5 白いもや
ルスティカ唯一の、
大きな
「……それじゃ、バルドの一番の願いは弟の安全なので……彼と接したマルコから」
アルはそう言うと、
ゴードンも無言で
「……あの、バルドの弟のダニオは、若くて強い剣士、です」
「うむ。要点を」
ゴードンが穏やかにうながす。
マルコは落ち着こうと、
「青年団は、
そのために訓練に励んでいる」
「その……、なぜそこまでするんだろう?」
アルが目を丸くしてたずねた。
マルコは、彼を真っすぐに見つめる。
「単純な理由なんだ。ダニオは
話しながらマルコは、ダニオとの会話を思い出していた––––。
◇
「なんでこんなに訓練してるの?」
マルコは何気なくダニオに話しをふった。二人の前では、村の若者たちがまだ木刀を交わしている。
ダニオは赤面した。
「……お前、好きな子とかいるか?」
顔を赤らめて言うダニオを見て、マルコはますますダニオが気に入った。「嘘つけなさそう」と思ったので、自分も正直に話す。
「ああ、いるよ。本当はその子に会うために、今すぐ、南の
「えらいっ!」
ダニオの大声に驚いて、マルコは目を開き横を見た。
ダニオはたれ目を大きく開き、涙を浮かべてこちらを見ている。
「そうだよな、そうだよな。好きっていうのは、そうそう単純な事じゃあない」
マルコは「君は良い意味で単純だけど」と思ったが胸にしまった。
ダニオが一気にまくし立てる。
「もう、たまったもんじゃないっつーの! 好きな女がいて、その子がしきたりだかなんだか気持ちわりーもんの犠牲になろうとしてる。それをアニキは『仕方ない』とかぬかしやがる! ここで何もしなけりゃ、このダニオ様の男がすたるってーの––––」
どんどん顔を近づけるダニオ。
マルコは「わかった! もうわかった」と手をかざし、飛び散るつばを少しでも防いだ––––。
◇
暖炉の灯りが、目を大きく開くゴードンとアルの顔を照らした。
「わかりやすいな」
「うん。わかりやすい。……相手が何者かわかってるのかな?」
それを聞くアルに対して、マルコは無言で首を横に振った。
杯を傾け、気持ちを切り替えたアルは、今度はゴードンに目配せして話しをうながす。
気づいたゴードンが、淡々と語る。
「寄り合い長と会った。腹に
「……それだけ?」
アルが驚いた顔から、ほっとしたような顔に変わる。
ゴードンは一口飲むと、いつもより小声でつぶやいた。
「あとは昔話。町で起きた
「そうかぁ。ゴーディも、なかなか苦労してるね。そういうえらい人にはさ、何かお
「そんな真似! ぐっ……検討しよう」
ゴードンの一瞬の剣幕に、アルは驚いた。
マルコが軽い気持ちでたずねる。
「……それで、アルの収穫は?」
「え?」
「え、じゃなかろう。貴公の番だ」
ゴードンも落ち着きを取り戻して、顔を向ける。
ゴードンとマルコにまじまじと見られ、アルはあせりの表情に変わった。なんとか声を絞り出す。
「えぇと……
「……は?」
マルコとゴードンは同時に発した。
◇
翌日の寄り合い長の部屋。
テーブルには、
部屋の窓に、雨のしずくが音をたて打ちつけられていた。窓からの景色は、白いもやがぼかしている。
髪と
「いずれかお好きな方をどうぞ」
「これはこれは……。
このような振る舞い、意外でした」
若白髪の寄り合い長プロピウスは、面白がってドワーフを見つめた。
ゴードンは下を向き、鼻をかきながら言い
「そもそもは私の考えではござらん。
友が––––」
「ご友人が! それは、とても素敵なことですね……」
そう答えるプロピウスの声が、なんだか妙だ、と思いゴードンは静かに顔を上げた。
プロピウスは遠い目を窓に向ける。何かを思い出すように。
「……私にも、大切な友人がおりました。
真の友人とは、本当に
ゴードンは同意するように軽くうなずく。
寄り合い長が続ける。
「本当は、彼が寄り合い長になるはずだったのです。私はそれを待ち望んでいた」
「昨日うかがった事件の
「……あんなことさえなければ。
いや、そもそも姉が、もっと待つ事ができていれば。いやいや、あの時は私も彼女の相談にのったのです」
プロピウスの
「
「死にました。そう思ってます。
白金色の髪が、本当に美しい人でした」
続けざまに、雨のしずくが窓にあたり
ゴードンは気力をふり
「
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