第87話 脱出は絶対に不可能です
俺は真っ白い空間に立っていた。
右も左も上も下も、見渡す限りすべてが白い。
なんだか頭がおかしくなりそうだ。
「浄化されて天国に来た……って感じじゃなかったような……?」
謎の門が背後に現れたかと思ったら、そこからこの空間へと放り込まれてしまったのだ。
「もしかして夢?」
顔をグーで殴ってみた。
「い、痛くない……って、アンデッドだからな。最初から痛みを感じないんだった」
と、そのときだ。
頭上に気配を感じて、俺は咄嗟に真っ白な空を見上げた。
何かが浮かんでいる。
人……?
いや、頭に角が生えてるし、背中には蝙蝠みたいな翼がある。
それにやたらと色が白く、よく見ると目の白黒が逆転していた。
最初は人間の青年かと思ったが、どうやら違うようだ。
「ふっふっふ、どうやら新しい玩具がやってきたようですねぇ」
そいつが嗤いながらゆっくりと俺のところまで降りてきた。
「前回は五十年ぶりの玩具だったというのに、たった半年で壊してしまいましたからねぇ。お陰で随分と暇を持て余してしまいましたよ。今回は頑丈なら嬉しいんですが」
「ええと……何者だ、あんたは?」
「これはこれは、申し遅れました。わたくしの名はメフィスト。魔界においては、魔王位に次ぐ公爵位を有する悪魔でございます」
公爵位の悪魔だと……?
邪神によって生み出された邪悪な種族。
それが悪魔だ。
主に異界に棲息しており、中でも強大な力を持つ悪魔は、爵位というものを持つと聞いたことはあるが……。
「故あって、もう千年以上もこの世界に閉じ込められておりましてね。忌々しい天使どもの加勢があったとはいえ、不覚にも人間ごときにこんな目に遭わされたことは、我が生涯最大の屈辱でございますよ」
「閉じ込められた……? ちょ、ちょっと待て。ここ、天国じゃないのか……?」
「天国に悪魔がいると思いますか?」
「だよな……」
ってことは……やはり俺は浄化されて天国に来たわけではなく、あの謎の門を通じてこの謎の空間に飛ばされてしまっただけらしい。
だ、騙されたああああああああああああああっ!?
間違えた、なんてことはないだろう。
なにせ、あれだけしっかり準備をしていたのだ。
最初から俺を浄化する気はなく、ここに閉じ込めるつもりだったのだ。
もしかして、聖騎士少女もそれを分かった上で、俺を聖教国まで連れてきたのか……?
そんな風には見えなかったが……だからすっかり俺は彼女を信じ切っていた。
まさか俺を騙すため、ずっと善意を装っていたのか。
……なんてことだ。
俺は彼女の手のひらで踊らされていたのだ。
やはり女は怖い……怖すぎる……。
「……ええと、一つ訊いてもいいか?」
「何でしょう?」
「ここから外に出れたりする?」
「できません」
即答で断言された。
「え? マジで? じゃあ俺、ずっとこのまま……?」
「そうなりますねぇ。ここは次元と次元の狭間に作り出された異空間。先ほどのあの門を通じてしか入ってくることはできず、脱出は絶対に不可能です。そもそも出ることができるのなら、わたくしがとっくに脱出していますよ」
しかも俺は死ぬことができない。
ということは、永遠にここで生き続けるってこと……?
「う、嘘だろ……」
絶望のあまりその場に膝を突いてしまう。
「は、ははは……酷すぎだろ……俺が一体、何をしたってんだよ……こんな何もないところで、永遠に暮らすなんて……」
「いえいえ、その心配は要りませんよ」
「……え?」
「わたくしが可愛がってあげますから」
次の瞬間、悪魔が目の前に移動していた。
そして俺の腕を掴み、強引に捻じ曲げやがった。
「っ!? ちょ、いきなり何をするっ?」
俺がアンデッドじゃなければ激痛でのた打ち回っていたところだ。
「あれ? ぜんぜん痛がりませんねぇ? ……おっと?」
曲がった腕があっさり元通りになってしまう。
「なるほど! よく見たらあなた、アンデッドではありませんか! しかも相当な再生能力ですねぇ! ふふふ、ふはははははっ! これは大変ありがたいですよぉっ! なにせアンデッドは少々乱暴に扱っても長持ちしてくれますからっ!」
長持ちって……。
「ふふふ、今までここに来たモノたちは全部、わたくしが遊んで壊してしまいましてねぇ……。一番長く持ったモノでも、十年ほどでしたか……本当に脆く儚いものです……」
芝居がかった態度で嘆く悪魔。
「滅多に来ないんで、本当はもう少し慎重に扱いたいところなのですが、生憎とわたくし、細かいことが苦手でして……。ついつい、やり過ぎてしまうんです。……こんな風に」
悪魔が俺の胴体に手を翳したかと思うと、そこから強烈な光線が放たれた。
それをまともに浴びた俺の下半身が溶解し、ドロドロになってしまう。
もちろん穿いていたパンツとズボンも消失してしまった。
おい、また裸になっちまったじゃねぇか!
「あああああああっ、ダメですっ! ダメダメダメぇぇぇっ! もっとゆっくり可愛がらないといけないのにぃぃぃ……っ! あああっ! でも久しぶり過ぎて、破壊衝動が抑えられないぃぃぃ……っ! ひゃはははははっ!」
憤る俺を余所に、身を捩らせて絶叫する悪魔。
悪魔にしては紳士っぽい態度だなと思っていたが……どうやらめちゃくちゃヤバい奴だったようだ……。
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短編を書きました。よかったら読んでみてください。
『ブラックな神殿で働き過ぎた聖女、闇堕ちして最強の黒魔導師になる』(https://kakuyomu.jp/works/1177354055643495671)
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