第5話 奇跡急変
天才児ハルンの事を初めて聞いたのはもう十年以上前、彼が5,6歳の頃だ。宇宙はまだ静まっていて、ボウの航海誌は、総司令部の多少のデータは残っていたものの、「絵空事」のように思っていた。許可証を持つパイロットは年に一度、総司令部に集められ、総司令との会合が行われていたが、その後必ず決まって、近くの星の誰かの家に集まって話をした。
「本当に許可証持ちなのか?私達は。総司令部では絶対に言えない話題だ」
「だからここに来ているんじゃないか、黙っていることは心の闇だ」
「おいおい、人を共犯者にするなよ」
「全くないとは言わせないぞ・・・案外許可証持ちは「人間的だ」とヴェルガ達から言われているじゃないか」
「ハハハハ・・・」
小さな規則破り。しかしそれは確かに、どこか人間味を残していた。
「本当なのか? 6歳児が宇宙を飛べるのか? 」
「計器を見ながらだぞ、父親が整備士だから見慣れているんだろうが、ちゃんと見ているんだ。「ここの数値がおかしい、何か変なものがあるかも」って。すると強い磁気帯だ、突発的な。慌てて航安(航路安全局)に連絡して、急いでステーションに戻ったよ」
「最悪だな、刺激が強いから小型機のコックピットにはまだ乗せられない年なのに・・・」
「出る前に、じっと恨むような眼で見つめられてみろ。まあ、後々その子の物になるやつの、試し乗りだからね・・・・・「行くかい?」って言ったら打って変わって満面の笑みだ。親父さんがすまなさそうにお願いしますって。でもかわいい子でね・・・子供っぽい所もちゃんとあって、流星を触って「ほんのちょっと段がある」って」
それが最初で、その会合の度だった。
「少年の部のレースで、ぶっちぎり最年少優勝だとさ・・・」
「アステロイド帯に入っていいかって言うんだぞ! さすがに止めさせたよ。私も自分の身が危うい」そしてちらほらと、レベル5が起き始めると、さすがに会合は笑える話が少なくなってきた。
「船体ダメージが35%だ・・・一歩間違えば・・・危なかった・・・」
「おかしくないか、ヴェルガ達が嫌がっている。能力が効かないと」
「体調が悪くなっているヴェルガが続出らしいな・・・」
あまりにも暗い話題ばかりになったので、皆はいつもの子供の話題はないのかと彼に聞いた。彼はしばらく押し黙って、ようやく口を開いた。
「家に遊びに行くとシュミレーターをやっていた・・・親父さんが古い船の部品を譲り受けて手作り、あの坊やも手伝ったらしいが・・」
「どうかしたのか? そんなに悪いことなのか? 」
「凄まじく難しい事をやっていた。ガス帯の幅をギリギリに設定して・・・抜けているんだ、見事に・・・・」
「子供はゲーム感覚だ、やるだろう」
「目つきが違った、怖いくらいだ。遊んでいる感は全くない。前はそうじゃなかったからピンときた」
「カンがいいから・・・君は。で、何だった? 」
「レベルの難しいものを、本物をやったな。古い船の物には消去が不十分になっているものがある、消したりはしないから見せてごらん。って言ったら出してきた。紫陽花星雲の特殊空間航路だ・・・」
「レベル6!今までの最高のものじゃないか!」
「その船ではレベル5になっていた、評価改定前だ・・・あまりの難しさに、これだけは2S以上に全部データが渡されたから、いろいろな船にデータが残っていたんだろう」
「それで・・・どれくらいなんだ?」
「初めは40%以上のダメージだったらしい、実際に見せてもらったら・・・・17だ!冗談じゃない!やって見せてくれませんか?って言われたけど、恥をかく。規則違反なんだよ、一般の人間に私達の技術を見せるのは、って逃げた・・・上手くね」
「ハハハハハハ」
「本当か?」「本当だよ!」「私でも35だぞ」「俺は40かな」
「末恐ろしい、彼が新人研修なんかに来たらどうしようかと思ってね。技術が無いとわかる前に皆の所にたらい回しにしようかと思ったが、わかるだろうな、賢い子だ。でもこっちも練習に次ぐ練習で、8%までになったよ。今度は見せつけてやろうかなって」
スリージャックス 六感 @nakamichiko
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