4 伝説
白い炎がアカネの指から舞い、ゆっくりと灯台の
この時、古代エルフが
感慨にふけるエルフの火の表情は、
ふと、背中からとぼけた声がする。
「アカネまだぁ?
みんなしがみつくの大変で……」
「いま行く! マルコ!」
少年エルフはあっという間に駆け、灯ろうから外の海へ
落下する先は、雄大に羽ばたく龍。
アカネがその背中に着地すると、マルコや仲間が笑顔で迎えた。
エレノアが、
翼が風をおこし、驚く仲間をのせて巨龍は上昇した。
崖の上から、さまよえるエルフたちは一部始終を見ていた。
余韻にひたる間もなく、羽ばたく巨大な龍が
アオイもエルベルトも、そして
翼を広げ、巨龍は風のように東へ飛んだ。
◇
王都西区あとの夕方。
慣れない重労働につかれた男や女たちも、これ幸いとわらわら集まる。
男の子は「見たことない大きな鳥だ!」とわめくが、夕日をながめる大人たちは相手にせず、笑ってひと休み。
だがやがて、目の良い農夫が引きつった悲鳴をあげる。
「ひいっ! 竜だ! ドラゴンだああぁ!」
しかし、王都グリーとともに
『観念動力』を一から詠唱し、
ところが、研究長コーディリアと近くにいた
西区の親方やソーリ、そして若
魔力に富む
そんな時。
「なにやらサワガシイの!」と、小人の親方が小さく叫ぶ。
コーディリアが帽子をあげて見ると、西から大群衆が走って来る。
人びとは悲鳴をあげ、「ドラゴンがきた!」と口々に逃げ惑う。
「逃げて!」と彼女は生徒に叫び、夕日を背にする影を見ると、焼かれる覚悟で詠唱。
だが、その背の白く柔らかい光に気づくと唇の動きが止まる。口はほころび、夕焼けの赤い光で笑顔が輝く。
巨大な龍が
巨龍は南をぐるっと回り、翼を振り北へと飛び去った。
地に伏せた者がやっと顔をあげると、研究長は誇らしげに言った。
「探求者の龍です!」
そして、噂が広がる。
昔を知る者が「北の探求者が失敗し、災厄の龍が放たれた」と言ったり。
またある者は「南の探求者が龍を使い、城を襲った」と唱え、そして必ず「なんで?」と問い返された。
西区の民は南門の天幕で、東区の民は街の酒場でこの噂話を楽しんだがしかし、これらの説はすぐに消えることになる。
また一方、同じ頃。
西区あとの南の天幕に、先導者ユージーンが息せき切って駆け込んだ。
「
一同はあわてて天幕を出ると、思わぬ暴風に目をおおった。
目の前を、夕日が照らす巨大な龍が
あまりのことに、みな
だが龍の背に、夕日を反射する光を見た。
「
周りがどよめく中、レジーナとユージーンは目を合わせ、
二人にはほかの仲間もわかったのだ。
群青色の
そして、水色の髪が風でなびくエレノア。
ユージーンはさりげなく近づいて、王女にひそひそと耳打ち。
「ストラグルですね……」
「リリーだよ」
レジーナは子どもっぽい笑みを返した。
ユージーンはしかし、ざわめきがやまない周りを見て
「……どうします?
『王都を救った客分騎士が、
そう聞くと、レジーナは面白がって瞳をひらく。指を
「何があったのかわからない。
でも、知ってることに想いをのせよう。
『王都を守った異邦人は、今は探究者の仲間とともに龍を安らかな地へと導いている』」
輝く瞳で言うレジーナへ、ユージーンは優しい笑みを浮かべ、うなづいた。
こうして、この日の出来事は語り継がれることになる。
実のところ、仲間は振り落とされないよう龍にしがみついていただけだったが、人びとはそれを知らない。
なので王都の人は自説を
さらに合戦で兵を恐怖に
その神秘に
このようなわけで、異邦人マルコ・ストレンジャーの名は、すでにアルバテッラの伝説となったのだ。
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