第2話 付き合ってないのに付き合っていることに!
「聞いたぞ聞いたぞ! おまえ告られたんだって!?」
翌朝。
2年3組の教室に入るなり巨漢の悪友にタックルされて廊下に吹っ飛ばされた。
最初は何が起きたのか分からずに床に転がっていたおれも我に返って応戦する。
「おまえラグビー部なんだから手加減しろ! 賢介って名前のくせに賢くなるどころか体ばっかりでかくなりやがって!」
怒りに任せてタックルした。しかし相手はラグビー部。ちょっとくらいの体当たりじゃびくともしない。涼しい顔……いや暑苦しい笑顔だ。
「もーまじ羨ましいぜ! 一体どうやってあんな美少女を落としたんだよ!」
両手で組み合って渾身の力で押しても体の軸がぶれる気配すらない。
「話聞け! なに言ってんのか全然わかんねぇわ!!」
「だーかーらーさ」
がっしりと肩を組んで得意のスクラムを仕掛けてきやがった。朝練で火照ったヤロウの体は熱いし汗臭いし痛いし苦しいしで最悪だ。
吐き気すら催すおれの気持ちなんて知る由もなく、ダメ押しのように生臭い吐息を吹きかけてきた。
「間宮だよ。告られたんだろ?」
「はぁ!?」
アホか。
どう考えても「告られた」なんて状況じゃない。行き場のなくなったチョコを回されようとしただけだ。
「付き合っちゃおう♪」だって、あんなもの、どう考えても失恋のショックによるやけっぱちとしか思えない。冷静になって後悔するにきまってる。だから丁重にお断りして間宮からもお断りされた。
……って、なんで賢介が知ってんだ。
「またまたぁ! もっぱらの噂だぜ。モブの桶川と間宮が付き合うことになったって」
「はぁあああっっ!!??」
あんまり変なこと言うから叫んじまった。
「だれがそんなデタラメぬかしやがったんだ」
「な、なにぃ……このオレがスクラムで押されてるだとぉ!?」
じりじりと押していく。しかしそこはラグビー部のエース。負けじと押し返してくる。
「隣のクラスのやつが見たんだってよ。間宮が生徒会長じゃない方の桶川にチョコ渡そうとしていたとこ」
「じゃない方は余計だ。なんでそんなことになってんだよ」
などと一進一退の攻防を続けていると、
「おはよー♪ 朝から賑やかだね」
底抜けに明るい声が飛び込んできた。おれたちの顔を覗き込んでいるのは間宮だ。
「わぁ! 間宮さんがオオオオレに、はな、話しかけてる!!」
テンパった賢介が急に力を抜いた。そのせいでおれは勢い余って賢介のかたーい胸にダイブさせられる。もうマジ最悪だ。帰りたい。
そんなことはお構いなしに間宮は微笑んでいる。
「えぇと恩田賢介くんだっけ。桶川君と仲いいんだね」
「え、あ、いや、そんなことは。こいつとは小学校からの腐れ縁でして」
奥手な賢介は間宮を前に後ずさりしていく。いくら押してもびくともしなかった巨体はまるで子犬みたいに小さい。
「うわーちょーいい匂いするー。あ、オレ邪魔ですねー」
(空気を読んだ)賢介が後退したせいで必然的におれと間宮が向き合う形になる。
昨日のことがあって気まずいおれだったけど間宮はありえない距離まで顔を詰めてくる。にっこりと、お手本みたいな笑顔が咲いた。あぁくそ今日も可愛い。
「改めてまして――おはよう桶川君、今日もいい天気だね♪」
「お、おう……」
天気なんて覚えてねー。
いつの間にか周りに人だかりができていて、2組だけじゃなく他のクラスの奴らまで顔を出して様子をうかがっている。
「なんだか注目されてるね……どうしてかなぁ」
昨日やけっぱちで告ったことをだれかが漏らしたからです。
間宮は恥ずかしそうに体を揺らしていたが、耳にかかった髪の毛を撫でると上目遣いでおれを見た。
「昨日はありがとう。ちゃんと言ってくれて」
「あのな、間宮」
そういう言い方されると誤解されるぞ。
「よく考えればあんなに突然のタイミングだったのに真剣に答えてくれたよね。好きだったって言われて私もうれしかった」
「間宮ちょっと待て。落ち着いて状況をみろ」
「桶川君って呼び方も他人行儀だから今日から名前で呼ぼうか。私のことは”緋色”でいいよ」
ひゅー!!と廊下中に口笛が鳴り響いた。
ちょっと待てちょっと待てちょっと待て!!
だからおれたちは付き合ってないんだって!!!
「おめでとー」
「お幸せに―」
「ゆるせーん!」
「絶対に認めないからなー!」
あぁもう。
「だーかーら! おれの話を聞けって!」
はやしたてる(&恨み節)の外野を大人しくさせようと叫んだときだった。
「へぇ。ひろちゃん……じゃなくて間宮に彼氏ができたのか」
一瞬にして空気が変わる。特に女子。そわそわしながら髪や制服を直しはじめる。
説明するまでもない。モブじゃない方の桶川の
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