魔王が贈るレクイエム
第47話 【悪意】
たとえ何があったとしても、森の木々を縫った朝日は変わらない洗練された暖かさでもって俺を迎え入れてくれる。
……あまりにもつらすぎた。
頭の中を整理するのにかなりの時間を要した。
いろいろな感情が俺の中に渦巻いている。
ゆっくりと息を吐き、俺は立ち上がった。
小屋で最後の準備を整えた俺はリシュオン山岳地帯を発った。
相手の居場所は不思議なことに理解できていた。
あいつの考えていること。それは最後の仕上げだ。
そして俺は自分がどんな存在かも、やんわりと知り始めている。
敵はそれでも、不気味な存在感を放って俺を待っている。
俺にとっては、村で追放されてから会ってすらいない村人。
だた育ててもらった恩のあったはずの人間のひとり。
――――ヨダ。
俺がこうして彼の元へと向かっているということは、彼の中でパズルのピースが揃ったというのか、カードが揃ったというのか、どちらでもいい。
全ての落とし前をつけさせるつもりで、俺ははじまりの村、ココ村へと向かった。
「村。あんまり変わって、ない?」
幾日か経て、ココ村には正午ごろに到着した。
村の中の雰囲気はまるであのころ時間が止まったかのように平和な空気が流れている。
しかし、村人は一人もいない。
静かすぎる。
俺は村の中を歩き、あの場所へと向かう。
星の見える、あのいつもの丘へ。
奴はまるで風景に溶け込むように、自然と存在していた。
「遅かったじゃないか。早かったね私のもう一人の息子ベル。まあ、じつのところ君は私の息子じゃないが」
「…………ヨダ」
黒幕は椅子をひとつだけ用意して丘の上で佇んでいる。
まるで俺がここに来ることを予測していたかのように、満足げな表情を浮かべていた。
座るでもなく、椅子の背もたれに体重を預けるようにして、小太りの体を寄りかけこちらを眺めている。
まるで普通の中年男性。
彼が俺の全てを奪った元凶だ。
俺はコイツを葬りにきた。そのためにここまでやったきた。
ヨダはゆっくりとした口調で口を開く。
「ここにお前が来るのも、私の悪意の通りなのさ。もしかして、ベル。私を殺しにきたなんて考えているんじゃないかね?」
「……そうかもな」
「心外だな。私は殺されるようなことは何もしていないんだよ?」
「ぬかせ。全てに貴様が関わった形跡がある。マイアーから情報も得ている」
「ああ、法国のお偉い方だね、知っているよ?」
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「彼ね、処分されたらしいよ?」
「…………」
「いやいや、睨まれても。私は指示していないよ。いろいろ嗅ぎ回るのはリスクがあるよね。偉い人も大変だなあベル?」
「貴様……」
ヨダは溜息を吐き。
ゆっくりとした口調で続ける。
「とりあえず椅子も用意した。座りたまえ」
「なんだと?」
「間違ってもらっては困る。君は地面だ」
「……がはっ!?」
みぞおちに激しい衝撃。
俺はいつの間にかヨダに腹を蹴り上げられていた。
どうやって、ここまで瞬間的に移動した?
奴から目を離さなかった。一瞬たりとも油断しなかったのに。
俺は倒れこみ、地面にひざまずく。
満足そうにヨダはそのまま、自らが用意した椅子に腰掛け脚を組んだ。
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「何から話そうかベル。時間はたっぷりある。止めたり巻き戻したり、まるで自由自在だ。クロードが根性無しだったせいで数秒がいいところだが、まあいいとするか。その分、ミカエラちゃんの完成度は素晴らしかった。私がココ村で君たち三人を引き合わせ、勇者パーティに組み込まれるよう仕組んだのには気付いているな?」
「魔神……計画か?」
「おっと君は喋るな。私が好きな話題を話すことにする。君の頭は今から私の靴置き場だ」
「ぐぅっ……」
いつの間にか、俺は地面に転がされていた。
ヨダに顔を踏みつけられ、地面にこすり付けられる。
ヨダの動きが認知できず、いつの間にかそうさせられている。
クロードが使うはずだった時間操作の力か?
何故貴様が使っている?
