リレー小説テーマ【夏】破隕&KOU組

KOU Part


◇◇◇◇◇



「おーい大丈夫かー?」

「氷嚢を脇と首に挟んどけば大丈夫だろ、多分」


 なんでだろ、頭がフワフワする。耳障りな声が両脇から聞こえてきた。ゆっくりと開いた俺の視界に入ってきたのは知らない天井だった。あれ? なんで横になってるんだろ。


「お! 起きたぞ!」

「んー……なんでここに?」

「お前、砂浜ダッシュ九本目で倒れたやん」

「倒れるならもっと早く倒れろよなー。そうすれば残りのダッシュが免除になったのによ」


 あーそうか、暑さにやられて倒れたのか。それにしてもこいつら、動機が不純すぎる。友の窮地を己の休息の為に使うなよ。


「ダッシュ免除になったのは良いけど、代わりに介抱しろって竹田先輩に言われてさ。もうこんな時間だよ」


 もう日が暮れてるのか、どれだけ寝てたんだろ。


「でも、もう起きたしいいよな」

「これで夜の作戦に間に合うぜ!」

「んじゃそゆこった。ほい、飲み物ここな。飲みたかったら飲んどいてー」

「……」


 僅かに感動した俺の気持ちを返して欲しいもんだ。親友の為に必死に介抱して、心配してくれてると思ったのに結局これだ。そそくさと部屋を去って行ったお前等、ぜってー忘れねーからな。


「あら、もう起きても大丈夫なの?」


 入れ替わりで部屋に入って来たのは、白と紺の格子柄、薄い浴衣を身に纏った火照った身体。それに石鹸の香りを仄かに漂わせた竹田先輩だった。俺の目と鼻が幸せを感じた。

 やっぱり部長は違うなぁ、なんだかんだ部員の面倒をみてくれる。アイツらとは大違いだよ。


「いきなり倒れたって聞いたから慌ててみんなで運んで来たのよ。んもう、しっかりしてよね! 何かあったら私の責任になるんだからっ!」


 あーやっぱみんなそうなんだなー。表はみんな心配してくれる。でも結局は自分の事しか考えてないんだろうな。かく言う俺も大差無いんだろうけど。

 仲が良いのも考え物だ、雑に扱われるこっちの身にもなれってんだ。


「とりあえず夕飯までまだ時間があるから、出来上がるまでゆっくりしてなさい」

「すみません……」

「いいのよ」


 爽やかな残り香が、短いながらも先輩との時間の余韻に浸らせてくれた。






「おーい、起きてるかー? 飯出来たってよー」


 気付けばもう夜だった。横になってたらまた寝てしまった様だ。ガラガラと開かれた引き戸からは香ばしい匂いが俺を元気にさせた。


「現金な奴だぜ。唐揚げの匂いで鼻ピクピクさせてらぁ」

「う、うるさいなあ。寝る事にも体力は使うんだよ」

「分かった分かった、ほら行くぞ。早くしないと竹田先輩がカンカンになるぜ?」


 開かれたままの引き戸は、俺を現世へと誘うかの様な明るい空間を切り取っていた。もう少しここに居たかった。一時の俗世から離れ、残り香の余韻……はもう無かった。だけど、再び喧噪の中に身を投じないといけないのか。仕方無い、早く行かないと明日にでもダッシュ追加を言い渡されそうだ。

居なかった……アイツら何処行きやがったんだよ! 一抹の不安を抱きながら旅館の廊下をヒタヒタと歩いていると、砂浜に明るい何かが明滅しているのが見えた。


「あら、結局一緒に準備しなかったのね。ほら行くわよ」

「え? 行くったってどこにですか?」

「んもう! 何言ってるのよ、花火よ、は、な、び!」


 どういう事だ。普段から品の無いアイツらが常に考える事なんて三大欲求くらいなものだ。それにアイツらは練習前に下卑た笑みを含ませた夜行性の野獣だったはずだ。それが花火だなんて。

 俺は竹田部長に腕を引っ張られ、砂浜へとやって来た。


「おせーよ! ん? 何さ、部長と一緒に来やがって。後で話聞かせろよな」

「そ、そんなんじゃねーよ!」

「いいからいいから! 早くやろうぜ! 次これなー!」


 次々に点火されていくショボくれた打ち上げ花火達。リズムも何もあったもんじゃない。風情というモノを知らないんだろうな。俺? 勿論、知らないよ。


「あの二人、今日何かいかがわしい事を考えてたみたいなのよね」


 俺は思わず身体が硬直した。いや、俺は関係者じゃないから身体が強張る必要は無いんだけど、どうも周りはそう言っていない。


「でも、君が倒れてから気が変わったみたい。アイツに少しでも元気になってもらって、明日も一緒に頑張らないといけないんです。だから今日はみんなで花火をやらせてくれって、お金はオレ等が持つからってね」

「そう、なんですか」


 アイツら、憎い事しやがる。てっきり頭の中はお花畑で乱れてると思ってたよ。


「良い友達、持ったね」

「せんぱーい! 何イチャついてるんすかー! 一緒にやりましょうよー!」

「今行くわー!」


 走って行った先輩の長い髪が俺の頬を撫でた。やっぱり良い匂いがした。

 まだ始まったばかりの夏、熱くなりそうだ。






「おうおう! 何先輩と話てたんだよー! 折角花火で景気付けてやろうと思ったのに、そんな事せずともって顔してやがる」

「ほんとだな。ま、元気になったんならいいんじゃね? 明日も一緒に練習して倒れてくれよなっ!」


 お前等、やっぱ許さんわ。


◇完

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