生することもまばらである。

 そんな危険な外周区は、ガレリアを出入りする際には必ず通らなければならない場所ではある。しかし、頻繁に都市を出入りするのは腕に覚えのある探索者達が中心であるのに加えて、出入りの際に使われる比較的安全なルートはある程度決まっているので、外周区の存在によって都市への出入りが困難であるということはない。

 外周区とは打って変わって、この世界における最高品質の暮らしが約束されているのが、都市の最も内側に位置している中央区である。所謂いわゆる前線組と呼ばれるトップレベルの探索者達や、毎日のように莫大な売り上げを上げる大商人達、巨大組織の長などの、絶大な富と権力を有している一握りの人間だけが足を踏み入れることの出来る場所なのだ。

 外周区と中央区に挟まれるようにして、外側から順に壁外区と壁内区が存在する。その名前からも分かる通り、ガレリアには円形の大きな壁が建設されているのだ。その壁の外側周辺が壁外区であり、内側が壁内区だ。壁外区は最も広く人口が多い区域であり、ガレリアに住む人々の実に5割程度が壁外区在住となっている。基本的に出入りに際する条件もなく、一般的な所得を持つ者なら誰しもが生活を送ることができる場所だからだ。

 そんな壁外区とは異なり、壁内区に入るためには厳しい審査を通過する必要がある。壁内区に足を踏み入れることができれば、ガレリアにおいてある程度の成功者であると言えるだろう。

 都市の最も外側部分であり、公式的には認められていない無法地帯である外周区。ガレリア最大の人口と面積を有する壁外区。一定以上の成功を収めた者が入れる壁内に位置する壁内区。壁内の中でも最中央に位置し、一握りの権力者達だけが暮らせる中央区。このような構図をもって、迷宮都市ガレリアは形成されているのだ。


 そんなガレリアには様々な施設や組織が存在しているが、中でも”探索者協会シーカーきょうかい”は最も有名で巨大な組織であると言えるだろう。迷宮都市であるガレリアにおいて、探索者達が属する組織である探索者協会が最大の規模を誇っているのは、言わば必然的なことなのだ。

 探索者協会は外周区以外の全ての区域にいくつもの支部を構えており、そこでは日夜宝物トレジャーや魔石の買い取り、探索者宛ての依頼の掲示や受注が行われている。

 そんな協会支部のうちの一つ、外周区の中でも比較的外側に位置している小さな支部において、とある女性が協会職員としての初出勤を迎えていた。

 まだ20歳も迎えていない若さであるその女性の名はマリー。艶のある茶髪を肩にかからない程度の長さに切り揃え、やや垂れ目気味の大きな瞳とそれに伴う八の字の眉が印象的な女性だ。低い背丈に加えて幼さの残る顔立ちは愛らしく、彼女を目にした多くの男性の庇護欲を誘うであろう。

 支部の受付嬢として採用されたマリーは、初めて行う慣れない仕事を懸命にこなしていた。彼女の勤めることとなったその小さな支部には今日、彼女を含めてたった二人の受付嬢しか出勤していない。本来であればマリーをサポートする役目を持つはずの先輩受付嬢は、訪れる男性探索者達が自分そっちのけでマリーの受付に列を成しているのを見てへそを曲げてしまい、仕事を放り出して奥へと引っ込んでしまったのだ。

 自らの外見的魅力を自覚していないマリーは、自分の方にだけ探索者達が並ぶ理由も、先輩受付嬢がいなくなってしまった理由も分からず、ただでさえ困り顔であるその表情を更に困らせながら懸命に仕事に取り組んだ。

 そうしている間に辺りはすっかりと暗くなっていき、探索者達がほとんど訪れなくなってきたところで、ようやくマリーは一息をつく。間もなく営業終了の時間を迎える頃だ。今日の仕事はこれで終わりであろうとマリーが考えていた時、支部に一人の青年が訪れた。マリーは慌てて仕事モードに気持ちを切り替えて、青年の対応に当たる。彼女とそこまで年齢が変わらない程度に見受けられる若い青年は、魔石の買取りを行ってほしいと告げた。


