24 混沌の祭 神追いの終わり
丘の頂上にある神殿は、夜更けの暗がりに沈んでいる。
しかし、いくつかの
神殿の前では、巨大な半獣半人のディオニソス神が、群衆のかけ声と、棒が地面に打ち鳴らされる音を浴びている。
巨神は今、苦しむように
前列の小娘衆はむろん、そのうしろの蛮人たちにも、巨神の先にある神殿の姿が、もう間近に迫って見えた。
群衆を上から見ると、激しく声をあげつつも整然と進む中に、飾りをつけたアエデスの黒髪があった。
黒髪は、
となりには、同じく黒いゴードンの頭がある。やがて、ゴードンの黒い頭が、アエデスから離れていった。
◇
「アイ! アイ!」というかけ声とともに、その場の人々の心は一体となった。
最前列のマルコへ、ゴードンが駆け込む。
そのままゴードンは、右側から様子を見ているアルに向かって腹から大声を響かせる。
「アルーーー! しっかり受け取れ!」
ビュンッ! と棒を投げる。
アルはそれを片手で受け取ると、驚いたようにひゅうと息を吐き、口もとを
アイ! アイ! アイ! アイ! アイ!
という音の間に、別の甲高い音が響く。
カンカンカンカンカンカンカンカン––––
何事かと人々のかけ声が止んだ。
ふり返って群衆へ向いた、マルコの大声が響く。
「聞け! 全軍! ……逃げろ!」
人々が顔を見合わせ戸惑う中、小娘衆の
「みなさん! 最後の儀式です! 後ろの人から坂をおりて。ここから離れて!」
人々が少しずつ後退しはじめる。巨神が、のけぞらせていた体を、ゆっくりと戻す。
さざ波のように群衆が引いた道の真ん中。
一本の棒を横にして両手でかかげ、顔を下に向けるアエデスがたたずんでいた。
◇
神殿前の参道、右側。
アルが詠唱してグリーの白い光を輝かせている。
同じく左側。
マルコがマリスをつまんで高くかかげる。
アエデスが詠唱を終えた。
するとグリーの白い雲と、マリスから出た赤黒い雲が彼女の棒に集まり、
マルコにつままれた神の悪意の石は、その間ずっと、ブブブブブ……と、何かを恐れるように震えていた。
◇
巨神の周りが静かになった。
人は離れ、神にとって不快な音は止んだ。
混沌の神は、牛の頭をめぐらせ辺りをうかがう。
「必ずくる!」
道の左からマルコが叫んだ。
巨神は、足先にたたずむ小さい者に気づいた。よく見ようとして大きな足を踏み込み、腰をかがめる。
「きた! いっち! ……にーのっ!」
「––––よう、かしこみかしこみ申す!」
マルコとアエデスの声が交差する。
アエデスが顔をあげると、混沌神の牛の顔は目の前だった。彼女は唇を動かすと、人と思えないほど、跳んだ。
「……さんっ!」
宙を舞う少女を見上げ、マルコが一声を放つ。彼は左の白い
そしてアエデスは、牛の白黒の瞳を、横に
◇
爆発音がして、小娘衆はふり返った。
見上げると、坂の上に花火が見える。
そのまま動けず見つめていると、先をおりていた蛮人たちも戻ってくる。
劇場に残っていた人たちも、頂上の光に向かって、全ての人が坂を登りはじめた。
◇
マルコは
やっと
参道では、座り込んだ老婆のかたわらに、ゴードンがかがんでいる。
向こう側には、薄灰色の
顔をめぐらせ神殿を見ると、
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