14 天文台の戦い 前編
敵は、異邦人マルコが運んだ
それが
探求者アルによって召喚されたマルコは、事のはじまりからずっと、最後で最大の敵と一緒だった。
黒い筋肉が美しい若神、サマエルは笑みを浮かべ立ち上がる。
「ご苦労なことだな、マルコ。
ただ我が血肉となるため、旅を重ねた」
だが剣と盾を構えるマルコは、動じない。
静かに、だがはっきり問いかける。
「君は結局、誰なの?
神の悪意は、なぜこの世にいるの?」
とたん、悪意の
鋭い
それがマルコの顔を突く瞬間、
ねじった
おぞましい絶叫。
ふり返ったサマエルは、黒い血走った目でマルコをにらんだ。
「
悪意が無ければ善意もなく、文明もない。
人は荒野の
言うと
マルコの横にバールがついて、二人は剣と棍棒でそれを防ごうとする。だが翼の動きは速く、武器は羽先に触れても
マルコのマントを、バールの腕を、
だがその時、白い炎の人影が二人の周りを舞う。
二人の
白い浄化の炎、最高位精霊エルフの火だ。
翼に
アカネの小剣、マルコの長大剣、バールの棍棒はしかし、若神の
半分焼けた翼を広げ、サマエルは天井に上昇していた。
マルコは顔を上げ、さらに問う。
「消せないなら、どこに連れてけばいい?
君の居場所は、いったいどこだ?」
すると若神は、冷たい目を落とした。
「わずらわしいことだ」
マルコを見る若神の瞳が、赤く
「いけない! 精神魔法だ!」
アルのよく通る声がした。
となりのエレノアが即座に腕を回す。
だがマルコは剣を落とし、悲痛な叫び。
「ひぃっ! うあああぁぁ!」
恐怖に引きつる顔を、ねじ曲がる指でおさえた。
マルコは激しく胸がせり上げ、息ができない。これまで胸に秘めた辛い記憶や未来への恐怖の何もかもが混ざって、一気に頭の中を埋め尽くす。
自分などなんの価値もないと、心の底から思った。
アカネとバールはただ
サマエルは、満足げに厚い唇を舌なめずりした。
「異邦人にもこれは
ならばお前にも、
瞳が赤く光る
「教えよう、マルコ。
お前の中にもあるのだ。
その時一瞬、マルコの体が半透明になる。
と同時に響く、よく通る声。
「
一直線に、鋭い
さらに満月の加護。
「ルーナムデウス! 我が戦士を照らせ」
エレノアが唱えた月光で、マルコの表情が
脇腹に空いた穴から出る黒い血を見ると、サマエルは驚いた顔を上げた。
さらに力強いひかりに圧倒され、マルコに近づけない。
だから悪意の
◇
アルがまばたきすると、目の前に若い神がいた。
背中にエレノアの震えを感じ、自分も歯をガチガチ鳴らす。
サマエルが唇を
「先にこちらを片付けよう。
グリーの使い手と、月の
遠くから、マルコの決死の声が届く。
「アル! 魔法の作戦!」
だがアルは、恐怖のあまり
それでも、エレノアが彼の腰に抱きついたので思い出せた。
黒い爪が目前に
探求者は、唱えた。
「
召喚術の一時中断!」
サマエルは驚いた顔で手を引いた。
若神が顔を台座に向けると、若ドワーフと少年エルフの悲痛な顔の間で、異邦人の姿がかき消えていった。
そして、杖のグリーが輝き発動する。
召喚の
アルの瞳が、あやしくきらめいた。
「古代魔法、はじめ吹く風」
遠くから、低い振動が近づいてくる。
サマエルの
戸惑う
術者のアルとしがみつくエレノアを軸に、凄まじい暴風が
バールが台座とアカネを握る。
アカネの
だが
そうして、嵐が過ぎ去った部屋で、探求者は大杖をかかげる。
「異邦人マルコの再召喚!」
すると、台座のそばでぐったり横になったドワーフとエルフの間で、
◇
倒れたサマエルは、彼らがここまで自分を痛めつけることが、意外だった。
思いもしなかった運命を呪い、若神は負の感情を増幅する。
どす黒い悪意は、召喚中の異邦人の姿に目をつけた。
バールとアカネに笑顔が戻り、形作られるマルコを見つめている。
そこに鋭い爪が割って入った。
青黒い爪が顔を、首を切り裂き、宙を舞う赤い
即座にアカネが
吹き飛ばされたサマエル。
脚は曲がり、片腕がない。だが顔は笑っていた。
「マルコ、やはり
ペタン、ペタンと弱々しく床をふむ。
「おぅ……」とささやいて、「カラン!」と
するとバールとアカネの目が開き、アルとエレノアへ顔を向けうなづく。
神の悪意の
自らの肉体を
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