第14話【妙な……】
いよいよハルヒのテストとやらが始まったわけだが、予想通りこのテストは一般人が想像するテストとは程遠いもので、世界の中心に在る概念について要領も得ずに宣いあげ、三年前の七夕で使った文字を解読させようとしたり——空気を読んだのか長門は黙っていたようだ——要するに、暇だったハルヒが暇つぶしのために催した感が満載だった。俺ですら、形だけでも勉強してほしいと願ってしまうわ。
それで、そのハルヒの暇つぶしが案の定そういった類のモノであるから、ハルヒの機微を追う古泉は、膝を組み目を細めたり笑顔に戻したりと忙しく、朝比奈さんは出題される度に挙動が不安定になる。長門は取り出したハードカバーを読んでいるようだが、ハルヒの挙動の一切をデータとして抽出しているのでは、と思える神経質さときた。
ちなみに、こうしたハルヒのノリに免疫がない国木田はいまいちピンときていないようで、教科書とハルヒを交互に見ているだけだったのだが、隣の鶴屋さんはひとりで爆笑している。国木田の肩や背中をビシバシ叩きながら、ハルヒの言動を細やかに拾い、大袈裟なリアクションでハルヒに応えていた。国木田が照れているのか頬を赤くしている。
あの二人の空間、俺も混ざりたいな。
「ちょっとキョン! 聞いてるの⁉」
「ああ、聞いているよ。俺の短期記憶がそう言っている」
その内容は定かではないが。
「あんたの拙い記憶能力なんてアテになんないわよ!」
言いたい放題である。
さて、そのときだ。
俺の首筋に風が通り過ぎる。そして……。
——おや?
なんだ。どうしたことだろう。
「……おい、古泉」
なぜか呼んでしまった。
「いかが致しましたか」
呼ばれた奴は、相変わらず砂糖水を垂らしたような甘いマスクをひっさげたまま俺の呼びかけに応える。
「すみません、出題傾向が少々想定外な方向に行きつつあり……いやはや、さすが涼宮さんです」
違う。そうじゃない。
「なにか気になることでも?」
「……いや、なんでもない」
「——? そこで渋られると、いささか気になってしまいますが……」
ただでさえ狭い長机で、ぐいっと身を乗り出してくるな。
「本当に、なんでもないんだ。だから、ハルヒのテストに付き合ってやれ」
「……ええ、こちらも気を付けます」
気を付けます、か。言葉に何か意味を含ませるのが好きなやつだ。——今更だが、俺の周りにいるやつって、そんなやつばかりだな。
ただ、なんだろう。俺は無意識にうなじを撫でていた。耳にヘンな感触が残る。
だが、やはり気のせいか。
……気のせいということにしておこう。
というのも、これはほんの一瞬だが、さきほど妙な違和感を覚えた。
いま、誰かが、どこからともなく後ろから俺に囁かなかったか……?
まるで冷たい息を吹きかけられたかのような。ひょっとすると、風のせいかもしれない。妙に生々しい違和感が俺のうなじに残っている。
だが、気にすることもないだろう。きっと、隙間風が何かに違いない。
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