 「かしこまりました。では、探索者板シーカータグを拝見させていただけますか?」

 「……持ってない、です」

 「紛失されてしまったのですか?」

 「いや、そもそももらってない。……です」

 「え、えーっと、探索者登録シーカーとうろくはお済みですか?」

 「…………まだだ」


 慣れていないのであろう敬語を使うことを諦めたらしい青年は、そう答える。

 聞けば青年は、初の迷宮探索から帰ってきたばかりであるというのだ。


 「魔石の買取りを行うには、探索者登録が必要です。登録を行うということでよろしいですか?」

 「ああ。頼む」

 「それでは、登録料金として500エン頂きます」


 探索者登録を行う前に探索に行ってしまうなんて、おっちょこちょいな人もいるものだと考えなら、マリーはマニュアル通りに500エンを要求する。

 今ではすっかりメジャーな通貨となったエンだが、これは数十年前から使われ始めた比較的歴史の浅いものだ。当時の有力探索者達が考案した最も新しい流通通貨である。


 「…………魔石の買い取り額から引いてもらうことはできるか?」

 「可能ですよ。ですが、手数料として100エン上乗せされてしまいますがよろしいですか?」

 「……大丈夫だ。それで頼む」

 「かしこまりました。それでは、登録を行います」


 先程から何故か返答までに間がある青年に疑問を覚えながらも、マリーは登録用紙を差し出す。


 「こちらに必要事項をご記入ください」

 「……代筆してもらえるか?」

 「勿論です。では、お名前を教えていただけますか?」

 「レオンだ」

 「レオン様ですね。ご年齢は?」

 「多分16歳くらい」

 「かしこまりました。では……」


 その後全ての記入を終え、最後にレオンと名前の彫られた木製のタグを発行し、それをレオンに手渡す。


 「これで登録は完了となります。こちらはレオン様の探索者板です。探索者板は探索者であることの証であり、身分証明にも使用できますので紛失なされないようにご注意ください。レオン様は登録されたばかりですので、タグは木製のものとなります。探索者ランクについてご説明いたしますか?」

 「……頼む」

 「はい。探索者には6つのランクが存在していて、ランクごとに違ったタグが支給されます。登録したばかりの方には木材でできたタグ、所謂タグが支給され、それ以降のランクになると金属製のタグが支給されることとなります。金属製のタグはランク毎に色分けされており、低い順から白、青、銀、金、黒となっています。ランクアップの条件は宝物や魔石の納品の他、依頼の完遂などが挙げられます。ランクが上がれば内地への居住権をはじめ様々なメリットを得ることが出来ますので、上位のランクを目指してみてくださいね」

 「なるほど」


 極めて一般的な情報についての説明であったが、レオンはふむふむと言った様子で頷いていた。


 「それでは、持ち込まれた魔石を拝見させて下さい」

 「ああ、これだ」


 まず大前提として、初めての迷宮探索に挑んだ探索者が迎える結末の多くは二つに分類される。死ぬか、手ぶらで帰還するかだ。

 マリーは態度にこそ出さないものの、一見貧弱そうに見えるレオンが初探索で魔石を持ち帰ってきたことに驚きを覚えていた。だからこそ、彼が取り出した魔石はそれ以上の衝撃を彼女にもたらす。


 「こ、これは、ヒトトリ草の魔石!?それに、もう片方は……これは一体?」


 ヒトトリ草を討伐することは、その習性上決して簡単なことではない。他の生物を囮にするなどして、地中から出てきた一瞬の隙をついて攻撃するか、地面ごとえぐり取るような強力な攻撃手段をとる以外に討伐の方法がないからだ。そんな討伐困難なモンスターの魔石を、新米探索者が持ち寄ってきたのだ。

 もしや異能スキル持ちなのであろうか?レオンに対してそんな考えを抱き始めたマリーを更に困惑させたのは、もう片方の魔石だ。協会職員となるために必死に勉強してきたマリーの知識をもってしても、目の前の魔石が何のモンスターのものであるのか分からなかったのである。


 「ああ。そっちはキエンの変異体の魔石だ」

 「変異体ですかっ!?い、一体どうやって?」


 変異体はその名の通り、モンスターが突然変異した個体のことを指す。滅多に現れないことに加えて、通常種よりも遥かに強力な力を持つ個体だ。

 そんな変異体の魔石を前に、マリーがその入手経路を尋ねてしまったのも仕方がないことであろう。しかしその質問をすることは、あなたに変異体が倒せるとは思えませんと言っているのと同じだ。思わず口にしてしまった失言に気が付いたマリーは、顔を青くした。バカにした発言だと捉えられてしまってもおかしくはない。だがそんなマリーの心配は杞憂であり、レオンは全く気にも留めていないようだった。


 「えーっと…………その二匹のモンスターが戦っているところにたまたま出くわしたんだ。そのまま同士討ちになってくれたから、こっちに危険はなかったよ。ただのラッキーだ」

