15 祭り前の神官戦士団天幕

 翌日。

 マルコとアルは連れ立って、王都神官戦士団の天幕に向かった。

 晴天の中、遠くから見た天幕は白く輝いている。


 途中、念願のごった煮を食べることができアルは上機嫌だった。

 彼は満足そうに、腹をさすりながら歩く。


「マルコ、どうだった? お肉もたっぷりで美味しかったろう。あの屋敷の食事とは違ったでしょ?」


「そうだね。すごく濃厚で食べごたえがあった。もう満腹だよ。……屋敷でも、良くしてもらえて、快適だよ?」


 アルは、マルコの顔を見つめたあと、複雑な顔で苦笑いする。


「アエデス様に会うと、いつも彼女のペースに巻き込まれる。今もこうして神追いの準備をしてるし。

 ……でも確かに、昔からお世話になりっぱなしなんだけどね」


 マルコは、歩きながらアルの横顔を見上げ、彼とアエデスとの関わりは、おいおい聞いてみようと思った。


 やがて祭りの受付に到着すると、たくさんの白木の棒と、逆三角形の盾が置いてある。盾は、マルコが持つ鉄付小盾メタル・バックラーより大ぶりで、柔らかい木でできていた。


 アルが受付の兵士と話していると、向こうからゴードンがどたどたと駆けて来るのが見える。

 マルコは笑顔になって呼びかけた。


「ゴードンさん、こんにちは! 僕たちもお祭りに参加することになったよ」


 ゴードンは足が遅く、しばらくしてマルコとアルのもとに到着すると、息を切らす。


「……ハア……それで? アエデス様とはお会いできたかな?」


「ゴーディ、前と同じだよ。すっかり屋敷でお世話になり、私たちも祭りに参加する。

 ……彼女には何か考えがあるようなんだ」


 アルがそう言うと、ゴードンは目をぎょろりと開き、アルとマルコの顔を見比べる。


「アルフォンスよ、アエデス様のお考えを、我々がしはかろうとて無駄だ。

 それよりマルコ殿、貴公の装備を見せてもらえないだろうか?」


 そうゴードンが言うので、マルコは手持ちの剣と小盾をゴードンに預けた。

 剣は、きらびやかなさやに入った「ハート・ブレーカー」。切れ味鋭い片刃の小剣。

 盾は、鉄のおおいが付いて、手首にかけることもできる小盾だ。

 それらを手に取ってみて、ゴードンはうなった。


「……うーむ。いかん、いかん! これでは誰かを傷つけてしまう。マルコ殿、この剣と盾は使わんでほしい。

 まず、祭りの説明をいたそう」


「え? えぇと、だいたいは神官長様が教えてくれたよ」


「そうか! では、要点だけ。夕方の神追いは多くの一般人も参加する。なので、ひどくぶつからないよう、怪我をさせない事が肝要なのだ。

 受付は済ませたな。この……白木の棒を使って舞者の足元をたたく。参加者とぶつかる時は、この柔らかい盾でふせぐ––––」


 ゴードンの説明を、マルコはふむふむとうなずきながら熱心に聞いている。

 アルは、そんな二人を見ながら口もとをゆるめた。

 ゴードンがたずねる。


「貴公は三角盾を使ったことは?」


 聞かれたマルコは頭をかきかき「いやあ」と曖昧に答える。

 するとゴードンは、ドワーフのごつごつした手でマルコの手をつかみ引っ張った。


「教えてしんぜよう。この棒も盾も配りものなので、今後の旅でも使えるであろう」


 と言って、天幕の間の広場にマルコを連れて行く。

 マルコは急な展開に驚いたが、手を引かれながら端村はしむらの訓練を思い出し笑顔になった。


 広場で、ゴードンとマルコが「参る!」「はい!」などと声をかけ合う。

 ふたりは棒と盾をぶつけ合い、甲高い音をあげて訓練をはじめた。


 そんな二人の姿をながめるアルは、心から嬉しそうに、穏やかな笑みを浮かべつぶやいた。


「親身になって私たちの面倒をみてくれる奇特きとくな人が、ここにも一人ひとり……」

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