第4話 大人事情


 ドアが急に開いた。大人たちがぞろぞろ入って来たので、生徒達は慌てて席に着こうとしたが「あ!」誰かが叫ぶように言うと、座ろうとした生徒は固まったように、年配の一人の人間に釘付けになった。確かに面接の時に見た顔だったがその時はパイロットスーツではなかった。腕に二本の細い線、2S。


「確か噂で、たった一人許可証を持ったパイロットが生き残っているって・・・・・・」


「封鎖、及び一時的封鎖特殊空間航路特別通行許可証」それは2Sクラス以上の技術的、人間的に信用のおけるパイロットのみに許される特別なものだった。オーロラ鋼の産地への航行、惑星ヴェルガ等重要な星への航行は彼らのみに許されており、許可証を得ることが、特殊空間航路のパイロットになるものにとっての大きな目標であった。

しかし許可証を持つパイロットが、訓練校の教官になることはまずなかった。何故なら現役引退後は自分の航海誌をまとめ、後世に残すことが最重要とされているからである。人の行けない所への航行が可能なのだから、当然と言えば当然である。しかし今は


「そうだ、腕がいる、訓練校で十二分な腕が。生き残るため、生き延びるため、彼は自分の技術を教えに来たんだ」


身の引き締まる、しかし悲しみも持ち、生徒達は椅子に座った。


 式が始まった。

あまりにも簡素な入校式を、可哀想だとパイロットスーツの男性は思った。自分たちの時は喜びはしゃぎ、自分の大きさに合わせた訓練校のパイロットスーツを身につけていた。スーツは訓練校によって色が違い「あそこの訓練校は色がさぁ」そんな馬鹿げた、本人たちにとっては多少大きな問題を話していた。しかし、そんな余裕も今はない。


面接の時に、「君は親御さんの承諾はないようだけれども」

その質問に、「喧嘩になってしまいました。でも僕はパイロットになりたいんです。親は一般でいいだろうと言いましたが、僕の夢は違うんです。一般航路と特殊空間航路のパイロットは違います。僕は、僕の命は・・・自分の・・・自分自身のものだと思っています。親には悪いですが・・・・」親としては、死にに行くような無謀な行動としか取れないだろう。


「どうしますか?あとあと面倒な事に・・・・」

そう面接後の話合いで意見が出たが

「もしかしたら、そういう考え方がいけないのかも知れません。大人の都合ですから。とにかく彼も線上ですから、占いに任せてみませんか」自分がそう言った。その彼の顔もこの中にあった。多かれ少なかれ、いやほとんど、家出同然に出てきているのかもしれなかった、たった一人を除いて。

「やっと会えたな、天才児、ハルン」

面接官から何の異論もないままに、合格が決まった二人が並んで座っている方を見た。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る