第25話 エストまでの道中

 街道を進むと途中から舗装された道になったが町は遠いのかポツポツ家があるだけである。幸いな事に魔物は出てこない。それに音を上げたのがロッドだった。


「エストまで後どれくらい?馬車が全然通ってないんだけど、さっきの所かなりの田舎だった?」


「そうだな。ノクト村はかなりの辺境だな。大きい町として一番近いエストまで歩いてだと1日くらいかかるな。馬車が通ってる所まであと少しだと思うから頑張れ」


「歩くの疲れたよ~。僕だけ飛翔魔法使っていい?」


「飛翔魔法はかなりの魔力を消耗するだろ?先に行っててもいいが余計に疲れないか?それに俺達が来るのを待ってないといけないぞ」


「それは大丈夫!馬車が通ってる所までだし。待つ間、近くで魔物対峙して…」


 またランスがパコンとロッドを叩く。


「魔物対峙はしばらく休みって言っただろうが。それに町が近いから魔物もあまり出てこないってわかってるだろ」


 大きい町の近くには魔物避けの魔法具が設置されているらしい。


「だって歩いてるだけじゃつまらないじゃないか〜」


 ロッドのごねりが始まった。ランスは余計に疲れたようにげんなりする。


「ねぇねぇ、飛翔魔法って空を飛ぶ魔法の事?」


 キラキラした目で紬が尋ねた。そんな魔法があるならぜひ見てみたいし自分も空を飛んでみたいと思ったのだ。


「そうだよ。空を飛べる魔法!でも自分一人飛ぶのが限界で他の誰かと移動するのは無理なんだよね。浮遊魔法とはまた違うからそこの扱いが難しくて…」


「よくわからないけど、飛んで見せてよ!」


 ロッドの魔法講座が長くなりそうで途中で遮って懇願してみる。ロッドは語り足りないと思ったが気持ちを切り替え、呪文を何か唱えた。するとロッドの体がフワリと浮いて近くを飛び回る。


「わぁ!すごい!いいね!楽しそう!」


 ロッドが空を飛んでる事に感激して興奮する。そして魔法で空を飛べるなら…と思いついた事を試してみる。


 肩掛け鞄からユニコーンのぬいぐるみを取り出した。薄紫色の可愛いユニコーンを馬くらいの大きさまで大きくする。そしてその上に跨りお願いしてみる。


「ユニコーンさん、お願い!空を飛んで!」


 ぬいぐるみのユニコーンは体を一度振るわせてから大きな翼を広げた。

 バサバサと大きく翼を動かし一蹴りすると空へフワリと飛び立った。


「わぁああー!やったぁ~!すご〜い!大成〜功!」


 地面から遠ざかり青空を近くに感じる。下を見下ろすとランスが眩しそうに見上げている。ロッドは興奮してユニコーンの回りを飛び回る。

 空を二回りくらいしてすぐに地面へと降りた。


「ツムギ!すごいじゃないか!」


「空を飛ぶのおもしろかったぁ!ランスも乗って!みんなで空飛んで行こう!」


「待って!僕も乗ってみたい!」


 空から降りてきたロッドも乗せてほしいと懇願する。


「お前は飛翔魔法が使えるだろうが…」


「いいよ~!もう少しユニコーンさんを大きくして…」


 ユニコーンに乗ったまま念じると一回り大きくなった。


「「おぉ!」」


 紬の後ろにランスが乗り、その後ろにロッドが乗る。


「いい?出発するよ~!」


 男性2人が増えたがユニコーンの体も大きくなったので動きが鈍ることもなく飛び立った。


 紬が空を飛ぶのに慣れてないのでゆっくり飛んでもらう。天気が良く、景色も綺麗で遮る物もなく歩くより早く進む事ができる。


「すごい!こんな飛翔の仕方があるなんて大発見だよ!」


 ロッドがはしゃいでユニコーンを撫でつつ魔力構成を調べている。


「こんな方法はツムギしかできなそうだけどな。魔力の消費は大丈夫か?」


「大丈夫。そんなに疲れないからあまり消費してないと思う。この世界には空を飛ぶ乗り物とかないの?」


 森や村しか行ってないがこの世界に来てから空を飛んでるのは鳥と精霊しか見ていない事に気づいて質問してみた。


「転移魔法が主な所にはあるから空を飛ぶのは魔法使いか、精霊や天使族だね」


「こんな移動魔法があるなんて知られたら大事になりそうだな」


「一大事だよ!いろんな所から引っ張りだこで研究にも協力させられるだろうし、大変だろうね。ツムギの魔法はどれも不思議なものばかりだからあまり目立たない方がいいかもね」


 その話を聞き一瞬で青褪める。

 もちろんそんな目に合いたくないので人に見つかる前に地面に降りる事にした。


「ロッドも…本当は私の魔法を研究したいと思ってる?」


 空の飛行を疲れる事なく楽しめて満足なロッドにふと疑問に思って尋ねてみた。


「そうだね。面白い魔法だと思ってるけど、迷い人の魔法は特殊でこの世界の人が使うには無理な理ばかりなんだよね。だから近くで珍しい魔法を楽しませてもらってるだけで十分かな」


 魔法好きだけどロッドがそれで留まってくれる事に安心する紬だった。


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廃部寸前の手芸部員は異世界で愛されます kanata @takanakanata

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