夜の女王

雨世界

1 ……それでも、私は、愛を願う。

 夜の女王


 プロローグ


 ……それでも、私は、愛を願う。


 本編


 ……そこにはあなたがいて、そして、そこには、私が求めていた愛があった。


 夜の街


「あの、すみません」

 そう言って、すみかは一人の少女に声をかけた。


 すみかと同い年くらいの、高校の制服をきた少女。紺色のブレザーに灰色のセーター。それに丈の短いスカートに(すみかの高校なら一目で校則違反だとわかる短さだった)紺色の靴下と革靴。

 手には学校鞄を持っている。その少女はどこにでもいる高校生に見える。(それも、かなり綺麗な少女だ)

 同年代の高校生の少女よりも、少し大人びている。(私服を着ていたら、成人している女性だと勘違いをするかもしれない)


「……なんですか?」

 その女子高生はすみかに言った。


「そこでなにをしているんですか?」真面目な顔をして、すみかは言う。

 ……そこでなにをしているのか?

 私がここでなにをしていても、それはあなたには関係ないでしょ? とその少女は思う。


 高校の制服を着ている少女は、すみかのことを無視して、そのままビルとビルの間にある暗い闇の中から出て行こうとする。


 明るい街の光の中に立っているすみかの横を通り過ぎるとき、「待って」と言って、少女はすみかに、その手を掴まれた。(仕方なく、少女はすみかのことを見つめた)


「……なんですか? 警察にでも連絡するつもりですか?」

「そうじゃありません。私は、ただ、ここであなたがなにをしていたのか、それを聞いているだけです」

 真剣な顔ですみかは言う。


「……別になにもしてません。ただ、『自分の恋人』とあっていただけです」少女は言う。


「お金のやり取りをする恋人ですか?」

 やっぱり見ていたのか、と少女は思う。


「そうです。お金のやり取りをする恋人です。それが私たちの愛の形なんです」にっこりと笑って少女は言う。


「それは『愛ではありません』」すみかは言う。


 じゃあ、本当の愛を見せてよ、と少女は思う。少女はすみかの手を力づくでふりほどいた。

「それじゃあ、さようなら」

 そう言って少女は、すみかの前を立ち去ろうとした。


「待ってください」すみかは言う。

「なんですか?」少女は言う。


「……名前を教えてください。あなたの名前を」すみかは言う。

 少女は少し迷った。

 ……名前? 私の名前を知ったところで、なにが変わるというのだろうか? それでも少女がすみかに自分の名前を教える気になったのは、そうでもしないと、ずっとすみかに付きまとわれるような気がしたし、それに、この街の暗い夜の中で、自分のことを本当に心配してくれたことに対する、一応のお礼の気持ちのつもりもあった。(その自分の気持ちに、少女は自分で気がついていなかったけど)


「いばら」少女は言う。

「いばら?」すみかは言う。


「そう。いばら。それが私の、……夜の時間の(本当の)名前です」そう言って、にっこりと街の綺麗な明かりの中で、いばらは笑った。

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