君と神隠し
雨世界
1 ねえ、なにしてるの?
君と神隠し
登場人物
山里三夏 中学一年生の少女
立花美生 中学一年生の少女
白 幽霊みたいな、白い女の子
プロローグ
寂しくないよ。あなたがいるから。
本編
神隠し。
……誰もいない。
……いない、いない。
ねえ、なにしてるの?
……『神隠し』。
或る日突然、人が消えるようにして、(理由もなく)いなくなってしまう。
みんなが噂をしている、そんな不思議な現象が本当に起こるなんて、三夏は全然信じていなかった。自分の親友が、『神隠し』にあって、本当にこの世界から消えてしまう日がくるまでは。
「はっくしょん!」
山里三夏は大きなくしゃみをした。
「寒い」
三夏はその体を震わせる。
それもそのはずで、三夏は白と水色の中学校の制服姿であり、(持っているカバンも、中学校の指定の肩掛けカバンだった)深い山の中を歩くにしては、軽装過ぎた。
『大丈夫ですか?』
そんな三夏に優しい声をかける『人』がいる。
それは『白い女の子』だった。
全身が真っ白な(それも淡く光り輝くような、不思議な白さをした)女の子が、三夏を先導するようにして、山の中の道を歩いていた。
その女の子は、よく見ると、普通の人間ではないことがわかった。
言葉を喋ってはいるけれど、口はない。
女の子の声は直接、三夏の頭の中に聞こえているようだ。女の子は口だけではなくて、目もない。鼻もなく耳もない。(ただの形だけがそこにはあった)
そんな白い女の子は体重がないように、大地の上に足はつけているけれど、ふわっと空中を浮き上がるようにして、(月の上を歩いているみたいだった)三夏の少し前を歩いている。
その女の子のことを一言で表現するのなら、『幽霊』というのが一番正しい表現かもしれない。(実際に、その白い女の子は本物の幽霊なのかもしれない)
「ねえ、白ちゃん。目的地まで、あとどれくらい?」
肩で息をしながら、三夏が言う。(こんなことなら、ちゃんとさぼらずに、真面目に体育の授業を受けていればよかった)
『うーん。そうですね……』
そう言って、白ちゃんと呼ばれた白い女の子は足を止めて、きょろきょろと周囲の深い緑色の森の風景を見渡した。
それから三夏を見て、『きっともうすぐです』とにっこりと笑って(目も口もないのだけど、白が笑ったと確かに三夏にはそう見えた。
……本当かな?
三夏は思う。
もしかしたら私は、このまま白ちゃんに森の深い場所にまで誘い込まれて、『神隠し』の新しい犠牲者になってしまうのかもしれない。と三夏は思った。
でも、それでもいい。
それでも仕方がないのだ。
だって、美生を助けるためには、森の奥にいくしかない。『神隠し』にあって消えてしまった美生にもう一度会うためには、私が美生のいる場所にまで行かなくちゃいけないんだ。
三夏は思う。
三夏の頭の中には美生の笑顔があった。その眩しい美生の笑顔だけが、三夏に勇気と力をくれた。
『三夏さん。どうかしたんですか?』空を見て笑っている三夏を見て白が言う。
「ううん。なんでもない。さ、先を急ごう。早くしないと日が暮れちゃうからね」三夏は言う。
『はい。いきましょう』にっこりと笑って白が言った。
君と神隠し 雨世界 @amesekai
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