第9話
「君の妹は何時まで生きてられるかな?」
冥が朝方の微睡の中でわたしに呟く。決められた運命に決められた未来。そんな言葉がよぎった。朝目が覚めると気分は最悪であった。冥の言葉が残り、わたしは頭をカリカリとかく。
うん?
背中の聖剣がうずく。わたしは聖剣を手に取り見つめる。聖剣は一つの願いしか叶えられない。聖鏡は聖剣の勇ましさで輝き、すべての願いを叶える。
…………
洗面台で顔を洗っているとタチバナが来る。
「ハロー」
「うん、おはよう、お姉ちゃん」
妹のタチバナはわたし以上に眠そうである。これは妹ラブな一枚が撮れそうな予感と。わたしは大慌てでスマホを探す。
「君の妹は何時まで生きてられるかな?」
またである。冥がわたしに話かける。その声は暗く闇に満ちていた。
「冥!何処なの?姿を見せなさい!」
冥の姿は見えず、言葉だけが頭の中で響く感じであった。
「どうしたの?お姉ちゃん?」
落ち着け……タチバナの目の前だ。ここでパニックになってどうする。
「ジョブ、ジョブ、お姉ちゃんは元気ですよ」
「ホント?顔が真っ青だよ」
心配そうにしているタチバナを見てわたしは少し落ち着きを取り戻した。そうだ、妹ラブな一枚を撮って気分を変えよう。
「はーい、子猫ちゃん、こっち向いて……」
「お姉ちゃん、バカなの?心配してあげているのにふざけて」
などと言われながらも妹ラブな一枚を撮るのであった。タチバナは不機嫌になるがなんだかんだ言っても一枚を撮らせてくれるのは嬉しい事である。
「もう、分かっているはずだよ、君の妹が闇に呑まれて、長くは生きられないのは……」
冥の声が聞こえる……そう、わたしは認めたくなかった、聖剣の重さが増し何か悪い事の前兆であることが感じていたのである。わたしは……聖剣を手にすると一つだけ願いが叶う事を思い出していた。聖剣が重い……。まるでタチバナの闇に反応しているかである。聖剣に募りし百万の闇……。
「聖剣はその持ち主の輪廻転生により闇を集めて、その時の持ち主を喰らう。それでも聖剣は聖剣……一つだけ願いを叶え。また、聖剣は転生する」
冥は朝の目覚めの悪い時に聖剣の闇について語り始めた。わたしは妹コレクションを見直す。あんなタチバナやこんなタチバナが写っている。それはせめてもの安定剤である。
「タチバナ……」
わたしが妹コレクションを見て心を落ち着けていると。また、冥が語りだす。
「聖剣の闇は君の妹を殺す。しかし、君の聖剣への願いは妹の生を望むだろう。そして聖鏡……聖鏡の出現は予定外。聖鏡は世界が滅びかけているだけ、君は世界のすべてと妹を天秤にかけることになる」
「それは凄い、タチバナを見捨てて、世界の救世主か」
…………
「どうした?」
冥の問いに目をそらす。
「できる訳がないだろう、タチバナを見殺しにするなんて」
小声で冥に訴えかけるが返事は無かった。
「お姉ちゃん、遅れるよ……」
部屋の外からタチバナの声が聞こえる。平凡な日常の始まりである。
そう、平凡な……。
「限られた日常、君にとっては残り少ない妹との日々だ」
冥の皮肉にわたしは、わたしは……。
「おうよ、タチバナ、今、行くよ」
わたしは朝の支度をして偽りの平和な日常に向かうのであった。フリルスに呼び出され学校の屋上で静かに待つ。屋上のドアが開きフリルスが現れる。いつもは見えないはずの聖鏡を手に持っている。
「姫お姉様、呼び出した理由はお分かり?」
「えぇ」
「わたしは聖鏡の巫女その願いはいつも世界の為、幾度となく滅びかけた人類の為に輝く、その願いの為に聖剣の勇ましさが必要……聖剣の巫女よ、その願いに答えるか?」
「否な、わたしは妹の為に輝く。聖鏡の巫女よ、諦めたまえ」
フリルスは口を堅く結び青き空を見上げる。立ち去ろうと足を動かした瞬間にフリルスが言葉を放つ……。
「世界より妹が大事か……姫お姉らしいです」
「別れの時か?真名だけでも聞いておこうか?」
フリルスは答えなかった。
「姫お姉様、お待ちしています。世界の敵となったタチバナさんからの答えと共に……」
世界の敵か、まるで死神だな……。そして、闇の重なる場所を探す。中庭か……。聖剣への願いはタチバナの命、たぶん交換するモノはわたしの命……それでもわたしは妹を救う事を願う。中庭に足を踏み入れると闇が重なる。タチバナに闇がとりついている。
「聖剣よ、我が願いを叶える為、輝きたまえ」
聖剣の一瞬のきらめきとともにタチバナの闇がわたしにおおいかぶさる。
「お、お姉ちゃん?」
「気が付いたか、お姉ちゃんですよ」
「最後までまったく」
タチバナは右手を上げると闇が重なる。
「わたしの願いはお姉ちゃんの無事なことだよ」
……うん……???
タチバナの願いに聖剣が輝く。
「言ったはずだよ、その剣は呪いの剣ではなく聖剣だと」
冥の声が何処からか聞こえてくる。聖剣の輝きによって闇は消え、時が止まった様に静かであった。
「やっぱり、お姉ちゃんはわたしを選んだ、聖剣が聖剣でなかったら、どちらかが死んでいたよ」
やはり、妹のタチバナにはかなわないなと。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんには待っている人がいるはず」
「あぁ、行ってくる。ちょいと、世界を救ってくるよ」
わたしは歩き始めた。タチバナと共に生きる世界を救いに。
愛・聖剣の巫女 霜花 桔梗 @myosotis2
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