短剣で顔の上にあるヨダの足を切り落とそうとするも、一瞬にしてヨダが座る椅子の位置が動く。
地面に転がされる俺の真横で、足を組みながら椅子に座るヨダ。
今度は背中をぐりぐりと踏みつけられていた。
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「んーどうした? 【ワールドマジック】は使わないのか? もう使いたくないのか? 優しいな。おじさんを殺さないでな?」
「くっ……ふざけるな」
「ところで、【悪意】とはなんだと思う、ベル?」
「ベル。お前は靴置き場だから答えなくていい。悪意とは、人を殺すような大それたものではない。人を犯すような劣情にまみれたものではない。例えばそうだな。君は武器屋で剣を買うだろう。銀貨8枚と銅貨13枚だ。そんな時、アホで間抜けな武器屋の主人に「今日は飲み屋あの可愛い子のシフトの日ですね」とかどうでもいい話題を振って主人の意識を一瞬飛ばし、銀貨8枚と銅貨12枚を出す。主人はそれを数えずにもう飲み屋のあの子のことばっかり考えて、銅貨たった一枚をだまし取られる。それが【悪意】の本質さ」
「わかるかいベル。悪意はどこにだって、誰にだって潜む」
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
俺の背中に足を置いたまま、ヨダは弁舌口調を続けている。
「今度は私の話をしよう。私はこう見えて結構普通の人生を歩んでいてね、人を殺したことがない。君と違ってね。私は幼い頃より、【人間】が嫌いだった。どうしてだと思う? それはね、人間が悪意の塊だからさ。そして私が悪意の本質だからさ。同族嫌悪というやつかな? そう気付いたのは、そうだな。君という存在にふと気がついてしまったからだと思っているんだ」
「君というやつは、どうやら過去を遡って存在しているらしい。漆黒の魔法使いだの、ほか数多の偽名で戦争を止めたりなんかむず痒い活躍をする謎の存在。私は思った。ああ、この存在ならば間抜けでどうしようもなく救いがたい愚か者。私は大好きになれそうだ」
「勇者と魔王を自分でやる? どうやったらそんな恥ずかしくて無為なことを思いつけるんだい? 君は一体これまで何を見てきた。人間なんて、戦争で死んでナンボだろ? 派手な花火のように人間は死なないと駄目なのさ」
「そんなことはない!!」
思わず俺はヨダの言葉を否定する。
顔を何度も土足で踏みつけられる。
嬉しそうに顔を綻ばせるヨダ。
しかし今まで死んでいった者達を侮辱されるのは我慢ならなかった。
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「気がついているかい? 君の力の源は【希望】さ。人の希望を信じる力が集約されて、えっとなんだっけ?【ワールドマジック】か。が発動する。それと、【転生】な。種明かしすれば、クロードが【絶望】でミカエラちゃんが【愛】だね。人間の強い感情を力に変える。これが魔神計画の本質ってところだな」
「見たまえベル。これが【絶望宝珠】と【愛宝珠】。ミカエラちゃんやクロードが頑張った力は全てこちらに蓄えられていて他のは副産物だ。これもね、私がたまたま見つけてしまったものなんだ。私は単なる村人だけど、たまたま誰かの悪意によってもたらされたこの宝珠をたまたま行った法国の古物商で、たまたま魔が差して盗んでたまたま使い方を知ってしまっただけなんだ。玉だけに」
「ただの村人が世界の根幹をひっくりかえすような国宝以上のアイテムを偶然に手に入れてしまうなんて、悪意以外に考えられないよな、ベル?」
ヨダは懐から何かを取り出した。
ヨダが見せびらかすのは、淡く綺麗な光を放つ宝石のような石の玉だった。
楕円形で、純粋な輝きを放つもの。
ひとつは紫で、ひとつは桃色。
おもむろに、ヨダは【絶望宝珠】と呼んだ淡く紫に光る玉を口に入れ、飲み込む。
苦い薬でも飲み込むような顔で、
「クロードのはやっぱりマズいな。失敗作だ」
そして桃色に光る玉【愛宝珠】を飲み込む。
口の中でねっとりと転がし、
「なあ、ベル。ミカエラちゃんの方は成功だよ。とてもピュアな味がする。おいしいぞ?」
「――殺してやるっ」
――ドガッ!
