物語の終わりの続き

 物語は、ハッピーエンドで終わるべきだと、僕の彼女はよく言っていた。

 だから、ここで記す終わりはハッピーエンド、である。

 ただ、もちろんだけど、僕らの本当の終わりは『死』にあるわけだから、それが、本当に幸せなものかどうかなんてのは、わからない。大往生とかだったらハッピーエンドらしさがあるかも、だ。あるいは、親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいくシーンは……あれはハッピーエンドではないな。

こんな物語のエンドロールは往々にして、キスで終わるから、それは期待していていい。ここには僕の少なくとも今のところは頂点に幸せだったときを書く。


 これまでの物語から、みんなは、結局のところ、僕こと永井健は『お別れ』のあと、朱音との関係をどうしてしまったのだろうと思っていてくれているはずだと思う。

 そうでなかったら、ちょっと、逆に悲しい。

 往々にして、若い男女間の恋愛なんて別れで終わる、という現実が目の前に繰り広げられているわけだから、心配するのはもっとものはずだ。だぶん。

 目の前の例を示すなら、寺井と斎藤はそのまま分かれたまま、それぞれ別の人と付き合い始め、とっくに斎藤は結婚をしていた。現実なんてものはそんなもんだ。

 といっても、僕らの場合は違った。

 ただ、凪には申し訳ないことをしたなと思う。それだけだ。


 あのあと、僕は、関東の大学院に進むこととなった。

 もうこれでわかるだろう。僕は朱音を追いかけたのだ。

 さすがにすぐに同棲、というのは控えることにした。僕自身が少し忙しいこともあった。研究生活が思いのほか、タフだったからだ。しかし、すぐに、やや半同棲状態になってしまったのは、若さだということで、許されたい。

 修士課程を修了し、就職した。これで僕が6年間学生をしていたから、朱音もあと一年で卒業する、と思いきや、朱音は薬学を専攻し、6年制だったから、まだ2年も待つこととなった。

 指輪自体は学生のうちに渡してしまった。そうしなければ、凪のアプローチが非常にうざったかったからだ。

凪も内地にやってきた。しかも朱音のところへ転がり込んだ。シェアルームとやらがしてみたかった、などと言っていたが、何が本気でどこまでが本音なのかは見当がつかなかった。

そんな彼女に、もう、僕がそっちを向くことはないと言い切ってあげる必要があったから。朱音に婚約指輪を渡した。次の日には、凪は自分の部屋を探し始め、一人暮らしを始めた。

このタイミングで朱音と共に、二人暮らしを始めた。僕の職場と朱音の学校の間にその部屋を借りた。

そんなふうにいくつもの日々を重ねた。不幸な事故が、とうに過去になって、新しい日々を過ごし、やりたいことを見つけ、社会をにらむ日々を送る。

この、卒業の日に、僕と朱音は籍を入れた。

だから、もう、僕らは同じ日々を歩む。

一緒に幸せになるためでなく、不幸になるためでもない。

一緒にいることが、幸せなのだから。

離れていた日々で僕は、そんなことを考えていたから。

そして、こんな思いにすら、続きはある。死までそれに際限はなく、いつだってそのときの幸せを僕たちは求め、共にあることを誓う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冬、待ち合わせの約束 浮立 つばめ @furyu_hatsubaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る