放課後
担任の連絡事項が終わった。
静香の面談は結局、今日に変更になったようだ。
また不審者情報。
起立、礼、机を教室の後ろに下げる。
鞄を持って教室を出る。
自分の意志で入っているのに、部活が始まる前は少し憂鬱な気持ちになる。
「結衣ー」
廊下を歩いていると、後ろから静香が話しかけてきた。
「面談は?」
「練習中にちょっと抜ける、微妙な時間だから」
「そっか」
今日は顧問の先生がいないから個人練習、途中で抜けても問題はなさそうだ。
不意に、数学の時間から現れた別の私が、勇気を持って静香に聞いた。
「静香、最近の智花どう思う?」
「どう思うって?」
「いや、どう、って、特になんでもないんだけど」
自分から聞いたくせに自分から萎れてしまう。
「うーん、なんかバレー部忙しそうだな、とか?」
「そっか」
「あ、結衣に最近冷たいとか?」
「え?」
「そんなことない?何かあったのかなあって思った」
「え、何にもないよ」
(本当に何もない)
「それならよかったー、なんか雰囲気ピリピリしてるなあって思ってたんだー」
(静香と智花じゃなくて?私と智花が?)
「いや、何もないよ、そんな風に見えてたんだね」
「うん、あ、バッグ教室に置いてきちゃった、取りに戻るね」
静香は、私から離れ、生徒だらけの廊下を小走りで走って行った。
練習時間が始まった。
今日は音楽室ではなく、教室での個人練習だ。
(静香からそんな風に見えてたなんて思わなかった)
(ほら、嘘だってバレてるんだよ)
フルートをいつも通り、手入れしてから練習を始める。
(私、愛想悪く智花に接しているのかな)
(だって、陰口言ってるの内心嫌がってるよね)
(そんなことない、誰でもそういうところはあるから)
音程を安定させようとする。
(やっぱり同類だよ)
(同類でもいいよ)
(嘘つき)
(仕方ない)
頭の中では雑音が響いている。
嫌悪が、正論が、防衛が、肯定が、否定が、頭の中を駆け巡る。
体に溜まった感情を、口から吐き出し、音にした。
頭の中とは裏腹に、透き通った音が出る。
音は窓の空いた教室を飛び出し、外へ消えていった。
嘘の音色 いありきうらか @iarikiuraka
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