俺はヨダに顔を蹴り上げられ、地面に転がされる。
くそっ。くそっ。
「はい喋らなくていいぞ。別に舐めまわす必要はないんだ。でもこうすればミカエラちゃんの大事なところを味わえるじゃないか?」
「やめろ!!」
「やめろ? それは力ある人間が口にする言葉だ。お前は今、私の靴置き場なのだからその言葉はおかしいな。全ては私の手の内だというのに。クロードも、ミカエラちゃんもすこしの【悪意】で私の思い通りさ。例えば、ミカエラちゃんはベル。君に告白する勇気が無かった。だから私が「ベルは大きくなったら村を離れる気かもしれない。だってそうだろ? 彼、壮大な男だから」とか適当な悪意を振りまいておく。可愛いよなぁ。それで君のお嫁さんになるんだってなぁ? クロードはもっと単純だ。あいつには力を与えた。その結果がお前の追放に繋がる。そしてお前もだぞ、ベル。今日、ここまで自分でやってきてくれたじゃないか」
ニタニタと嗤うヨダはとても嬉しそうにしている。
歯を食いしばり悔しさで口から血を流す俺を、満足そうに見下しながら。
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「そして私が君の前にわざわざ出て来たのには理由があるのだよベル。まあ、君もそれくらいには気が付いているとは思うけど」
「そういえばミカエラちゃん、エロい女の子だったな。どうして三年間一緒に冒険して何も手を出さなかったんだい? クロードにはあんなにギシギシアンアンやられちゃったのに。もったいなくない?」
「そういえばおじさん、ミカエラちゃんの小さい頃お風呂覗いたことあるよ。綺麗だったな。エロかったな。やっぱり一回くらいはやっとけば良かった。ベルくんのためとか言えばヤレた気がする」
「――――ッツ!!」
「希望の光には影がつきものだ」
「ミカエラちゃんを殺したのは、私じゃない。思い返してみたまえ」
「あんなに可愛くて愛くるしいミカエラちゃんに止めを刺したのは、何を隠そうまぎれもない、ベルだ!!」
詭弁だ。
ヨダの言葉は破綻している。
こいつが関わらなかったら、誰も不幸にならなかったはずだ。
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「村人、ぜんぜんいないだろう? 極悪非道な魔王ベルヌを育てた村の人間ってことで、全員処刑されたぞ?」
「ホワイトプラムだかいう冒険者は、紫水晶の虜になった魔物に襲撃されて全員戦死したぞ?」
「ダンダリオスの守衛はどうだろうな? 学校自体が今、消えてるんじゃないか? あそこはもう戦争地帯だ」
「嘘だ!!!」
「嘘じゃないぞ? ログザが言っていただろう? 法国はずっと戦争したがっていた。マイアーは自国にそんな資金力がないを知ってバランスをとっていたけど、今、彼はいない。手始めに中立地帯であるダンダリオスを制圧し拠点にする。何もおかしな理屈ではないだろう?」
「帝国アデウス家の15番目の皇女が、帝国領のはずれで野盗に攫われたらしいぞ? そんな辺鄙なところで何をするつもりだったんだろうな? 誰を探していたんだろうな? 今じゃもう野盗に……美しい娘と聞いていたから可哀想だ」
「ベル、お前と関わるとみんな死ぬな? どうしてだろうな? な?」
ヨダは嬉しそうに嗤い、再び俺の顔を地面へと擦りつける。
苦しそうに呻き歪む俺の顔を見て、ヨダはケラケラと下卑た笑い声を上げて。
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「人は希望に、光に蟲が吸い寄せられるように寄り付き、そして羽を焼かれ地面に落ちる。私が手を下さなくともベル、お前はそういう存在だ」
「光に近づけば近づくほど影は大きくなる。その影からは決して逃げられず、人は時間からも逃れる術を持たない。だから人は【悪意】に勝てない」
「悪意を向けられた人間は善意を信じられない。だから、絶対数的に悪意は有利にできている。万物、生物が外界からのストレスによって変化、成長するような仕組みになっていることからも明らかだろう? 人間は君のような希望の善意より【悪意】を向けられたほうが落ち着くんだよ」
「……そうとも、限らないっ!! ヨダ、貴様が関わって調節した結果をこれ見よがしに言うな!」
「限るさ。確かに私は関わった。手を下さず、方向性を示すという意味で関わった。村の中、外、あらゆる場所で人の悪意を調節してやった。だが、別に私が関わらずとも悪意は勝っている」
「ベル、君の両親のことだ」
「君は希望を力にするくせに、君の両親は……私が一切関わらずして戦争で巻き込まれ勝手に死んだ」
「何……だと?」
「ベル。君が私のところに来たのは、偶然の産物だと言っている。これでも、【悪意】を否定できるか?」
「人間の悪意によってベル、君が私の元へともたらされた。そして私は私の計画を実行した。君のくだらない魔王と勇者の絵空事を利用させてもらってね」
「これはまぎれもない【悪意】じゃないか? 君に対する世界の悪意だとは思わないか?」
俺の両親は戦争で死んだ。
ヨダが関わった話を聞いて、もしかしたらこの男のせいで処分されたのではと考えていた。
しかしホントウに俺の不注意で死んだとしたら?
