第3話 占い結果


 特殊空間航路パイロット訓練校は、主だった空域に一つずつあり、入学時に多少の金額の負担はあるが、それ以降は全くいらないといってよい。ほとんどが総司令部直轄で、一部私立はあるが、これは企業及び生徒の親たちの資金(学費)で賄われており、こちらは卒業後はSクラス以上にはなれない。2S、許可証を目指す者は、必然的に一般の訓練校に入学する。空域毎に入学、卒業の時期もバラバラで、そうした方が新人研修を行う際、一気にならずに良いのである。

普通は試験、面接を受け、後日合格発表となるが、特殊空間航路が荒れている今は、そんな事を言っている暇はなかった。一番多く人が集められ且つ安全に行けるいくつかの訓練校で、多くの生徒を育成しようと考えたのである。そして面接のあと、すぐ合格発表、荷物も最低限で、あと必要なものは学校側が揃えてくれることになっていた。三百人、それ以上いた受験者のうち、合格者は百名程、その倍率は昔からのものだったので、落ちたものは落胆もあったが、とにかく「早く船に乗って帰ってくれ」受験者の安全確保のための学校側の動きで、合格者の方がしばらく待たされることになった。


 その後すぐに行われる入校式の会場は、三年ぶりのにぎわいで、服装もバラバラ、髪も伸びた者、中にはうっすら髭の生えた生徒もいた。始めはおとなしく座っていた生徒達も、あまりに長い時間待たされるので、立ったり、会ったばかりなのに一塊りになったりして、声も大きくなっていった。

「なんて言われた? 占い師に」「何も言われなかったぞ・・・ただフッと笑われて、「行け」って」「お前は? 」「俺はねえ・・」

と嬉しそうな顔を見せたので、周りのみんなは勿論期待した。

「どうしようかな・・・・」「もったいぶるなよ」

「うん・・・まあ・・・2Sだって・・・」

「2S?お前2Sが取れるって占いだったのか?」「う・・・ん」

「すごいな・・・・」

さすがに生徒全員が彼の顔を見た。丸顔で可愛いというのか、愛嬌があるというのか、目は意外に大きくはっきりしていたので

「ハンサムな男をつぶしたみたいだな」と、ちょっと離れた所に座っている例の二人は話して笑っていた。


 実は二人とも、あれからずっと行動をともにしていた。今まで自分たちのいた学校で彼らはほとんど「一人」だった。スポーツをしたり、何かの活動はしていたが、それが終わると、そこから解放されたいという気持ちが強く「付き合い悪いな」という言葉に「ごめんな、やりたい事があるんだ、たくさん」と答えていた。

だがお互い何故か会った瞬間から自然に話し、興味のある事は似通っているし、探るようにお互いの知識や洞察力を量っていたが

「今までにあった同年代の人間の中では、多分こいつが最高だろう」

結論は出ていた。

しかし今聞いてみたい事は、俗で下世話で失礼な事、他の生徒達が話していることと全く同じだった。一人は考えた。自分が言われたことは、あまりにも一般的すぎる。「心の闇に気付いても、引き込まれぬよう」と言うのは特殊空間航路のパイロットを目指す人間でなくとも知っている事で、話しても面白みもなければ、占い的な要素も何一つない。もし彼が何か言われていれているとすれば、きっとそれ以上になるはずで、以下であったとすれば口には出さないだろう。なので思い切って言ってみることにした。


「僕は、心の闇に引き込まれぬよう、って言われただけだった。それだけで・・・・」


聞いた彼の方はすぐに言葉を出さなかった。でも言わないのは失礼だろうし、どうしようかと悩んだ末


「僕は・・・未来とか・・・力とか・・知恵とか・・・」


その言葉を聞いて彼は驚いた。

「すごい、いいことばかりじゃないか」

「う・・・・ん」

しかしそう答えた彼の方は、最後の一節を言うべきか言わないべきかで必死で悩んでいた。もしここで話せば、きっと彼は他の人が驚くほど爆笑するだろう、しかしそれは、彼と自分との距離を一層近づけるものだろうとも思えた。


「どうしようか・・・・」心の中で声がした。


闇という言葉は、自分の聞いた言葉とは正反対だが、丁度最後の一節は、その前の良いものを全部差し引いてしまうか、それ以上に壊すものだ。結局「闇に引き込まれぬように」と言われているのと、もしかしたら一緒なのか、と思い始めたときだった。


「君は航海誌が好きだと言っていたよね」

「あ、ああ、解読してみたいんだ、特にボウのはね。一般的に目に入るものは当たり障りのないもので、逆にボウの物は難しすぎて、専門家でも困り果てて公開されている。今の状態と同じだとしたら、航行すれば解読も可能だと思うんだ。パイロットでなければやはり解らない所が多くあるだろうから」

「すごく大きな考え方だね・・・とすれば占いもまんざらじゃないということなのかな」

「どうして? 」

「だって僕達は用紙も何も無い、あそこには個人データを見るようなものもなかった。だとすれば、君を一目見ただけでそう言ったんだ。すごい事じゃないか・・・」

「そうかな・・・・」最後の一節は言いだせず、この話はここで終った。


 ただ二人はこの当時、やはり子供であった。十代なのに落ち着いた雰囲気と、力強く澄んだ目、はっきりとした口調は、誰が見ても、占い師でなくとも、特に悪い言葉は見当たらなかったのである。男性の女性に対する忠告は、ごく一般的なものだ。


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