2 大地をいろどる人たち

 快晴の空の下、マルコとアルは、幾重いくえにもつらなる丘を、とぼとぼと歩いていた。

 緑に輝く芝を足で踏みしめるのは、はじめは楽しかったが、三つほど丘を越えたところでマルコは暑さにまいってしまった。


「……フゥ……アル、まだ、着かないの?」


 息も絶えだえにマルコが訴えると、先を歩くアルがつかれた笑顔でふり返った。


「……うん。……この先に、見えるはず」


 そう言って彼は、丘の頂上に足を運ぶ。

「フゥーーーッ! あれだ」と、両手をあげ、よく通る声を発した。


 何が見えるんだろうと気になって、マルコも早足で頂上へ向かう。

 緑一面だった景色は様変わりして、眼下には様々な色が広がっていた。


 見下ろすマルコの目にまず入ったのは、正面左手の丘。その稜線に立ち並ぶ、白っぽい石柱と、その間に所々ある石板が見える。

 石柱も石板も、遠くにたくさん並んでいるが、近づけば、一つ一つがかなり大きい物だと思われた。

 それに並んで、左側の頂上に向かって歩く何人もの人々の姿も、一緒に見えたからだ。ここからだと、人の姿は石板に隠れる小動物のように見えた。


 人々が目指す先に目をやると、丘の頂上に古代の神殿のような建物がある。

 赤と青の派手な色の壁のようで、屋根や柱に金が装飾されているのか、昼の光りできらきらと輝いていた。


 一方、右手に目を移すと、丘のふもとには様々な色の天幕が貼られていた。

 こちらは、数えきれないほど多くの人でごった返していて、人々の様々な頭の色が光を反射していた。


 二人は頂上の原っぱに並んで座り、竹筒の水を交互に飲んで、その風景をながめた。

 マルコは、前々から気になっていたことをアルに尋ねてみる。


「……アル。端村はしむらでも思ったんだけどさ。

 この世界の人たちって、髪の毛がみんな、色んな派手な色をしてるよね?」


「そうだねぇ……。それこそ神が望んだことで、私たちは大地をいろどるためにこの世に生まれたんだ」


「大地をいろどる? ……それだけ?」


「いや、それはまあ、後でマルコに説明するけど、神話からのたとえで……。

 もちろん、みんなそれぞれの生きる目的を考えながら過ごしているよ。

 でも、私たちは、ただ生きて存在するだけでも、大地をいろどる役目を果たせている。

 神の意に沿い生きている。

 そういう考え方も持っている」


「それじゃあ……僕なんかダメじゃない?

 派手じゃない、真っ黒い髪をしている」


 その言葉を聞いて、はっとしたアルは、マルコの方を向いて言った。


「そんなことはないよ! 大地をいろどるというのは比喩であって……髪の色で人の優劣など決められるはずがない!

 なんだけど、まぁ……縁起えんぎの良い髪の色。

 また縁起えんぎの悪い色、というのを気にする人たちもいる。

 …………王都の貴族とか?」


 マルコは、北にあるというこれから向かう王都がどんな所なのか、少し想像してみようとした。

 が、水を飲んだせいもあり、ぐうとお腹が鳴る音がする。

 アルが素早く立ち上がった。


「そりゃ、お腹も空くよね。

 こんなに歩いちゃ。

 ちょっとふもとの屋台で何か買ってくるよ」


 彼は丘を駆け下り出した。

 と思うと、途中でふり返る。


「マリスを、その袋から出しちゃダメだよーー!」


 アルはそう叫んで、駆け下りて行った。


 マルコは意外と体力のあるアルに驚いた。そして、彼の髪の橙色オレンジと、法衣ローブの薄灰色が、草原の緑の中で小さくなってくさまをいつまでもながめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る