第24話【古泉の視点Ⅱ】

 俺はかつて、古泉から「自分は超能力者である」と明かされた。それがいまや随分昔のことのように思える昨今だ。それ以来、俺はこいつの胡散臭いハンサム面に日々向き合い隣り合い、ボードゲームから途方もない怪現象まで付き合わされることになってしまった。

 そんな古泉は、こいつ自身が持つその超能力とやらをハルヒからもたらされたものだと断言して疑問の余地すら挟ませないが、そもそも俺にそれを検証することができるわけもなく、その証明ともいえる現象に何度か立ち会う羽目にもなったため、いまさら異論を唱えるつもりはない。

 古泉が持ち前の胡散臭い物腰以外にも、超能力者然とした振る舞いを俺が目撃できたのは、この男が唯一、超能力者としての力を行使できるという『閉鎖空間』——ハルヒのストレスフルなメンタルを発散させるだけの内面世界のことだが——そのなかで目にした光景だったろう。そこでやつは実際に空を飛んでいた。まだ知り合って間もない頃だ。

「あれも僕の大事な任務ですから」

 と、優男の言。

 しかし、あれを目にして以降、こいつの超能力を発揮する姿を目撃する機会はあまりなかった気がする。

「それは我ら『機関』と、あなたのご尽力のおかげですよ」

 柔らかな口調で言っていた。よくは知らんが、どうやらそういうことらしい。

 まァ、古泉を含めこいつの所属する『機関』とやらの連中は、ハルヒのストレスとうまく付き合うために日々鎬を削っているようなもので、それも精力的といえば呆れるほど精力的に活動してきたひとつの成果なのだろう。ハルヒのストレスのために世界やら宇宙やらが右往左往するのもいかがなものかと心の底から思うのだが、渦中にいる人間たちからしたら、割と洒落にならない要素なわけだ。そういえば、例のコンピ研部長氏失踪事件の際に、巨大カマドウマの前で赤玉サーブを決めたこともあったな。それはそれだ。

 そんな超能力者を自認するこの男が、今度は俺の目の前で「兆しを感じる」などと言い出した。

「ところで、古泉」

「ご質問なら、なんなりと」

 本当になんなりと、か。

「答えられる範囲にして頂けたら重畳です。どうぞ」

 やれやれ。それで、だ。

 ——お前に未来予知の力があるなんて、初耳だが?

 そう話を振れば、隣の甘く怪しいスマイルの男はやんわりと肩を竦め、

「それは僕も初耳ですね」

 などと気のない同調の返事を繰り出してきた。さらに、

「僕程度の器には、そのような大それた能力など備わっておりませんよ。興味はありますがね」

「なら、さっきの兆しって、ただのハッタリか」

 古泉は「いえ、単に」と柔らかくとりなすように言う。

「今、我々が置かれている状況といくつかの事象から推察した、拙い予測に過ぎません。あまりにもこの状況が不自然なのでね」

「不自然、ね」

 古泉は目を細め、中空から伸びる夕の日差しを見つめていた。

「ええ……。僕が感じたこの兆しも、どうか杞憂であって頂きたい。そう思うばかりです」

 俺はてっきり、お前が何か未来のビジョンでも見えるようになったのかと思ったぜ。

「それは買いかぶりですよ。僕は未来人や宇宙人の類ではありません、朝比奈さんや長門さんと違って、あくまでもありふれた現代人の枠の中に納まる存在です。この超能力も、ただの神からの預かりものですし」

 ただの神、とは言うが、古泉がつるむ連中はその神を涼宮ハルヒとみなしているわけだ。

「ですから、いくら未来のことを思ったところで、その予測を立てる程度のもので予知はできない。少し、歯痒いですが。ただ……」

 ただ、なんだ。

「こうは思います。今回の涼宮アカデミー……つまり、涼宮さんの展開する領域に対し、涼宮さんはこれまでとは異なるアクションを起こしている、と」

 異なるアクション?

「明快です。SOS団の内部に、外陣の人間を巻き込んだことですよ。それも、彼女の明確な意思をもって」

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