第42話 いつも三人だったよね
アリスとひとつになった後、俺は泥のような眠りについた。
まるで緊張の糸が切れたようになった俺の意識は睡魔に誘われ、アリスの調節を終えると同時に眠りに落ちた。
そういえばあれから、あまり眠っていなかったな。
彼女に癒され、復活した
俺は本当に仲間に助けられっぱなしらしいな。
…………。
「はい。ヨダおじさんお水だよ」
「おお、ベル。君は気が効くな。とても冷えている! 魔法でも使ったのかい?」
「内緒だよ」
「はは、内緒か。今日の畑仕事はここまでにしようか」
ココ村は平和な村だ。
世界的にみても、その平和さはぬきんでている。
俺はたまに自分が転生を繰り返している人間であることを忘れた。
手伝いで畑を耕し、家畜の世話をする。
農業は大好きだし、自然が豊かなのはいいことだ。
「待て。まだ終わっていないぞベル。剣をかまえろ」
「もう俺の勝ちだクロード。終わりだよ」
「勝負はこれからさ。君は僕に負けるのが怖いのか?」
「別に。じゃあ俺の負けでいいや」
「駄目だ。君の負け勝ちは許さない」
「どうすりゃいいのー? 助けてくれミカエラ!」
ヨダさんちの農作業の手伝いを終え。
俺とクロードは木剣でチャンバラだ。
剣術の稽古といっても、道場もないココ村で出来るのはヨダさんち=クロードの家の庭でする木剣での型練習ぐらいだ。
だというのにクロードは俺に稽古という名の勝負を挑んできて、いつもこうなる。
知識としてあらゆる剣術の型や技を知っているチート戦士である俺からすると申し訳ない。
剣士として才能があるわけじゃない。生まれたときから知っているだけなんだよ。
俺に振られたミカエラはオロオロと困ってみせ、結局にぱっと笑ってごまかした。
つーか、男二人に混じって何が楽しいのだろうか、あの子は。
同年代はいないにしろ、年上のお姉さんとか遊ぶ相手はいるだろうに。
天使のように可愛いミカエラって有名なんだから、相手してもらいなよ。
「余所見するな、ベル!」
「はいはい。クロード、いい加減にして飯にしよう。風呂にも入りたい。朝から働いてベトベトだ」
「……そうか。なら、風呂に入ろう」
「お、もう諦めんのか?」
「違う。休戦だ! ベル。君は僕の頭を洗え!」
「は? 自分で洗えよ」
俺とクロードは一緒に風呂に入る。
さすがにミカエラは誘えない。
可愛い娘だけど、いや、誘えばいけそうな歳ではあるけど。
合法的にミカエラの裸を見れるかも。
ちょっとそれはやってはいけない行為のような気がする。
ミカエラの方を見ていたら、可愛らしく首を傾げた。
おまえ天使かよ。
やっぱ無理だ。
あんな純真そうな娘にそんな狼藉は働けない。
「お湯は勝手に使っていいからな。ゆっくり入りたまえよ」
「ありがとうございますヨダおじさん」
「ありがとうお父様。助かります」
「ミカエラちゃんは残念だったねー。おじさんとこっちで話そうか? ベルのお・は・な・し」
「ざ、残念じゃないですっ!! なんですかベルくんの話って!」
クロードと一緒に風呂に入り、その後は夕飯を食べる。
毎日お湯を使えるほど裕福なのはこの村ではクロードの家ぐらいだが、不思議と妬まれていない。
ヨダおじさんは金持ちっぽくない。
腰が低すぎるような気もするが、生きるのが上手い人間だと思う。
俺は今回、産まれてすぐ失敗して両親を失った。
そんな俺を善意で助けてくれたのがこのヨダおじさんだ。
どんなに強い力をもって生まれても、赤ん坊のまま放り出されればそのまま死ぬ。
四天王に回収してもらうという手もあったけど、彼らは俺が人間として生きていくように望んでいるから。
あまり彼らに迷惑もかけたくないしな。
勇者と魔王の話、どうしようかな。
もし実行したら、世界は平和になってくれるかな?
夕飯を食べ終え、与えられた部屋に戻り寝転がっていると、いつのまにかクロードが頭上あたりに立っていた。
「ベル、今日も星を見に行くかい?」
「また?」
「……ミカエラも来ると言っていたよ?」
「だったら行く」
「そうかい。伝えておく。喜ぶと思う」
おい伝えておくって。ミカエラ来るんじゃねーのかよ?