そして俺は、偶然ヨダの家に貰われたとしたら?
そのせいで、ヨダは計画を実行しようと決意したとしたら?
「全ては君のせいだよねえ?」
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「さらに残念なお知らせなんだけど、お前は人間ですらないぞベル」
「何を言って……」
「いいかいベル。人間とはなんだ?」
「人間は……」
「はい時間切れ。いいか、人間は死ぬもの。人間が生まれた意味など、死ぬことのみ。これが真理なんだ。他の理由を挙げているやつはだいたいこの事実から逃げたいだけの現実逃避者さ。この星の表から裏まで見回して、人間の命に平等に与えられているものってなんだい? ほら、死ぬことだろう? 金、物、友達、恋人、権力、家族? そんな不公平なものに意味を見出してる奴らは【悪意】があるだろ? 生まれてすぐ死ぬ命だってあるんだからなあ?」
「でも……」
「その点、ベルはなんかおかしいな? 死んでも、転生して生き返れるんだっけ? あれー? おっかしーなー? お前? それ、人間じゃないぞ。お前はなんだ、お前、何者だ?」
「ううっ」
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「お前は
ヨダは嗤っていた。
俺をひとりぼっちと言って嗤っていた。
俺の周りの人間はみんな死んでしまう。
俺を残して死んでしまう。
俺が
――最初から俺は人間じゃなかったのか。
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「それで、最初の方に戻ろうか。私がこうやって出て来た意味だ。まあベル、君は最初から希望の魔神だったわけだ。どうりで絶望なんかしないわけだ。私も最初は君の本質を見誤りそうになってね。クロードに絶望のほうは担当してもらったんだが全然駄目だったね。あれは役立たずだ。君を好きだったのにね」
「クロード……が?」
「そうだよ? 気持ち悪いよな。私も吐き気がするんだが、あいつは本気でベルを好きだったらしいよ? だからミカエラちゃんに酷い事をして二人の仲を切り裂きたかったんだって。まあそのお陰でミカエラちゃんは完成したけど肝心のクロードはミカエラちゃんの尻にしかれちゃってね。クソだよ」
「…………」
「気がついていなかったか? まあいい。話がそれたな。私の目的は君を助けることだよ、ベル」
ヨダは悪びれもせず、俺に対しそう言い放つ。
俺を助けるだと?
どの口で、どういう思考回路でそんな発想が出てくるんだクソ野郎!!