 「そうだったのですか……。それは稀有な体験をされましたね。えっと、申し訳ありませんが、少々お待ち下さい」


 未だに動揺を残しながらもレオンの言い分に納得したマリーは、魔石を手に取って一度受付を離れる。キエンの変異体のものであるという魔石の確認を取るためだ。レオンの言葉を疑っているとも捉えられない行為を目の前で行うことも出来ず、奥の事務室内で魔石図鑑を手に取った。受付業務をサボって居眠りをしている先輩職員を尻目に、確かにそれが変異体の魔石であることを確認する。マリーはついでに買取り金額の査定も行った後、カウンターへと戻った。


 「お待たせいたしました。ヒトトリ草の魔石が一つで20万エンと、キエン変異体の魔石が一つ50万エン。そこから探索者登録料金を差し引いて、69万と9400エンで買い取らせていただきます」

 「……へ?」


 魔石の買取り金額を聞いたレオンは目を点にしながら口を開き、何とも間抜けな表情を浮かべた。


 「え、えーと、何か不備がございましたでしょか?」

 「…………」

 「レオン様?」

 「…………はっ!?わ、分かった!それで大丈夫だ!」


 レオンは明らかに取り乱しながらも、そう答えた。

 漁夫の利で得た魔石の価値が、彼の想像を遥かに越えていたのであろう。そんな、ほとんど正解である予測を行ったマリーは、レオンの態度を気に留めることなく対応を続ける。

 

 「大変申し訳ないのですが、買取り料金をお支払いする前に探索者ランクの更新手続きを行ってもよろしいでしょうか?登録したばかりではありますが、魔石の納品額が一定料金を超えたためレオン様は白タグへと昇格になります。木タグをお渡しするより先に、魔石を確認するべきでした。重ねてお詫びを申し上げます」


 白タグへの昇格条件である累計納品金額50万エンを、まさか初回の納品一度だけで達成するとは思わずに手順を誤ってしまったマリーは、そう謝罪を述べた。しかし当のレオンはそんなこと気にも留めていないどころか、完全に上の空といった様子である。

 マリーは未だにポカンとした表情の彼から木タグを受け取り、代わりに白い金属製のタグを手渡した。


 「おめでとうございます。これでレオン様は白タグ探索者となりました。それに伴い、タグを用いた決済も行えるようになります」


 見習いである木タグを除いた白タグ以上の探索者達は、そのタグを用いて各種の支払いを行うことが出来る。一度に大きな金額をやり取りすることも多い探索者達が、いちいち現金を持ち歩く必要のないように作られた制度だ。タグの持ち主である探索者が納めた魔石や宝物の買取り金額が、そのまま使用可能残高となっている。残高は当然使えば減っていき、魔石や宝物を納品すれば増えていく。


 「魔石の買い取り料金ですが、現金を希望されますか?」


 上記の制度があるため、探索者はほとんど現金など持ち歩かないのが普通である。同様の理由で、魔石の売却料金を現金で受け取る探索者は極まれだ。しかし、世事に疎いように見受けられるレオンに対しては、マリーは一応確認を行った。


 「…………いや、不要だ」

 「かしこまりました。探索者登録及び魔石買い取り手続きは以上となりますが、他に何かご用件はございますか?」

 「えっと、……特にはないな」

 「それでは、これで全ての手続きは終了となります。ご利用ありがとうございました。またお待ちしていますね」


 マリーはそう言って頭を下げた後、フラフラとした足取りで支部を出ていくレオンの背中を見送る。

 偶然レアな魔石を手に入れた幸運な新米探索者。それが、マリーがレオンに抱いた印象であった。

 本来であれば、過程がどうであれ初探索で変異体の魔石を持ち帰ったレオンの情報は、協会本部に報告されるべきものであっただろう。


 「ラッキーな人もいるんだなあ……」


 しかし、新人受付嬢であるマリーは呑気にそんなことを呟くだけであり、レオンの情報が協会本部に伝わることはなかったのであった。




 支部を出たレオンは、自らの手の上にある白タグを眺めて間抜けな表情を浮かべていた。


 「な、70万……」

 『マスター、そろそろ落ち着かれてはいかがですか?』

 『だって!70万だぞっ!?70万!!70エンじゃないんだぞっ!?』

 『その程度の金額で驚かれていては、今後身がもちません。最高ランクである黒タグの探索者達は、一度に数十億を受け取ることも珍しくないのです。そのことを考慮すれば、70万など大したことのない金額であると言わざるを得ません』

