7 引き渡し
裏山は、
その日は新月で、青黒い空の下、日没が間近に迫っている。
マルコとアルとゴードンは、ダニオ
「ちーっす。
ドワーフの戦士なんて初めてだ!
よろしくお願いしまっす」
しゃがむダニオに
アルが鋭いまなざしを向ける。
「静かに。そろそろ日の入りだよ」
そう言うアルへ、ダニオはたれ目を細めてたずねた。
「……アニキ、何か言ってました? オレらを止めようとしたんじゃ––––」
「お兄さんは何よりも君の無事を願ってる。だったら、私たちで君たちを守る方が早い」
キリッとした顔でアルが答えるので、ダニオは驚き、マルコの
「よぉっ!
……ちゃんとした人じゃんかよ」
「いや! こんなはずないんだ……普段はもっとだらしなくって––––」
「シーッ!」
あせって言うマルコを、ゴードンが制す。
「来たぞ」
一同は、ドワーフの視線の先を見つめた。
細い影のとなりには、ふらふら歩くドレス姿の影が見える。
その長い髪が、
◇
「寄り合い長だ。間違いない」
ゴードンは低くささやいた。
寄り合い長の細長い影が、右手の森に向かって、腕を広げなにやら口を動かしている。
向いた先の樹木の陰から、背が高く、髪の長い女の影が現れた。
アルがゴードンにささやく。
「何者だか見えるかい?」
「うむ。白金色の髪の女が、もう一人」
ドワーフの夜目がきくゴードンは、そう答えた。
はっとしてマルコは目をこらす。
ドレス姿の少女の影が、もう一人の女の影に近づいて、手を取られる。
そして、荷車と人夫を引き連れ、右手の森の中へと入っていった。
アルがうしろをふり返り、眉をひそめる。
「どうしても行くのかい?」
「ぜってー、ルーシーを救う!」
ダニオはきっぱり答え、かすかに荷車の音がする方角をにらみつける。
だがしかし、彼の背後からは、若者たちが不安な顔でマルコを見ていた。
◇
暗闇がおりる森の小道。
ゴードンに導かれた一行は、小道より下の
ふと、上の方からいくつもの小さな
ゴードンがささやいた。
「待て。ああ……山賊が
何がどういう事なのか、マルコはいくつも質問したい気持ちを必死でこらえる。
横を見ると、ダニオはぽけっと抜けた顔をしていた。
アルがゴードンにささやく。
「何が起きている?」
「……交代している。運び手たちは来た道を戻り、代わりに山賊が……荷車を運び始めた」
ゴードンが答え、ふり向く。
暗闇のなか、面々はうなずき合って、再び追跡をはじめた。
◇
「あぁっ!」
暗闇の中、かん高い声があがる。
マルコのとなりで、「チッ。ロッコ……」とダニオが舌打ちをした。
「ダニオごめんっ! 何か顔に当たって」
マルコが昨日聞いた声がする。誰かが、「シーッ」と音をたてたが手遅れだった。
素早くゴードンが手で合図し、アルと若者たちは身を伏せた。
上から女と男たちの声がして、マルコが見上げると、いくつかの灯りがこちらに降りて来た。
左で、
「……やるしかねーな」
ダニオが上を向き、つぶやいた。
ゴードンが低い低い声でささやく。
「まだだ。まだ引きつける」
それを聞いて、マルコも腰のうしろから、小剣ハート・ブレーカーを静かに抜いた。
灯りはなおも近づいて来る。
マルコが心で「……3つ、4つ」と
「うらああぁぁ!」
ダニオが飛び出し突撃した。
右でもゴードンが立ち上がり駆ける。
マルコが正面に目をやると、すぐ近くに
相手もとっさに気づくと、マルコの突撃を腕で防ぐが、衝撃で二三歩後退した。
「シッ!」と吐き、すぐに剣をふり下ろす。
マルコは右によけた。
山賊は二撃目をふる。マルコは今度は左によけて思い切り、ドンッ! と盾で体当たりした。
相手は両手をついて倒れるとあわててふり返り、恐怖に
マルコは、人を殺した事がなかった。
呆然と立つマルコの脇から、黄色い頭の影が飛び出す。
目の前に座り込む山賊の胸に、体ごと剣を突き立てた。
その山賊は、ふうとため息を吐くように、絶命した。
ダニオは、血だらけの剣を抜きふり返る。
「……ハアッ……ハア……何やってんだ? 訓練じゃねぇ……ハァ、わかってたはずだ」
そう言いつつ彼は、声も手もとも震える。そして、「次は殺せ」とつぶやくと、上の小道目指して歩きはじめた。
なお立ち尽くすマルコのとなりに、いつの間にかゴードンがいる。
ドワーフは力強くマルコの肩を握った。
「真相がまだわからん。
マルコ、貴公の心の通りにするといい。
私は、
そう言うとゴードンは、親指で後ろを指してニカッと笑った。その先から山賊たちのうめき声がする。
そして彼も、上に向かって走り出した。
マルコは、ドワーフの言う事がよくわからなかった。だが、
右手に持つハート・ブレーカーをじっと見つめる。そして手元で剣をクルッと回すと、片刃を手前、背を下に向けて、
「誰も殺さず、なんとかのりきりたい」
この時は、そう思っていた。
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