第3話

やあ。どうも。

昨日ぶりですね。


よろしかったら、こちらをどうぞ。

たくあんです。私が作りました。


お口にあったようでよかった。

ああ、お酒ですか。

今日もありがとうございます。


しかし、今日はいつになく早かったですね。

お暇を頂いたので、それはよかった。

しばらくは羽が伸ばせると言うわけですね。


いいですね。うらやましい。

えっ? ああ、私の方は相変わらずです。

ええ。近頃不景気ですから、商売の方はてんで。


ああ。お気になさらず。

どうにか暮らしてはいけますから。


さて、こんな話をお聞かせしてもしかたありませんね。

早速、本題に入るとしましょう。



私はその日、ついに箱を開けました。

中にしまわれていたのは、数十枚の紙の束。

そして私は、その紙に書かれていた文章を、一つ一つ読み始めました。


ここまでは、昨日お話した通りです。


しかし、その髪を読んでいるうちに、私は妙な居心地の悪さを感じたのです。


というのも、その文章は私のこれまでの、全ての行動が書かれているようなのです。


私だけではありません。


母や父、祖父母の名前も書かれており、私が生まれてからこれまでの有様が赤裸々に書かれていたのです。


いったい誰がこんなものを箱の中に入れたのか。

それは私には分かりかねました。


可能性が高いとすれば、家族の誰かを疑うべきでしょう。

しかし、家族を信じるのであれば、この箱を開けたことなど一度もないのです。


また、もしも、この予言の書を誰かが書いていたすれば、それに気づかないわけはないのです。


私の実家には祖父母がいましたし、母もいました。

父は仕事に出かけているため、こんな文章を書く暇もありませんでした。


それに何より、こんな具に人の行動を書き記していくことなど、到底不可能なことなのです。


一字一句に至るまで、私がこれまで歩いてきた道程が書き記してあります。

この時感じた恐怖は、きっとあなたにもわかってもらえることと思います。


しかし、恐怖はまだ終わっていません。

この文章には続きが。

つまり、私の未来が書かれているのです。


言い知れぬ恐怖が冷や汗とともに私の背筋を這っていくのを感じました。


しかし、私の目は私の恐怖とは裏腹に文章を繰っていきます。


私がこの紙面を読んだ先に何が待っているのか。

私は最後の行に目を走らせました。




『背後を見た私は……』




文章はそこで途切れていました。


恐怖と不安は一層強まります。


私は恐る恐る背後を見ました。


すると、そこには…………。






ごめんなさい。この話は、ここで終わりなんです。

ええ。私は背中をむきましたよ。

そりゃあもちろん、怖かったですからね。


人間、知らないものには恐怖を抱くものですから。

ですが、ごめんなさい。

背中にいたものを、私は全然覚えておらんのですよ。


いやね。気づいた時には、布団に横になっていましてね。

その箱も、開かれた形跡がなかった。

一応、蔵の中も探ってみたんですが、錠前の鍵はおろか、鍵の終われた桐箱も見つかりませんでした。


その時、ようやく気づいたのですよ。

あれは、夢だったんだって。


そうです。夢の話なんですよ。

全てね。


いやいや、あなたがあんまり真剣に聞いてくれるものだから、ついつい言うのが遅くなってしまった。


ああ、そんなに怒らないでくださいよ。

でも、面白いお話だったでしょう?


そいつに間違いはない。ええ。そうでしょう、そうでしょう。

ささ、今日も一献傾けましょうよ。

苛立ちも、こうして酔えば、なくなりますから。


ああ、でもちょっと失礼しなければ。

いや、別にどこに行きゃしないですが、ちょっと、夜風にでも当たろうと思って。


ああ、ちょっと待っていてくださいよ。

ほんの少しの間ですから。







おかしな奴がいたものだ。

しかし、夢の話にしては、なかなか面白い話だったな。


三日三晩、足繁くこいつの家にきてみるものだ。

背筋に寒いものがあったが、夏の頃にはいい刺激になった。


ん? なんだ、これは。


紙……?


なんでこんなところに、紙なんかが落ちているんだ。


○月×日 今日のことじゃないか。


……なんだこりゃ、こいつは、俺とあいつのことが書いてあら。


気味の悪い、紙っきれだな。


……いや、まてよ。ひょっとして、こいつは。


……まてまてまて。そんなわけがねぇ。あいつの話は、ただの夢の話なんだ。

現実に、あるわけがねぇ。


だが……なんで俺のことが書かれているんだ。


そんな、まさか……


『隙間から、何かが覗いてる……』


……そんなわけがねぇ。あの野郎の悪戯だ。そうに違いねぇ。


畳があって、行灯があって、文机があって。

障子が……少し開いてる。





隙間から、何かが覗いてる……。

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小宮山 写勒 @koko8181

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