9 入り口の間
大河マグナ・フルメナの中流域、ヌーラムの東にたたずむ
長らく人が住まないその屋敷は、最後の主人の名から『モーテムの
そこが川賊の根城として使われていたのか調べるため、マルコとアルの旅の仲間は訪れていた。
長命のエルフ、赤髪のアカネとともに。
「間違いない。賊はここで寝泊まりした」
裏口から最初の部屋に入ったとたん、アカネが声をあげる。
薄暗い中、バールがかかげる
アルも、
「そうみたいだねぇ。大きな屋敷だから。
ひどい
一同は賛成して、裏口に面した廊下へと戻った。
屋敷の一階は薄暗く、ガラスが割れた窓から、清浄な光がさしこんでいる。
日の光を反射し、ほこりがきらめく。
長い廊下で、
その奥に、また別の暗がりがあるようだ。
「向こうが、玄関の広間だよ」
アルが大杖でさすと、アカネがちゃかす。
「自分の家みたいに、くわしいな」
エレノアが、じっと少年エルフをにらむ。
だがマルコとバールは、アカネの軽口を聞き流して、アルへと目配せした。
「気をつけて。吹き抜けで天井が高い」
アルが答え、マルコはうなづいて足を先へ進めた。
◇
高い天井から
久しく火は
大階段の右手から、びくびくするマルコを先頭に、仲間が入り口の間へと入ってくる。
「これ、いい!」
叫ぶとアカネは飛び上がり、マルコの肩、大階段の手すりで
「あぶなっ!」とマルコは驚いたが、不思議に思って自らの肩を触る。踏み台にされても衝撃をまるで感じなかった。もちろん気持ちがいいものではなく、顔をしかめる。
苦笑いするアルは、「危ないから––––」と言いかけ、さっと表情が変わった。
「
マルコも、はっと
とその時、回転する
ァァァアアアア!
ぞっと背筋が凍る悲鳴が上がり、忌まわしい影は姿を消した。
「だ、だいじょうぶ?」
炎を投げたのは、バールだった。
正気に戻ったアカネは、すんなり
「なんともないけどな。……ありがと」
「まだいる!」
マルコが叫び、仲間が見上げると、吹き抜けの暗がりに無数の
ガチャッと音をさせ、マルコは
エレノアは月のメダルの前で手を合わせ、詠唱をはじめる。
そしてアルは、
◇
入り口の間で、マルコとバールが剣と
「こいつら! 剣が効かない?」
先ほどからマルコは、近づく影を切る。が、
「どうすれば?」と、バールも泣き顔で逃げはじめる。
だが、詠唱を完成させたエレノアは、片手を上げ唱えた。
「
マルコの頭上で、白い三日月の光が走る。漂う
全身を震わす断末魔が響く。
バールの半泣き顔の前で、もう一つの三日月が宙を裂き絶叫とともに漂う影は消えた。
しかしそれでも、二階からわらわらと、影は玄関へ舞い降りる。
一行がじりじりと後ずさりする背後。
ぎぎい! ときしむ音がして、床の光の筋が
日の光が仲間を照らすと、
マルコがふり返ると、大きな扉に手をかけるアルが息を切らす。
「はぁ幽霊はね……日光が一番……うぇっ」
無理して扉を開いた魔法使いをながめて、マルコはほかの仲間と顔を見合わせ、ほっと微笑んだ。
◇
両側の荒れた庭園を目にしながら、マルコたちは川岸までおりた。
「やっぱり! けっこうな船が
そう言ってアカネは、長く続く
マルコがながめると、真新しい木材で
アルが、アカネに顔を向ける。
「確かに川賊の拠点のようだ。どうする?」
「もちろん、焼き尽くす」
そう言って、アカネはバールから
しかしマルコは、どうにも
「でもさ! あのお
マルコの問いに、エレノアとバールも同意して、うんうんとうなずく。
詠唱を終えたアカネが腕をふると、
一同は、あわてて身を引いた。
アルが、口に
「まともじゃない賊かも!
あとでアカネに聞いてみよう」
瞳に炎の光を反射させながら、マルコはぼんやりうなづいた。
魔法使いも、炎に見とれて、考える。
「日と火。あの時もっとうまく使えば……。
誰か一人でも、助けられたかもしれない」
大河マグナ・フルメナの中流域で、川岸に長い炎が立ち上がる。
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