10 宙人(そらびと)
アルと二人で旅をはじめたころ。
目の前にした、激しく
エルフを
その右に、羽がある小さな何かがたくさん
おそらく、彼はこうたずねた。
「この右側にあるのは何? 羽が
アルは、羽のある民、つまり有翼人がアルバテッラのどこかにいるという説を話す。
そして、こう問い返した。
「マルコにも、これは人に見えるのかい?」
彼は、好奇心旺盛な目を丸くした––––。
◇
翼あるストラグル。
かつて有翼の民であった彼は、気が遠くなるほど昔に、人の手で顔にマリスを埋め込まれた。
その呪いが、彼を火龍に
「当時は『
うかつにも地に
むろん、龍になるとすぐ、その者らを
沈黙する皆を元気づけるように、ルアーナが声を張る。
「そう! それで龍の願いは
「長くかかったがな……」と、ナサニエルが
有翼の青年ストラグルは、
「ルアーナのおかげだ。
『
「そんな!」と老婦人は、赤くなる
間にいるナサニエルは左右に顔を向けて、口をパクパクさせる。間の抜けた顔を、自ら何度も指さした。
マルコは、
アルもぽかんと口を開けたまま、見返す。
同時に疑問をぶつけた。
「どうやって戻ったの?」
「ここが
老夫婦も仲間も、顔がほころぶ。
しかし一人、真面目な顔のストラグルは、翼を背後にたたみ語り出した。
「
神の山のこちら側。すなわちアルバテッラの外でな」
「キンコウって何? ワって?」
即座にマルコが質問。
ストラグルは真っすぐ見返す。
「
アルバテッラでは
だから他のグリーと
「ここは
今度は、アルが問いかけた。
するとストラグルの目が、金色に光る。
「歴代の探求者のうち、知り得た者もいる。
ただ、中まで入った第三の民は、この二人だけだな」
そう言って、かつて龍だった青年はふいに膝まづく。
なんと彼は、ナサニエル夫婦に拝礼した。
◇
有翼の青年が立ち上がるまで、誰も一言も発しなかった。
賢者ナサニエルは、かつて龍だった者に深くうなづく。
ルアーナは、
しみじみとした雰囲気の中、ストラグルが淡々と言った。
「……では、戻ろう」
老夫婦もうなづいて、3人は仲間に背中を向ける。
「いやいやいや!」とアルが手を伸ばした。
「ちょっと待ってっ!」とマルコも絶叫。
ストラグルは不思議そうな顔で、老夫婦は恥ずかしそうにふり向く。
「なんだ?」という青年の前に、ナサニエルが歩み出た。
「では一つだけ、教えよう」
賢者は、有翼の青年に鋭く目配せすると、マルコの背後を指さす。
「この先の、『
そしてかつての北の探求者は、真剣な目でアルを見つめた。
「アル……これを言うのは二度目だな。
デメスンよりロムレスのものとなりし神の善意、
……
言い終えた今度は、ナサニエルは、背中を向けたきりとなった。
アルは自分を失い、
へなへなとその場で座り込んだ。
「大丈夫? アル?」とマルコが彼の肩を揺する。
その周りに、わらわらと仲間が集まった。
「旅はまだ続く……か」とアカネがぼやき、「休ませてもくれんのか」とバールが不平を言う。
だがエレノアは、滝のそばでたたずむ青年と老夫婦をながめ、そして
「翼ある民が住まうこの世の果て。
人の身で
彼女は、幼いころ耳にした言い伝えが自然と口からもれた。
◇
淡い光に包まれながら、老夫婦は凍った
となりで羽ばたく青年ストラグルが、ナサニエルに問う。
「あれで良かったのか?
はっきり言ってやった方が––––」
とたん賢者は首を横に大きくふった。
「それではいかんのだ!
わしよりも……」
婦人ルアーナが、いたわるように夫の肩をさする。
だがストラグルは不敵な笑みを浮かべた。
「歴代の探求者で、狂わずに済んだのは
そう聞くと、ナサニエルははっと顔をあげ
「なにを言う!
アルなら乗り越えられる。
必ずわしより先へゆく!」
急な怒声に、ストラグルと婦人は驚いた。
しかし、ナサニエルが弟子に寄せる愛情が伝わってきて、二人とも思わず
3人は、滝の上に昇るとまぶしさで目を細めた。
視界には、山あいの壮大な光景が広がる。
空を何人もの有翼人が
老夫婦は、地面を
その後はアルバテッラへ戻ることは二度となく、独自に進化した
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