なんだその顔、クロードの奴、自分から誘うくせに腹立つな。
いつも仏頂面してるけど、女にはモテる。
クロードは女心がわかるっていうか、大人びてる感じがするな。
同年代の俺たちからすると、どう考えてもあいつだけ抜けてる。
だけど俺と剣術の稽古とかする時はやっぱガキだな。
一方ミカエラは歳相応というか、引っ込み思案すぎる。
年下からいじめられるのをどうにかしろ。
流石に毎日助けるのは骨が折れる。
あきらかにクソガキ共の好意の裏返しなんだが、可愛いってのも罪かもな。
と、まあ。クロードを待たせるのも悪い。
俺は軽く支度を済ませ、小高い丘へと向かうことにした。
「おそい」
クロードは玄関でぷんすか怒りながら待っていた。
二人で丘に向かう。
ミカエラは飲み物を用意して先に待っているとのことだ。
クロードの家からは軽い軽食、赤兎の肉を挟んだパンでも持っていくか。
友達と食べる夜食はなんだかワクワクする。
まったく、何歳だ俺は。
「なあ、ベル。魔王って本当にいると思うか?」
「な、なんだいきなり。いるだろ? 伝説になってるんだから」
「そうか。赤ちゃんでも知ってるような話だもんな。僕も信じている」
「はははクロード謎だなおもしろい」
なんだこいついきなり。
クロードはたまに意味深なことを聞いてくる。
こういう奴なんだと知ってるけど、なんか焦る。
不思議な微笑みを浮かべているが、こういうミステリアスな所が女に人気なのか、わからん。
見習うべきなんだろうか。やれやれ。
「ベルくん! クロード!」
いつもの小高い丘で、ミカエラが待っていた。
満天に広がる星空を背後に、満面に微笑む彼女はまるで天使。
やってきた俺達の姿をみつけて小さな手をがんばって振っている。
いくらこの村が平和だからといって、あんな子をこんな夜に一人で送り出すな、両親。
まあ、俺がいればどんな敵がきても平気なんだけどな。
ああ見えて意外としたたかな所があって、ミカエラは両親に内緒で家から抜け出してきたみたいだ。
引っ込み思案に見えてこういう時の行動力がすごい。
飲み物もちゃんと作って持ってきてるしな。
「僕はミカエラの隣。ベルは僕の隣だ」
「えっ……でも、ベルくんは私の隣……」
「ミカエラ。僕は真ん中がいい」
「うぅ。わかったクロード」
強引なクロードは俺をミカエラから遠ざけて座らせたがる。
間に入って、ミカエラの隣を独占しようとするんだよな。
気持ちは分からんでもない。あの年頃で、ミカエラが隣にいたら俺もそうする。
ミカエラは困った顔でうるうるしている。
ありゃ反則だ。いじわるしたくなるわ、そりゃ。
俺は大人なのでクロードの隣で我慢しようか。
ミカエラの作ってきた甘いミルクを煮詰めた紅茶を飲みながら、持ってきたパンをかじる。
世界の不思議なものの話とか、魔法を使えたら何をするか。
学校とはどんな場所なんだろう(ココ村はボロい教会で勉強する)など、とりとめのない話ばかり。
とても楽しい。
こんな子たちと一緒に世界を冒険できたら、幸せだろうな。
そういう話をするときは仏頂面のクロードも微笑みをみせる。
布を地面に敷き、三人で寝転がる。
この丘から上を眺めると、視界いっぱいに星空が広がる。
まるで宝石をぶちまけたようで、きらきらと輝いている。
あの星たちは何で光るんだろうな?
「きっとお星様がお互いにわかるように光ってるんだよ。だって、夜は暗いから会いにいけないでしょ?」
「あれは今までに死んだ人の命だと思う。だから、あんなにも冷たく燃えるんだよ」
「真っ暗にならないように、光ってくれるんじゃないか? どんなに暗い世界でも、あの星たちがわずかな光で照らしてくれるんだ。だから生きていける」
はい。完全に意見が分かれました。
なんか、一番長く生きているはずの俺が一番ボンヤリしたことを言ってしまった気がして頬を掻いた。
特にクロードの感性には驚かされる。死んだ者の光、か。
そしてミカエラ。俺の方を見ないでくれ。そんなに見つめないでくれ。
俺、おかしな事を言ったから。恥ずかしいから。
今回はミカエラが一番可愛いことを言ったな。
俺達は顔を見合わせ笑いあい、寝転がって星空を眺め続ける。
ふと、俺は二人に尋ねてみようと思った。
「なあ、大きくなったら何になる?」
村人のとれる選択肢なんて少ないけど。
クロードとミカエラには幸せになって欲しいな。
そんな世界をつくってあげたいな。
そうすると、急にミカエラが立ち上がる。
顔が真っ赤だが、どうしたんだ?
「大きくなったら、ベルくんの――――」
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