17 夜明け前
夜明け前の星空の下、
マルコは、またアルからもらったあの青い薬を飲みながら、先を歩く二人を見た。
アルが背中を丸め大杖をついている。
報酬代わりなのか、ゴードンはマグナスの大剣を背負っている。みな、つかれて歩みが遅かった。
ゴードンが
「第三の民のやる事は、いつもこうだ!
根本の解決を
ぼんやり前を向いたまま、アルが応じる。
「……その一員として、弁明はしないよ」
それを聞くと、ゴードンはつぶやいた。
「いや……貴公は違う」
彼は立ち止まって、アルを見上げた。
アルは、星明かりの下で、ドワーフの目が銀色に光り不安になった。だが目が慣れるとそれは、真剣な瞳だと気づく。
ゴードンが語り出す。
「雪壁山脈の
◇
200と数十年ほど昔、王都の高い城壁前。
数百ものドワーフと、人間の混合戦士団が敵を迎えていた。
手には鋭利な斧や剣。鉄の
その中に、若きゴードンがいる。彼は兜を目深にかぶり、正面の敵勢をながめながら、恐れで歯を鳴らした。
城壁前の平原で、千もの蛮人の軍勢が二度足踏みをして、「オォ!」と吠えた。
獣の皮をまとい、取り
ドワーフ軍に次々と飛び込んだ––––。
ゴードンが述懐する。
「
私は彼らに、何もしてやれなかった––––」
ドワーフの俊敏な振りを獣の動きでよけると、
あまりの素早さにゴードンは恐怖し、後ずさりした。
編み込んだ白髪を兜からふり乱し、老ドワーフが叫ぶ。
「戦士の
老ドワーフの首筋を別の
すると、
入れ替わるように、平原の左から馬が引く戦車の軍があらわれる。
先頭の戦車で、
その
◇
「
聞きながら、杖を持つ両手をがたがた震わせ、アルは目を合わせられない。
ドワーフは続ける。
「あのような、御先祖様の深い
人生をかけて、マルコの持つマリスの問題を解決しようとしている。……違うか?」
アルは「あ」と一声もらしたあと、ドワーフから顔を背けた。肩が震えだす。
ゴードンは、ごつごつした手をアルの
「アルフォンス……キリング。短命の種族。
かつての
うむ。第三の民にしては貴公はなかなか、骨のある奴だ!」
野太い声の称賛のあとも、アルは肩を震わせるばかり。
しかしやがて、ふり返って涙顔を見せると言った。
「今は、
魔法使いとドワーフは、控えめに微笑み合うと、後ろをふり返った。
マルコは、青い薬がまだ残ってないかと、傾けた
◇
「マルコーーーッ!」
ぽつぽつとしずくが落ちて、マルコが星空を見上げた時、張りのある声が
ふり返ると、バルドとダニオの兄弟がこちらへ走ってくる。
ダニオは、マルコの前までくると、
バルドはそのままアルへ、「これ食べ物」とか「この先に休ませてくれる農家が……」など、ひそひそと話をはじめる。
マルコは、あの戦いの事を問われるのではないかと、不安な目でダニオをながめた。
やがてダニオが、真剣な顔を上げる。
「また、来るよな? 好きな子に会うため、王都の次は、南の村に戻るんだろ? その時ここに、会いに来てくれるよな?」
少しほっとして、マルコはかすかな笑みを浮かべる。
「……そうだね。うん。そうするよ」
だがマルコは、
ダニオは、ほっと笑顔を見せたあと必死なまなざしに変わる。
「お……教えてくれっ! オレと、あの男は何がちがう?」
さあと音をたて、小雨がふりはじめた。
マルコは髪を
息を継いで、ダニオが続ける。
「す、好きなひとができて、剣をとった。そのひとを守りたくて、別な人を殺した。
教えてくれ! あの男とオレは、いったい何が違う?」
そう吐き出すとダニオは、また膝に手をあて地面に息を吐いた。
マルコはじめ一同は、雨に
バルドが、肩で息をする弟に近づくと、ふり返ってマルコを見つめた。
前髪からしずくを垂らし、やがてマルコが答える。
「……大丈夫だよ、ダニオは。バルドさんやルーシーさん、周りの人をこれからも大切にして。
そうすれば……絶対に大丈夫!」
力強い言葉に安心して、ダニオはほっと顔を上げた。だが、その表情がさっと
目もとが
「でも……用心して。この世には、なにか、その、
それに出会うと正しい事をしているつもりでも、思ってもみないような、ひどいことが起きたりする。
僕も、最近わかったんだ。だから……用心して」
ぽつぽつと語られるマルコの言葉を、ダニオはゆっくりと
しかし、
「でも、どうすればいい? もし、そんな、そういう
ざあと雨が大ぶりになった。
アルも、ゴードンも、
雨のしずくは止めどなく、涙のようにマルコの頬をつたう。唇は、開こうとはしなかった。
地面に、白いもやが立ち込める。
まだ、日は昇らない。
誰もが、夜明け前の暗がりに
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