七夕

「しんちゃん、七夕なのに、雨です」



 はぁ、と溜息を吐きながら空園女史が窓の外を見る。

 放課後の生徒会室には僕らの他に、書記の生徒が一人、書類の整理をしていた。



「まぁ、カササギに仕事が増えただけで二人が逢えない訳じゃないから」


「うーん……」



 どうにも納得出来ない様子の空園女史の視線の先には、カーテンレールにぶら下げられた逆さまのてるてる坊主があった。



「どうしてよりによって今日、こんなモノがぶら下がっているんですか」



 眠っているようにも見えるそのてるてる坊主が、風に揺れる。

 ファイルを棚にしまった丹沢たんざわ書記が、揺れるてるてる坊主を見ながら空園女史に言った。



「あれぶら下げたの五島ごとうなんで、許してあげてください」



 僕はそれを聞き、あぁと頷く。

 ピンと来ないらしい空園女史が、不満げに僕の腕をつついた。



「説明を求めます」


「もうそろそろ玄関を出た頃かな?」



 僕は丹沢書記に向かってそう尋ねた。

 彼と件の五島副会長は、仲がいい。



「そうっすね」



 僕は空園女史に、窓の外を見るように促す。

 窓から見える正面玄関。

 上履きからローファーに履き替え、玄関から出てきた五島副会長は、隣に立つ女生徒に声を掛けた。

 少し大きめの傘に入った二人は、ぎこちない距離のまま、門へと歩き出す。

 無骨なこうもり傘は、女生徒の方へ大きく傾いていた。


「女子の方、今日が誕生日なんすけど、陸部のエースで。大雨にならないと練習やめないんす」


「……………許します」


「玉砕したら慰めてやってください」



 え、あの雰囲気から玉砕することあるの?


 僕は慌てて、生徒会室の出入口横に控えめに飾られた笹へと短冊をぶら下げた。


 “二人をよろしくお願いします“と書かれた短冊の隣に空園女史の書いた短冊が揺れていて、願いごとが目に入る前に、目を背ける。


 空園女史の、願いごと。

 見なくても、分かっている。

 けれど空園女史の字で書かれた願いを見るのは憚られて。


 含みありげな視線をこちらへ向けてくる空園女史を敢えて無視して、僕は五島副会長の幸せを一心に願うのだった。




【おわり】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何でも解決するマンの小話置き場 南雲 皋 @nagumo-satsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