7 いまのモーテムの館
ヌーラムの東の森。
朝日がてらす小道で、異邦人の黒髪が
若ドワーフが持つ剣を見ながら、マルコは熱心に説明を聞いている。
バールは、
「これを、こうして……こう!」
ガチャッと金属音がして、
マルコは口を開けて驚く。
「長い?」
「一見よくある
力を込めて、若ドワーフは自慢する。
「やってみて」とマルコに
ドキドキしながらマルコは、光り輝く
そして若ドワーフがしたように
満足げにバールは小刻みにうなづく。
「そうして戦えば––––」
「切らずに
これで人を切らずに済む。
……ガイコツにも効くかな?」
「も、もちろん。僕は、
そう聞いてマルコは、嬉しくなって魔法使いへふり返った。
「アル〜。動くホネ対策、バッチリだ!」
片手を挙げて、アルは応じる。
「
かたわらには枯れ
不思議そうにエレノアがたずねる。
「こんなに明るいのに、
「屋敷の中で必要なのと……魔物対策」
答えるアルのかたわらで、ぼうと枯れ
「な! え?」と驚くアル。
上から愉快に笑う声がして、弓を背にしたエルフの少年が木から飛び降りた。
エレノアが
「火を
「あ! その差別的な呼び名、傷つくなあ」
と言いつつ笑顔のまま、アカネは彼女から
立ち上がったアルが
「あなたには––––」
「アカネと呼んで」
「アカネさ……には! 私たちと一緒に後方にいてもらう」
アルが頼むと、エレノアも続けた。
「火矢が得意なら……いいでしょ?」
「えー!」と不満げに
◇
「これが、モーテムの
日ざしがそそぐ原っぱで、アルが杖をかかげる。その先は古びた木造の
大きな入り口は見あたらない。
仲間がいるのは、
マルコは
暗い森に囲まれた墓地は、崩れた石板が散らばり、草は伸び放題。
「あれが、裏口なんだけど……」
気が進まないように、アルが手前の扉を杖でさす。
となりのアカネが大声をあげる。
「おいドワーフ! 暗いの平気だろ?
先に入ってみろよ」
「ぼ、僕の名はバール」と若ドワーフが涙ぐみ、となりのマルコがアカネをにらむ。
だがアカネは、笑顔を見せた。
「冗談だよ! 俺がエルフだから、ドワーフのこと苦手かなぁと思ったろ? そういうの全然ないから!」
血相を変えて、アルが少年エルフをしかりつける。
「ふざけないように! ここは危険な––––」
その途中で、アカネは素早く弓をしぼる。
同時に唇が動き、矢に炎が
半開きの口のまま、アルは間の抜けた顔で火矢の先を追う。
バールの顔の横に、眼球が飛び出た
だが、アカネの火矢がその目に刺さると、頭が炎上して崩れ落ちた。
「動く死体だ!」
マルコが叫び、
昼のさなかの墓場。
土の小山が、ゆっくり立ち上がり、腐った
地面に散らばる骨が、カタカタ音をたてて浮かび上がると、これもゆっくり錆びた剣と盾を構える。ぐるっと首を回して、
しかし黒髪戦士が長い剣で、若ドワーフは
そのうしろを赤髪の弓手が跳ね飛び、息つく間もなく火矢を放つ。
三人の戦士は、突如現れた魔物をものともせずに、次から次へと倒していった。
◇
こんもり積み上げられた死体と骨の小山。まだ小骨がカタカタと震えている。
それにアカネが指を伸ばすと、ボウッと勢いよく小山は燃え上がった。
「もう済んだ。やるじゃんか……二人とも」
アカネが、ぼそぼそつぶやいた。
「認めてくれたみたいだ」とマルコは言い、若ドワーフにいたずらっぽく微笑む。
ぱあと顔を明るくして、バールは叫んだ。
「さっきはありがとう! アカネ」
少年エルフと若ドワーフは、仲直りするように笑顔で向き合った。
しかし、納得のいかないアルが間に入る。
「だ、だけど、さっきは本当に危なかった。
軽口は控えてほしい、アカネしゃん––––」
舌をかんだアルにアカネが口ごたえする。
「わかったよ、うるさいなぁ。これじゃエルベルトが一緒なのと変わらない」
すねたアカネは背を向け、歩き出す。
アルはぐっと口を結ぶが、
それを見て、マルコは吹き出しそうになるのを我慢した。
「いつも人をイライラさせるアルが、イライラさせられてる?」と愉快になる。
でも楽しんじゃいけないという気持ちもあって、ゆるむ口もとを手で隠した。
エレノアがアルに近づき、慰める。
「大変だけど……なんとかなりそうだね!」
明るく言うエレノアを見て、ふとアルは思った。
前にここに、エレノアを救いに来た時とは全てが違っている。それはきっと、一緒にいる仲間のおかげだ。
アカネはとても扱いづらいが、とても戦力になる。
マルコはなぜかニタニタしてこちらを見ているが、どんどん頼もしくなる。
アルは、仲間を見回すと勇気づけられた。
「前とは、まったく違う……」
心の中でそうつぶやくと、彼は、10年前の惨劇が脳裏に浮かんだ––––。
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