 『いやいやいや、流石に比較対象がおかしい。そんなのは別世界の話だろ?』

 『シルバーとしては、是非ともマスターには黒タグを目指していただきたいものです』

 『んなこと言われてもなぁ』


 シルバーの発言に苦笑いしつつも、少しだけ落ち着きを取り戻したレオンは歩き始める。


 『マスター、どこへ向かわれているのですか?』

 『どこって、外周区だけど?』

 『何故外周区に?』

 『いや、何故も何も、寝床を探すために』

 『マスターの情報を更新。マスター、今までの生活のことは忘れてください。外周区で寝床を探すのではなく、ここ壁外区で宿を探しましょう』

 『そんなの、金がかかるじゃないか』

 『お金なら、つい先程手に入れたばかりです』

 『そ、そうだった。でも、いきなり使ったら勿体ないんじゃ』

 『否定。今後も探索者として迷宮に挑むのであれば、定期的な収益が見込めます。十分に体を癒すためにも、宿に泊まるべきです。これは推察に過ぎませんが、マスターは外周区での生活から抜け出す為に探索者となったのではないのですか?』

 『……そう、だな。その通りだ。悪かったな、お前の言う通り宿に泊まることにするよ』

 『謝罪の必要はありません。それでは、付近に存在する宿の中から最適な価格と品質のものへとご案内致します』


 当然のようにガレリアのマップ情報を有していると言うシルバーに導かれ、レオンは宿へと向かった。


 宿にたどり着いたレオンは、シルバーの助言で一週間分の料金である10万エンを支払う。この時仮に探索者板ではなく、現金を用いた支払いを行っていたとしたら、レオンをその手を震わせていたことだろう。

 食堂で味わう食事、壁と天井のある安全な部屋、暖かい風呂。その全てに対して子供の様にはしゃぎ続けたレオンは、未知の柔らかさを持つベッドへと横になった。


 『マスター、もし差し支えなければ、マスターのことを教えてくださいませんか?』


 ふかふかのベッドを堪能している真っ最中のレオンに、シルバーが尋ねる。


 「俺のこと?」

 『肯定。主に、これまでのマスターの人生についてです』

 「聞きたいなら別に構わないけど、面白い話なんてないぞ?」


 そう前置きした上で、レオンは自らの生い立ちを語り始めた。

 捨て子であり、両親の顔も分からないこと。孤児院の中で誰にも馴染めずに育ったこと。外周区に流れ着き、そこで何とか生き抜いてきたこと。サリアと出会って、探索者になると決意したこと。クラークで追い込まれ、シルバーに出会ったこと。


 「まぁ、そんな感じで今に至るってとこかな。どうだ?別に面白くなかっただろう?」


 横になったことで疲れが押し寄せ、徐々に眠気を感じ始めながらも、レオンは自らの身の上話をし終えていた。

 それまで静かに聞いていたシルバーが答える。


 『否定。シルバーの所有者であるマスターについて知ることができる、とても有意義な時間でした』

 「変なヤツだな。お前についてのことの方が、俺はよっぽど面白いと思うけど」

 『シルバーについてですか?』

 「そうだよ。何せ、今のところ俺はシルバーのこと、よく分からんけどとにかく凄い存在だとしか認識してないからな。お前みたいなのって他にも存在するのか?探索者をサポートする人工知能とかいうやつは」

 『否定。恐らく、シルバーの様に意思を持ち、会話が可能であるアイテムは他には存在しないと思われます』

 「だったら尚更何者なんだよ、お前。どうやって作り出されて、どうしてあの場所にいたんだ?あの死体については何も知らないって言ってたけど、その辺も全く分からないのか?」


 徐々に強い眠気に襲われ始めていたレオンは、瞼を閉じたり開いたりしながらも訪ねた。


 『前の持ち主に関するデータと同様に、マスターと出会う以前の活動記録は完全に消去されてしまっています。その為、あの場所にいた理由については分かりかねます。…………シルバーがこの世界に生み出された経緯の方に関しては、データを有しています。しかし、それはマスターにとってはあまりに荒唐無稽(こうとうむけい)な話である為、お伝えするメリットを感じられません。どうしてもと言うのならばお話し致しますが……』

 「ふーん、ならいいや。シルバーが話したくないって言うなら、聞かない方がいいんだろうし」

 『……よろしいのですか?』

 「別にいいよ……どこで生まれたとか……関係…………ないし」


 眠気が限界を超えたレオンは、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。


 『……マスター、少なくとも今現在、シルバーはマスターをサポートする為だけに存在しています。それだけを理解して頂いていれば充分です』

 「……そう…………だな」


 夢現ゆめうつつの状態で発したその言葉を最後に、レオンは完全にその目を閉じた。


 『おやすみなさい。マスター』


 迷宮、銃、モンスター、お金、宿、そしてシルバー。あまりにも多くの未知を経験したレオンの長い1日は、こうして幕を閉じたのであった。

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