20 混沌の祭 神追いの願い
マルコが巨神に向かって駆ける。
その少し前、劇場から大勢の人々が参道へと殺到していた。
立派な着物に変わった、
貴族の衣装に変わった地元の旦那衆。手には棒と盾を持っている。中には例年参加の––––そして貧相な腰巻に変わった––––富者もいる。
さらに、布切れ一枚の蛮人姿に変わり果てた数百もの観客たち。
そんな人たちが、坂を埋めんばかりに
変わりないドワーフ神官戦士の数名は、他より遅れていた。
◇
最初に追いついた神官の一人が、ガニ股で歩くアエデスの背中に訴える。
「アエデス様、大変です! 観客のやんごとなき方々が、元の姿に戻せと……」
アエデスは、ごつごつしたあごを回し、興味なさげな顔でふり返って答える。
「あぁ? うっちゃっとけ。
混乱、大歓迎!」
言うが早いか、巨神が見える前方へと向き直った。そんなアエデスの変化に困った神官は、すがるようにゴードンの肩をつかむ。
「早く戻せと、強く
ですので……神追いが無事終われば戻ると、そう答えました。そうしたら……」
そう聞いて、振り返ったゴードンが見たのは、手に
そして背後から、あの音が聞こえた––––。
マルコが棒で巨神の白い
マルコには、第一の神の石板––––エルフを生んだ腰から上だけの丸い神––––が目に入った。
「もうすぐ半分だ」と彼は思う。
巨神は坂の上に飛び去り、棒は砕けた。
なのでマルコは、ふり返ってゴードンを探した。
そこで彼も、坂の下から近づいてくる
そして背後から、同じく例のあの音が聞こえた––––。
ジャンジャン ジャンジャン ジャンジャン
ジャン! …………ガチャッ!
自らを抱きしめ腕をまわしていたアルは、はっと気づくと平らになった胸を手でまさぐる。ほっとした顔から、残念そうな表情に変わった。
アエデスは、はっと気づくと内股になり、しばし思い出すように上を向く。そして老婆は力なくしゃがんだ後、恥じるように手で顔を抑えた。
神官たちは、丸みを帯びた体の線に色気がある、
彼、ではなく彼女らは、動揺する事もなくしゃがむアエデスの周囲に集まった。
そして強い意志を示すかのように手で印を組むと、美しい顔をキリッとさせて、一斉に巨神の方を向いた。
布切れ一枚の元紳士は、哀れな目にあっていた。豊満な胸を腕で必死に隠し「こ……、こんな事って……あり得ないから!」と泣き崩れた。
周りの者が次々と、豪奢なマントや泣けなしの布切れを差し出し、彼女にかけてくれた。
布切れ一枚の元淑女は、自らのたくましい上腕筋をじっと見つめていた。
そして「くっ……くそがあああああああ」と叫ぶと、
元旦那衆は、熟女衆となり、むしろ団結を強めていた。
派手なマント姿の、
「みなの衆! わかってるわね!
あたしらぁ、できる事をやるしかないの!いつも通りの神追いやるわよぉいいわねぇ。
アーーーイ!」
するとみな同時に棒をあげ「アーイ!」と
彼女たちは棒を手に、「アイ! アイ! アイ!」と叫びながら坂を駆け上がっていった。
マルコとゴードンは、ある意味冷めた気持ちで、眼下の混乱に満ち満ちた光景をながめていた。そして同じ事を考えた。
「これが……混沌……」と。
しかし、二人はまだ気づいていなかった。混沌にさらされた人々が、自らの苦境を脱するために同じ一点を見つめはじめた事に。
すなわち、その場の全ての人々にとって、神追い
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