白い箱

ゆでたま男

  男は、大変大事そうに両手でその箱を抱えていた 。 

それは、ちょうど腰から胸のあたりまでの大きさほどだった。

真白く正方形で、下の角に黒いシミのようなものがついていた。


 その男は、ふと気が付いた時には私の向かいに座 ていたため

どこから乗ってきたのかはわからなかった 。

 黒いスーツに黒いハットをかぶっており、細身だが肩幅が広くがっしりしていた。


 私はなぜだか分からないが、無性にその箱の中身が気になってきた 。

「その箱には何が入っているのですか?」

 そう尋ねると

「なあに、大したものではありませんよ」

 と、男は箱に視線を落とした。


 そう言われると、余計にその中身が気になって仕方がない。


「いいじゃないですか、見せてください」

 男は薄笑いを浮かべた 。

「では、少しだけ覗いてみますか?」

「はい」


 男は、箱の正面をこちらに向けて蓋を少し開けた。私は首を伸ばしたが

暗くてよく見えなかったので、腰を浮かせて覗き込んだ。

 と、その瞬間全身から血の気が引いた。そこには人の首が入っていたのだ。


 その首は目を閉じていたが、ゆくり瞼を上げた。

そして私と目が合うなり微笑を浮かべた。


 それは、まぎれもなく私自身の首であった 。


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白い箱 ゆでたま男 @real_thing1123

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