23 混沌の祭 マルコのいくさ
テンプラム、深夜の神殿参道。
ディオニソスの巨神が荒ぶっている。
それを前に蛮人の集団も、美熟女神官も、さらに最前列の小娘衆まで、みながつかれ切っていた。
「アイ、アイ」と言うかけ声も勇壮ではなくなった。
小娘衆の
途方に暮れていた頃、いつの間にかとなりにいた、立派な着物の美少女が呼びかける。
「そなた、旦那衆の
「やばいっ。かわいい! あなた誰? 可愛いの暴力」
少女のアエデスはあきれて目を細め、軽くため息をつく。
「しっかりせい。神官長である」
そう言うと、
◇
マルコは、混沌神の攻撃が当たらない参道の左にいた。棒と盾を手に中央の群衆に目を向けると、アエデスに聞いた、
すると、前列の後ろ中央から、華やかな女の子がこちらに手をふっている。
マルコは「実はおじさんなんだよな……」と一瞬気が散ったが、すぐに首をふった。
気をとり直して、小娘衆の
「全軍、後退!」
そしてマルコは、小娘衆と巨神の間に
「神さま、こちら!」と声をあげ、巨神の注意を引きながら横に歩いた。
小娘衆の
「みんなー! いったん、撤退! ゆっくり後ろに下がって! 他の人を押さないで!」
◇
アルは参道の右、巨神に対面する群衆が、よく見えるところにいた。
人々がつかれて、ゆっくり後退するのをながめている。
巨神の方へ目を向けると、ふり下ろされる獣の手を、マルコが俊敏に回避していた。
向き直った壮年のアルは、力強く詠唱をはじめる。グリーの光がまばゆく輝き、瞬時に数百もの白い光の雲があらわれた。
その光は、アルの顔に刻まれたしわを浮かびあがらせる。
そして、となりにある第三の神の石板も。
石板に描かれた第三の神テテュムダイの、もがき苦しむ左腕と、半分だけの静かな顔がくっきりと浮かびあがっていた。
その場にいた人々は、グリーがもたらす奇跡に心から救われた。一人ひとりを取り巻く雲の、白く暖かい輝きが、
小娘衆はすぐに元気よく飛び跳ね、マルコの元へ向かおうとする。あわてて
美熟女神官たちは、みなほっとしたように
蛮人たちも皆、活力を取り戻して、背筋をのばし次々と
初老のたくましい男と、となりのふくよかな娘が、顔を見合わせ微笑み合った。
◇
マルコは、巨神が繰り出す攻撃につかれていた。
「だけど、そろそろのはず」と思い、息を整え道の真ん中を後退しはじめる。
背後から娘たちの黄色い声が聞こえた。
「マルコさーん! OKで〜す!」
複雑な気持ちでマルコは顔をしかめたが、頑張って気持ちを切り替えた。
「全軍、前進!」
マルコは、自らが率いる群衆の熱気を背中に感じながら、真っ向から巨神と対峙する。
はじまりは小娘衆だった。
「アーーーーーーーーーーーーーーーイ!」
「アーーイ! アーイ! アイ! アイ!
アイ! アイ! アイ! アイ!––––」
数百もの人がみな、口々にかけ声をあげ、ゆっくりと歩き出す。
その先には、グリーの光と
群衆の中には、緑の葉と羽の飾りをつけた少女と、ドワーフもいた。
アエデスは人々と一緒に歩きながら、何かをつぶやいている。
「––––清めたまえ、我らの罪を流し生まれたる赤子のように
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