7 西のたすけ、南のたすけ
大河マグナ・フルメナ下流の森。
王都の真西は枯れ木だが、その南、横長の湖のまわりは青あおとしている。
さまよえるエルフたちがいた。
ここしばらく、第三の民が苦難にあえぐ
だが、その背中を見るアオイには、
星読みエルベルトが、となりから
「月を読む日々で、おつかれか?」
「なんでもない……」とアオイは目をそらす。
だがエルベルトの返事がないので、ふと、彼の瞳を見ると奥までのぞけた。
彼の心はいま、風が吹いても
ふいに彼女は、
「アカネに何かあったと思う!」
「ああ。きっと
控えめな笑みで、エルベルトは応じた。
アオイは思い切って吐き出す。
「それから私は、人の中の水音が、聞こえるようになったの……」
月読み姫は、自らに起きたゆるやかな変化を告白した。
「ふむ」と星読みは
「目覚めが近い」と
だから、少し話をそらしてみた。
「様子を見ましょう。
ところで、満月の時は
「まぶしかった! もう、月は見たくない!
もう私の中に
アオイは取り乱し、倒れるようにエルベルトに抱きつく。
星読みは柔らかく彼女を受け止めた。
「平気ですよ」と
エルフの少女はしゃくりあげ、泣きはじめた。
そのとき一瞬。
エルベルトの目に、
彼はしばし、
それから、少女を落ち着かせるためか歌をささやき出す。
「エルフの水 エルフの水
浄化の炎 目にうつすとき その海
◇
アルバテッラ、大河の南。
新春は
大平原が広がる、ルスティカの朝だ。
荷台は穀物がこんもりして、大きな鳥の羽や獣の
だが青年団のダニオは、その荷の上に座る娘に
うしろでしばる
肌が露出した白い
張り詰めた表情の白い顔は、はっと驚くほど美しい。
ダニオはそう思った。
御者台から壮年の男が礼を言う。
「いやぁ助かったわ! こちとら、さらに北なんて初めてだからよ。心細くって」
と、全く心細くなさそうな、
「寄り合い長にもよろしくな、
それで……次の街は、るーらん?」
ダニオは
「ヌーラム! このまま真っすぐ行って、川にぶちあたれば他の馬車もいる!
それについて西にいきゃいいからっ!」
早口で返すダニオに、ポンペオは首をのばしてゆるい笑顔を見せた。
「いやあぁぁ助かったわ!
こちとら初めて––––」
だしぬけに、荷の上から娘が口をはさむ。
「ねぇねぇねえ、お父さん! その先の王都まで、このまま行っちゃおうよ!」
「こらぁシェリー! だめだっ!
母さん心配して待ってるんだぞ。
俺らにできるのは、食いもん届けるまで!
……るーらむ、にな」
「えぇ、なんでよぉ! ちょっと行くだけ。
すぐそこじゃない?」
話し出す
ずっと大人だと思っていたのに、
彼はおかしくなって、「くっくっ」と笑いがもれる。
すると娘は目ざとくそれを見た。
「ちょっと! なんだよっ!
なによ……王都のひとつやふたつ……」
そう聞くとダニオは
シェリーは恥ずかしくて、赤くなった。
だがひらめいて、意地悪な顔でダニオにたずねる。
「ちょっと、お兄さん––––」
「ダニオだ。オレは青年団長のダニオ!」
「ダニオは、王都に行ったことあるの?」
そう言ってシェリーは、得意げな顔。
ダニオは思わず目をそむけた。
「オレは……ない」
「ほらあぁ! やっぱり」
「でもダチがいる! そいつは、すげー剣士で、きっともう王都で……がんばってる」
それを聞くと、シェリーは真顔になる。
今はきっと、アルバテッラ中が王都を心配している。
青年の
だがしかし、
「それ、ズルイ! そんなの私にもいるよ!
すっごい
「……そっか。そいつも無事だといいな」
あやしい彼女の
二人は
シェリーは、再び強いまなざしを北の方、王都へと向ける。
軽く手をふったダニオは、
馬車が続ぞくとやって来る。
「今日もいそがしいな」と口に出して、彼は自分のつとめを思い出した。
南は
荷馬車はつらなり、アルバテッラの中心へ向かっていた。
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