18 謎を探求する者
崖のふちに腰かけるエルベルトは、
風が葉をゆらし、枝葉がこすれる心地よい音を、のんびり楽しんでいた。
小鳥が飛んできて、彼の肩にとまる。
くすぐったそうに、彼は首を
とその時。
「……ぁぁぁぁあああああ!」
叫び声を上げ、マルコが洞窟から飛び出た。
「よし!」とエルベルトは片膝立ちになり、弓をつがえる。
小鳥は飛び去った。
◇
勢いのままマルコは、丸石の河原で
なんとかふり返ると、洞窟の入り口はぽっかりと黒いまま。
「あれ?」と彼はつぶやき、一呼吸して、緑色の集団が穴からわらわら飛び出した。
「イイィィーーッ!」
「ギァアアアアー!」
「シギイイィッ!」
金切り声をあげ、
緑色の肌に、
手にはお粗末な棒切れや、
日の光にさらされると目は
みな、子どもくらいの背丈だった。
気持ちは悪いが、太陽の下では、マルコは怖いと思わなかった。
エルベルトが、いくつも矢を放っていた。
◇
洞窟の入り口前に、
すべて、頭か胸を一矢で射抜かれていた。
マルコは
手には棒切れや、
子どもと同じ細い腕は非力そうだ。
足も遅いので、逃げるのも簡単だった。
体の下に、黒い血が広がる。
マルコは心でつぶやく。
「マリスの毒。
夜に対峙していれば、あの鳥や森の
「それでも、あのポンペオに
マルコが真剣に考えていると、崖上のエルベルトが声をかける。
「よくやった、マルコ。
今日の作戦は無事終了だ。
なにより、こちらの被害がないのが、喜ばしい––––」
エルベルトがねぎらいの言葉を続けるが、マルコの耳には入らなかった––––。
◇
マルコの頭に、記憶が次つぎ
「セバスティアンは
アルの手紙はこうだ。
「御子息を森で亡くされている」
洞窟のことは?
エルベルトは語った。
「なぜ、アルフォンスがその洞窟を知っていたのか、私にはわからない」
アルは小熊亭で話した。
「長年私は、この近くにその石があるんじゃないかと調査をしていて」
セバスティアンと洞窟をつなぐのは?
それはきっと、エルベルトの言葉通りだ。
「彼自身が
◇
はっとマルコは
「間違いない。
この奥にセバスティアンを誘ったマリス、神の悪意の石がある」
マルコは、そう確信した。
エルベルトは、洞窟を凝視してただならぬ様子のマルコに、戸惑う。
「マルコ、上がってこい。もう、帰ろう」
マルコは、ゆっくりエルベルトを見上げると、泣きそうな顔をしていた。
「あの、うまく言えないけど、僕はもう一度、この中へ入らなきゃ」
エルベルトは血相を変える。
「何を言っている? 正気か?」
マルコは下を向き、自らの鎧に目を落としたあと、再び顔を上げて哀願した。
「もう……鎧をこわしちゃいけない。
もう、セバスティアンにおきたことは……なくさなきゃ。
アルが、僕なら運べるって。
お願い……中を確かめたいんだ」
この顔は見たことがある、とエルベルトは強い既視感にとらわれた。
アルフォンスに紹介されたセバスティアンだ。
初めて森で会った時、髪が赤紫色の青年は泣きそうな顔でエルベルトに哀願した。
「この森を……村を守るために、あなたのお力を、どうかお貸し下さい」
エルベルトは、意志が固くそれをつらぬく青年の顔を思い出していた。
その間に、マルコは洞窟へ走り出した。
エルベルトが思わず手を伸ばす。
「待て! マルコ。アルフォンスが––––」
その言葉は届かないまま。
金の霊の加護をうけたマルコは、まるで、鉄の槍のように洞窟の深淵をつらぬこうと、その身を暗闇に投じた。
◇
暗がりに、赤い光がさまよう。
いくつもの赤い残像が
だが剣がきらめくたび、赤い光は消えて、残像もなくなった。
マルコは、かろうじて見える洞窟の中を走りながら、
だが、マルコは右に左によけると、小剣をふるう。相手に傷を負わせ、または命を奪った。
彼は無心になり、奥へと進む剣そのものになっていった。
「いったいいつまで?」と、マルコはつかれていた。
しかし、何かに近づくことを
ふと棒がしたたかにマルコの
また、あの言葉が浮かぶ。
「彼自身が誘われて––––」
その言葉を、怒りに任せて打ち消したくて、彼はあの時の森の獣のように、
マルコの吠え声におののき、そして何かを感じたように、
洞窟の奥に向かって、みな四つん這いになって駆け出した。
マルコは
しかし、ふと我に返る。
四つん這いで走る
耳をすませば、ザザッという足音に加え、重たいものを引きずる音がする。
マルコは謎の答えを探し求め、走り出す。
壁を過ぎて、目にしたのは、暗いほら穴に浮かぶ四角い入り口だった。
中には、ぼうとした明かりと広がり、柱が見えた。
マルコも必死に駆け寄って、手を伸ばす。
だが入り口はだんだんと細くなり、ガタリと音をたて、完全に閉まった。
辺りは、星のない夜のように真っ暗闇になった。
マルコは、つんのめって地面に
そして、そのままゆっくり
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