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「四天王……人外を傍においてまで人間ごっこをやりたかったもんなあベルよ。私がお前の気持ちをこの世界で誰よりもわかってあげられる理解者だ。ベル。正直になりなさい。お前は生きるのがもう辛いんだろう? だから、普通の人間よりも死ににくい奴らを近くに侍らせた。そして人間もやりたいから、勇者パーティなんてものもやり始めたんだろう? 実に愚かな企みだよ。とても人間からかけ離れた、希望の欲望にまみれた発想だよ」
「違う。俺は、もう誰にも死んでほしくなくて――」
「みんなお前のせいで、お前を守って死んだじゃないか。大丈夫。私こそお前の希望だぞ、ベル。いいかい、今回ベルの周りで死んだ人数を数えてみればいい。世界中で今も死んでいる悲しい命の数に比べれば、カスみたいな数だ。両手で数えられるだろう? 何故だ? それは私が、君のために丁度いい【悪意】を振りまいてやった結果さ。最低限の必要な犠牲さ。ここまで到達するための必要経費さ。どうしてそんなに反応する。悲しむ? ミカエラだから? アリスだから? 今でもこの星の裏側では、悲しく散っていく命はあるのにそれは無視? 彼女たちのためしか闘えないのか? ベルはずいぶんとわがままなんだな」
「違う……」
「違わないぞ。ほら、
【
「……うぁあああぁっ」
「はぁ。いい加減認めるんだ。ベル。お前はもう【希望】なんてうんざりなんだよ。その気持ちよくわかるよ。胸焼けしそうだよね。私はベルの気落ちが痛いほどわかる。で、ここで提案だ」
ヨダは顔の前で手を組み、ゆっくりと笑みを浮かべる。
そしてゆっくりとした口調で続けた。
「ベル。君、死んでくれ」
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「私が二つの宝珠を飲み込んだのには理由がある。これで君よりも確実に強くなったということだ。この世界で誰にも負けないということだ。何故なら、クロードとミカエラちゃんの能力を使えるということだからね。そしてこれ。残った【希望宝珠】にベル。お前の力を受け渡して欲しい。これは【希望の悪意】として言わせてもらおう。喜んで死ね」
ヨダは透明な、楕円形の宝珠を取り出した。
形は先程飲み込んだ二つと同じ。
あれが希望の宝珠だというのだろう。
「きっと希望宝珠に能力を吸わせれば、君はもう二度と転生しないぞ。それってかなり素敵なことじゃないかな? このまま存在しても君のせいでかなりの人が死ぬし、悲しむし、打ちひしがれるこの世界から君が消え去れば、きっとそれは人間になったってことの証明になると思うんだ。だから頑張って死ね」
ヨダはほくそ笑んでいる。
――あともうすこし。もうすこしでベルは希望をもって死を受け入れるだろう。
彼が望んでいた安寧だ。
そして私は完全なる神となる!!!――
ヨダはゆっくりとした口調で続ける。
「死ぬことだけがお前の希望だベル。
死に対して最高に希望を持った状態で死ね。それが一番人間らしいぞ?
自殺はとっても人間らしいじゃないか。今だってこの星で誰かやってることさ。
重要なのは、それがお前の希望になることだ。
最高に希望をもった状態なら、この宝珠も完璧な状態となるのだよ。
転生を繰り返すひとりぼっちのお前にこのままだと救いはない。
私の言うことだけが、お前の救いなのだ!!
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」
ヨダは口の周りに白い泡をつくりながら、同じ言葉を繰り返した。
その言葉が俺に一番のダメージを与えると知っていて、勝ち誇った嗤いを浮かべ。
ひとりぼっち
しね
ひとりぼっち
しね
ひとりぼっち
しね
ひとりぼっち
しね
ひとりぼっち
しね
そして、ゆっくりと。
俺はゆっくりとヨダに向かってこう言った。
「ヨダおじさん。はいお水。いっぱい喋って疲れたでしょ?」
「ああ、気が利くなベルは。冷えている。
ヨダはグラスに入った水を口に運び……。
慌てて焦ったように椅子ごと俺から距離を取る。また時間を止めて動かしたらしい。
椅子から転げ落ちそうなほど飛び上がったヨダは、心臓が縮みあがったような顔で俺のことを見てくる。
一体、何をそんなに驚くことがあるんだ、ヨダ?
「いつからこのグラスを用意していた? いつから持っていた!?」
「さあ。最初からありましたよ」
「…………お前。ベル。私に何か隠しているな? 私が世界で一番優れる魔神であるこの状況で、一体何を仕掛けようというのだね?」
「ただの【善意】ですから。お水、飲んでくださいよ」
――――俺はゆっくりと立ち上がった。
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